私たちの文化、私たちの家族

私たちの家族

　階段やフローリングの床ゆかを裸足はだしで歩くと、靴下くつしたを履はいていた時には分からなかった感触かんしょくがある。衣服いふくというフィルターを通とおさず、世界そのものに私は包つつまれていて、普段ふだんの私たちは服ふくというパッケージに遮さえぎられているのだと知る。

　服ふくは文化ぶんかであり、私たちは普段から文化の中で保護ほごされ、容易よういに分類ぶんるいされる。文化の中には家族かぞくがあって、私たちは文化や家族の構成員こうせいいんとして存在そんざいすることを期待きたいされる。つまり結婚して、子供を産うんで育そだてていくことを。

　でも若わかい世代せだいになるほど、期待に応こたえるのは難むずかしくなってるみたいだ。理由は色々いろいろとあるのだろう。出生率しゅっせいりつは上あがらなくて、困こまった政治家せいじかは『同性愛者どうせいあいしゃが悪わるい！』などと言いだす。まあ私は、あまり褒ほめられた人間にんげんじゃないから首くびをすくめるばかりだ。

「一階は冷房れいぼうしてないから、ちょっと暑あついわね。アイスでも食たべようか」

　彼女の家なのだから当あたり前まえだけど。冷蔵庫れいぞうこの中から遠慮えんりょなしに、アイスクリームの入はいった大きな箱型ボッ容器クスを彼女は出して、食卓しょくたくの上に置おいた。私の家では、こんな大きなアイスを買わない。祖母はアイスクリームなんか食たべないし、私一人ひとりだけで食たべるには無理むりがあるサイズだ。

「ありがとう……いつも、ありがとう。私に大おおきなものを与あたえてくれて」

「何なに、言ってるのよ。家族なんだから当あたり前まえでしょう？　貴女にも食たべてもらわないと、ちっとも減へらないんだから食たべて食たべて」

　どうやら彼女は、アイスクリームのことだけ言われたと思ったらしい。お礼れいを言いたいのは、これまでの全すべてについてなんだけどな。

　食卓の下にはカーペットというか絨毯じゅうたんが敷しかれてて、木きの床ゆかよりは足あしの裏うらが保護ほごされる感かん覚かくがあって、少すこし安心あんしんする。私たちは変かわらず全裸ぜんらで、お尻しりの下にクッションを置おいて椅子いすに腰こしかけた。背せもたれの木の部分が背中せなかに当あたって、ひんやりとする。

　彼女がお皿さらを用意してくれて、私たちは白しろいアイスをスプーンで容器ようきから移うつす。向むかい合あって、彼女の白しろい肌はだとアイスを交互こうごに見ながら食べる。アイスクリームは甘あまくて美味おいしくて、食べながら私と彼女の視線は互たがいの裸はだかへと向むけられていった。

　お互たがいの思考しこうが分わかる。まだ未成熟みせいじゅくな私たちは、あ・の・人・の体からだを思おもい起おこす。特とくに私は、彼女の体を見ることで、ありありとあ・の・人・の裸身らしんを脳裏のうりに浮うかべられた。アイスを食べている場合ではなくて、彼女が大型容器を冷蔵庫に戻もどしてくれる。

　二階の部屋まで戻もどるのもも・ど・か・し・く・、木の床に二人で倒たおれ込こんだ。絨毯じゅうたんの繊細せんさいな感覚から引ひき離はなされて、荒あらい木目もくめを全身ぜんしんの肌はだで感じる。私たちの舌したにはアイスの味あじが残のこっていて、彼女の肌はだはバニラそのものだ。まだ本格的ほんかくてきな行為こういには及およばず、くすくすと笑わらい合あいながら、少すこしずつ互たがいを高たかめ合あっていった。

　玄関げんかんの鍵かぎが開あけられて、彼女の母親が買かい物ものから戻もどってくる。床ゆかで縺もつれ合あってる私たちの横を通とおって、彼女の母は買ってきたものを冷蔵庫へ入いれていった。

「もー、若わかいんだから。そんなところで仲良なかよくしてたら汚よごれちゃうわよ」

「お母かあさんから教おそわったことをしてるだけよ。どうせ、これから入浴にゅうよくするし。お母さんも入はいるでしょ？」

「そうねー、外そとは暑あついから汗あせをかいちゃった。三人で汗あせを流ながしましょうか、いいわよね？」

　冷蔵庫の前の母親と彼女が会話かいわをして、母親が最後の言葉を私に向むけた。「はい……」と私は返事へんじをする。いつ見ても、彼女の母親は美うつくしい。私にとっても彼女にとっても、母親は世界一せかいいちの女神めがみだった。

「まだ、お腹なかは空すいてない？　じゃ、汗あせを流ながしてから、私の寝室しんしつへ。三人でセックスしてから夕飯ゆうはんにしましょう。今日も泊とまっていくわよね？」

「はい……お母さん」

　話はなしかけられて、私は返答へんとうした。こう呼よぶように私は言われていて、未いまだに恥はずかしさがある。もっと恥はずかしいことをしているのに、可笑おかしな話はなしだと自分で思った。