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私たちの文化
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「私たちの関係? 含まれるんじゃないの、文化に。性愛に関することは大体、文化的よ」
「そうなんだ! ひょっとして私たち、文化の最先端?」
「ありえるわね。さっきの話と矛盾するけど、カラオケだって最新の文化かもしれないのよ。世の中だって、私たち女子高生の流行に合わせて動いたりするじゃない。伝統がないからって、それが文化的じゃないとは言い切れないわ。同性愛は結婚という伝統に合ってなかったけど、もう世界は同性婚を受け入れてきてる。私たちのようなカップルは、新しい文化なのよ。否定されるべきじゃないし、否定を受け入れる必要なんかないわ」
凄いなぁ、と私は彼女に感心した。同世代の女子とは思えないくらい深い意見だ。
「やっぱり貴女って、私の『お姉さん』だなぁ。昔から、そうだったよね。いつも私より、貴女は物事を深く考えてた。尊敬しちゃう」
「ただ考える機会が多かっただけよ。私の関係って、世間一般とは違うものだったから。貴女も知ってるでしょう?」
そう、良く知っている。私が彼女と姉妹関係になる前、彼女には好きな人がいた。そして今も、あの人のことを彼女は愛している。世間的には、決して許されないだろう関係だ。
そして厄介なのは、私も『あの人』を愛してるってことで。私たちは、ちょっとした三角関係の中にいるのだった。
「難しい関係だよねぇ、私たちって」
「そうでもないわよ、少なくとも貴女は。私は最愛の人と、絶対に結ばれないって分かってる。それは悲しいし辛いことだけど、でも受け入れるつもりでは、いるのよ。貴女の場合は、同性婚さえ認められれば、あの人と添い遂げられる。そう考えるだけで私は救われるわ」
そう彼女が言う。言葉ほど割り切れてないように思えて、私は確認してみる。
「……本当にいいの? 私が将来、貴女の最愛の人と幸せになっても」
「もちろんよ。第一、現実的に言えば、まだ日本での同性婚は難しそうだし。貴女以外の誰かが、あの人と結婚して幸せにできるのなら、それはそれで私は構わないわ。どうであっても、私たちが姉妹であり家族であることに変わりはないし。そうでしょう?」
「うん……そうだよね!」
家族と言われたことが、私は嬉しかった。私は祖母と二人暮らしで、父親については顔も知らない。母子家庭だったのだが、働きづめだった母は私が五才の時に亡くなってしまった。私を引き取り育ててくれた祖母は、いい人だけれど、やはり遠慮の気持ちが先に立ってしまう。
引き取られた私は、小学校に入る前から、近所に住んでいた彼女と仲良くなった。家族ぐるみの付き合いで、と言っても祖母は人付き合いが苦手だったので、私が一方的に彼女の家へと一人で通い詰める形である。祖母は門限に寛容で、私が彼女の家に泊まり込むことも許してくれた。
そりゃあ彼女と仲良くなるよね、という話である。私も彼女も一人っ子だったから、それこそ本当の姉妹のように、彼女の家で長く過ごしたものだ。私と彼女が姉妹の契りを交わして、家族になったのは中学生の頃である。あらためて思い出すと感慨深いなぁ。
「ねぇ。貴女って、肝心なところで遠慮がちよね」
私が感慨に耽っていると、そう彼女が言ってきた。彼女の『最愛の人』と、私が結ばれても構わない、という話のことだろうか。
「遠慮なんて……そんな……」
「ほら、そういう煮え切らない態度よ。貴女も、あの人を愛してるんでしょ。いいのよ、私から奪っても。つまるところ、貴女には大胆さが足りないわ。姉である私が指導してあげる」
そう言うと彼女は、部屋で一緒に寝ていたベッドから、起き上がって私の手を引いてくる。ちなみに私たちは部屋で仲良くしていて、衣服をなんにも身に着けていない。その状態で手を引いて部屋を出ようとするのだから、心理的な抵抗があって私は慌てた。
「ちょっとぉ! 駄目よ、外から裸を見られちゃうかも!」
今は午後五時過ぎで、まだまだ外は明るい。彼女の親は現在、買い物に出かけていて、そろそろ帰ってくるはずだった。
「だからスリルがあるんじゃないの。平気よ、注意しながら窓のカーテンを閉めて行けば。私を信じて、付いてきなさい」
姉である彼女が、そう言う。手を繋がれて引かれると、結局、私は彼女に逆らえないのだ。部屋は二階にあって、そのドアを開く。瞬間、私の脳裏には、彼女と家族になった日の記憶が甦る。あの日も私は、この家の寝室に、ドアを開けて入っていったのだった。
思い出に浸っている場合じゃなくて、私は前を歩く彼女の背中へ隠れるように、階段を下りていった。一階に到着して、外から見られないよう、私たちは低い体勢で窓へと近づいてカーテンを閉める。彼女が私の手を放してくれないので、私は彼女に密着するようにして付いていくしかない。彼女からは「もう、怖がり過ぎよ」と笑われてしまった。
