小指から薬指までの距離

小指から薬指までの距離

　指輪ゆびわというと高級品こうきゅうひんってイメージがあって、でも実際じっさいは結婚けっこん指輪ゆびわでもない限かぎり、そんな極きょく端たんに高価こうかなものをつけて歩あるいたりはしないのだった。世よの中なかには十本じゅっぽんの指ゆびの全すべてにダイヤ付つき指輪を装着そうちゃくする人ひとも、居いるっちゃ居いるんだろうけどさ。

「高たかい値段ねだんのものを見みてても仕方しかたないよ。それは、またいつか。ね？」

　ジュエリーショップで、未練みれんがましくマリッジリングを見みている私を、そう言いってパートナーがなだめてくれた。うー、買かえるものなら買かいたい。給料きゅうりょう三さんか月げつ分ぶんのお金かねで指輪を買かって、パートナーに愛あいを伝つたえたいものだ。



　今日、お店みせに来きたのはペアリングが欲ほしかったからで。一応いちおう、事前じぜんにショップには、女性も・の・のペア購入こうにゅうでもペア用ようの箱はこに入いれてくれることを確認かくにんしている。店員てんいんさんから「ご試着しちゃくされますか？」と聞きかれて、指輪も試着しちゃくって言いうんだなぁと、変へんなところで私は感慨かんがいに耽ふけった。私の指ゆびが、一足先ひとあしさきにウェディングドレスを着きるみたい。

「小指用ピンキーのリ指輪ングも悪わるくないね。お揃そろいの物ものをつけるのって嬉うれしいな」

　パートナーが、そう言いってくれる。私よりも高収入こうしゅうにゅうの素敵すてきな女性ひとで、彼女からすれば、玩具おもちゃみたいな値段ねだんの指輪に過すぎないのに。二人ふたりで試着しちゃくを済すませて、ピンキーリングをペア購入こうにゅうして。ペア用ようの箱はこに入はいった指輪を、優やさしい笑顔えがおで店員てんいんさんから渡わたされて、とても簡単かんたんに私は幸しあわせな気持きもちになった。



　高級こうきゅうっぽい紙袋かみぶくろの手提てさげに指輪を入いれて、パートナーとの家いえへ帰かえる。この中なかに二人ふたり分ぶんの幸しあわせが詰つまっているようで、いつまでも持もっていたかった。そう言いったら、「いや、それじゃ指輪の意味いみがないから」と笑わらわれたけど。

　もっと幸しあわせになれる指輪を、いつか一緒いっしょにつけてくれる？　そう私が尋たずねる。

「もちろん。それまでは、とりあえず小指こゆびに指輪をつけましょう。運命うんめいの赤あかい糸いとで結むすばれてるわよ、私たち。何なにも心配しんぱいいらないわ」

　ピンキーリングは願ねがいを叶かなえてくれるという。私とパートナーは幸しあわせで、更さらなる幸しあわせは小こ指ゆびから薬くすり指ゆびまでの距離きょりほどに近ちかい。