じゃけぇ

転生新語

文字の大きさ
上 下
5 / 6

第5話

しおりを挟む
 四月になり、弟は中学三年生となっている。その弟を連れて、私は花子さんとの同棲を開始した。同棲はあと、一年は待とうと思っていたのだが、「俺に気つかんでなくてもええもいい」と弟が言ってくれたのだ。ありがたかった。正直、もう私は早くみんなで暮らしたかったのだから。

「ようこそ、君が弟さんね。これから仲良くして行きましょう」

 花子さんが住んでいるマンションは、事前に知らされていた通り、部屋が広かった。その部屋に住む事になった私と弟が、彼女に挨拶あいさつする。弟と花子さんは初対面であった。

「本当に広い部屋ですねー。花子さんのいもうとさん達が居ても、あましてたって意味が実感できました」

 弟は照れているのか何なのか、ろくに口を開かない。取りなすように、私がそう言った。

「私が広島に、東京から越してきたって言ったでしょ? 私は長女なんだけど、以前から次女が広島で働いていたのよ。それで私が、次女に連絡して、『家賃を折半せっぱんするから、一緒に、もっと広いマンションに住まない?』って提案したの。元々、仲も良かったから承諾しょうだくしてもらえたわ」

 弟への説明もねて、あらためて花子さんが話してくれる。ちなみに花子さんは三人姉妹で、一番下の妹さんは、私と同年代だ。その三女も今、広島の大学に通っている。三人姉妹と私は、すでに何度も会って仲良くなっていた。

「姉妹で仲が良いって素敵ですね。それで一緒に、広島に居るんですから。うらやましいです」

「その分、両親とは上手く行かなくなっちゃったけどね。貴女あなたも弟さんも、御両親ごりょうしんとは仲が良かったんでしょう? 私は私で羨ましいな」

 花子さんは長く東京で暮らしていた。その東京で、花子さんは最後まで御両親との関係を改善かいぜんしようとこころみたようだ。そして両親から冷たくあつかわれた長女の花子さんは、二人の妹さんからは逆にしたわれるようになった。若い世代の妹さんたちへんけんからも自由だったのである。

「私も弟も、そして花子さんにもつらい事はありましたけど。でも、あえて言います。きっと私達は、。だって今、こうして一緒になれたんですから」

 きっと同性婚は、まだ日本では当分、ほう整備せいびは進まない。花子さんの両親の偏見は無くならないかも知れない。私達をかこむ偏見というものは長く続くのだろう。

 私の両親が生きていてくれたら良かったと思う。私を拒絶したとしても、それでも私は、ただ両親に生きていてもらいたかった。そののぞみはかなわない。

 それでも私には弟が居た。両親が亡くなった後も生き続けようと思える理由、に見える存在そんざい。弟が居たから、私は花子さんと出会うまで生き続けられた。そして今、これからの人生に私は希望を持っている。生き続けて行きたいと心から思える。

 両親が弟をのこしてくれた。私をかしてくれた愛が、弟という姿でそば居続いつづけてくれたように私は思う。だからじゃけぇ私は、弟にも花子さんにも愛を返し続けて生きていく。

「愛してます、花子さん。勿論もちろんお前の事もね、弟くん。じゃけぇだから、これからもよろしくお願いします」

 つい広島弁が出てしまった。花子さんの妹も広島弁だし別にいいか。弟は相変わらずだまったままで、花子さんは思いっきりれていた。ただ素直な気持ちを伝えただけなのにな。

「……若いってすごいわ。できれば明日の式も、そんなふうに、お願いね」

 そう花子さんが言う。私達は明日、小さいながらも結婚式をおこなう。式には弟と、花子さんの妹達が来てくれる。広島にもLGBTけの結婚式ができる場所はあるのだ。ついでに言えば、憲法上、日本で同性婚は禁止されていない。

「付き合い始めの頃、ファミレスでのデートで、私の頭をでてくれた事を覚えてますか花子さん。あの時、言ってくれましたよね。『世の中は悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ、良い方にも変わる』って。その通りだったなぁ」

 私が顔を真っ赤にして、花子さんに頭を撫でられた、あの二〇二〇年末のデートからもなくの事だった。二〇二一年の初め、広島市ではパートナーシップ制度が開始されたのだ。私達のような同性カップルも、ある程度の行政サービスが受けられるようになった。

 好きな同性ひとと幸せになる事。それが社会から受け入れられるようになってきたようでうれしい。でも、まだ全然、異性同士の結婚みたいには行かない。私は太々ふてぶてしく、もっともっと幸せになっていこうと思う。

「来年のG7ジーセブンは、日本で行われるわね。広島が候補地の一つになってるらしいわよ、岸田首相の故郷だし。広島から日本が変わっていくかもね」

 そう花子さんが言う。私に難しい事は分からないが、来年、G7という先進国首脳会議が日本で行われるそうだ。今年は広島への原爆投下から七十七年目で、新しい時代に向けてのはないが行われるには良い時期かも知れない。どうか同性愛者の権利に付いても話し合われますように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法少女さん、私を助けて!

羽黒 楓
ライト文芸
生命保険会社の法人営業部、セールスパーソンの私は、魔法少女ミスティシャーベットに恋をしていた。 逢いたくて逢いたくて。 わざと危険に飛び込めば、必ず彼女が助けにやってくる。 だから、私はいつも自分から危険な場所に赴くのだった。 そんなあるとき、男たちに襲われたのに、魔法少女はいつものようには現れてくれなかった……。

井の頭公園で体育会系女子を拾ったこと

藤田大腸
ライト文芸
日課にしているランニング。いつものように井の頭公園を走っていたらボートを無茶苦茶に漕いでいる女に出くわして…… この作品は四年前に私の周りで多摩地区を舞台にした百合小説を書こう、という企画がありましてそのために書いていたものです。しかし企画は自然消滅してしまい、書きかけでずっと塩漬けになってそのまま忘れていました。しかし先日いきなり思い出したのでちゃんと完成させて出すことにした次第です。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

俺のごはん

籠 冬雪
ライト文芸
30代サラリーマンの日常。 ごはんがテーマで、ゆるーく平和な世界です。

ハナノカオリ

桜庭かなめ
恋愛
 女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。  そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。  しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。  絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。  女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。  ※全話公開しました(2020.12.21)  ※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。  ※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。  ※お気に入り登録や感想お待ちしています。

女の子なんてなりたくない?

我破破
恋愛
これは、「男」を取り戻す為の戦いだ――― 突如として「金の玉」を奪われ、女体化させられた桜田憧太は、「金の玉」を取り戻す為の戦いに巻き込まれてしまう。 魔法少女となった桜田憧太は大好きなあの娘に思いを告げる為、「男」を取り戻そうと奮闘するが……? ついにコミカライズ版も出ました。待望の新作を見届けよ‼ https://www.alphapolis.co.jp/manga/216382439/225307113

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

好きになっちゃったね。

青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。 一ノ瀬水葉 おねしょ癖がある。 おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。 ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。 羽月京華 おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。 おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。 見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。 私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。 自分のpixivから少しですが加筆して再掲。

処理中です...