「そうなんだ! ひょっとして私たち、文化の最先端?」
「ありえるわね。さっきの話と矛盾するけど、カラオケだって最新の文化かもしれないのよ。世の中だって、私たち女子高生の流行に合わせて動いたりするじゃない。伝統がないからって、それが文化的じゃないとは言い切れないわ。同性愛は結婚という伝統に合ってなかったけど、もう世界は同性婚を受け入れてきてる。私たちのようなカップルは、新しい文化なのよ。否定されるべきじゃないし、否定を受け入れる必要なんかないわ」
凄いなぁ、と私は彼女に感心した。同世代の女子とは思えないくらい深い意見だ。
「やっぱり貴女って、私の『お姉さん』だなぁ。昔から、そうだったよね。いつも私より、貴女は物事を深く考えてた。尊敬しちゃう」
「ただ考える機会が多かっただけよ。私の関係って、世間一般とは違うものだったから。貴女も知ってるでしょう?」
そう、良く知っている。私が彼女と姉妹関係になる前、彼女には好きな人がいた。そして今も、あの人のことを彼女は愛している。世間的には、決して許されないだろう関係だ。
そして厄介なのは、私も『あの人』を愛してるってことで。私たちは、ちょっとした三角関係の中にいるのだった。
「難しい関係だよねぇ、私たちって」
「そうでもないわよ、少なくとも貴女は。私は最愛の人と、絶対に結ばれないって分かってる。それは悲しいし辛いことだけど、でも受け入れるつもりでは、いるのよ。貴女の場合は、同性婚さえ認められれば、あの人と添い遂げられる。そう考えるだけで私は救われるわ」
そう彼女が言う。言葉ほど割り切れてないように思えて、私は確認してみる。
「……本当にいいの? 私が将来、貴女の最愛の人と幸せになっても」
「もちろんよ。第一、現実的に言えば、まだ日本での同性婚は難しそうだし。貴女以外の誰かが、あの人と結婚して幸せにできるのなら、それはそれで私は構わないわ。どうであっても、私たちが姉妹であり家族であることに変わりはないし。そうでしょう?」
「うん……そうだよね!」
家族と言われたことが、私は嬉しかった。私は祖母と二人暮らしで、父親については顔も知らない。母子家庭だったのだが、働きづめだった母は私が五才の時に亡くなってしまった。私を引き取り育ててくれた祖母は、いい人だけれど、やはり遠慮の気持ちが先に立ってしまう。
引き取られた私は、小学校に入る前から、近所に住んでいた彼女と仲良くなった。家族ぐるみの付き合いで、と言っても祖母は人付き合いが苦手だったので、私が一方的に彼女の家へと一人で通い詰める形である。祖母は門限に寛容で、私が彼女の家に泊まり込むことも許してくれた。
そりゃあ彼女と仲良くなるよね、という話である。私も彼女も一人っ子だったから、それこそ本当の姉妹のように、彼女の家で長く過ごしたものだ。私と彼女が姉妹の契りを交わして、家族になったのは中学生の頃である。あらためて思い出すと感慨深いなぁ。
「ねぇ。貴女って、肝心なところで遠慮がちよね」
私が感慨に耽っていると、そう彼女が言ってきた。彼女の『最愛の人』と、私が結ばれても構わない、という話のことだろうか。
「遠慮なんて……そんな……」
「ほら、そういう煮え切らない態度よ。貴女も、あの人を愛してるんでしょ。いいのよ、私から奪っても。つまるところ、貴女には大胆さが足りないわ。姉である私が指導してあげる」
そう言うと彼女は、部屋で一緒に寝ていたベッドから、起き上がって私の手を引いてくる。ちなみに私たちは部屋で仲良くしていて、衣服をなんにも身に着けていない。その状態で手を引いて部屋を出ようとするのだから、心理的な抵抗があって私は慌てた。
「ちょっとぉ! 駄目よ、外から裸を見られちゃうかも!」
今は午後五時過ぎで、まだまだ外は明るい。彼女の親は現在、買い物に出かけていて、そろそろ帰ってくるはずだった。
「だからスリルがあるんじゃないの。平気よ、注意しながら窓のカーテンを閉めて行けば。私を信じて、付いてきなさい」
姉である彼女が、そう言う。手を繋がれて引かれると、結局、私は彼女に逆らえないのだ。部屋は二階にあって、そのドアを開く。瞬間、私の脳裏には、彼女と家族になった日の記憶が甦る。あの日も私は、この家の寝室に、ドアを開けて入っていったのだった。
思い出に浸っている場合じゃなくて、私は前を歩く彼女の背中へ隠れるように、階段を下りていった。一階に到着して、外から見られないよう、私たちは低い体勢で窓へと近づいてカーテンを閉める。彼女が私の手を放してくれないので、私は彼女に密着するようにして付いていくしかない。彼女からは「もう、怖がり過ぎよ」と笑われてしまった。
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