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六月の読切(よみきり)・後編
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前の机に座っている彼女の背中へ、私が説明を求める。つくづく、作業机が向かい合わせになってなくて良かったと思った。面と向かってストレスが溜まる会話を続けていたら、今頃、彼女の鼻は私のパンチで折れていただろう。
「うん。さっきも言ったけどストーリーも決まってないからね。だからヒロインが誰かも決まっていないのよ。だから思ったの、『さぁ、皆で戦って、ヒロインの座を勝ち取って見せなさい!』って。これ、新しい創作方法だと思わない?」
「思わないわよ。どうせ問題が起きて、上手く行かなかったんでしょ。だから問題って何なのかを説明しなさいってば」
「ええ、そうよ。上手く行かなかったの。とりあえず頭の中で、バトルロイヤルで戦わせてみたんだけどね。誰を勝たせればいいか、それが分からなくなっちゃったのよ」
あー、なるほど。一人ジャンケンで、自分の右手と左手を戦わせたら、いつまでもアイコが続いて決着がつかないというような状況だろうか。藤子〇二雄先生のマンガで、そういう描写があったなぁ。
「話の都合でしょ、結局。基本的にはヒロインが勝つストーリーが、読者から好まれるんだから、そういう展開で完成させればいいのよ。ヒロインを先に決めないから、『誰を勝たせればいいか分からない』なんて言って困ってるだけじゃないの」
「違うのよ、そういうことじゃないわ。誰がヒロインだろうが、誰が勝とうが、必ず問題が発生しちゃうのよ。それで今、私は困ってるの。ねぇ、どうしたらいいかしら?」
さぁ、私のパートナーが、本格的に訳の分からないことを言い出した。そろそろ私は、彼女の頭をはたいて、物理的に脳をシャットダウンさせるべきじゃないだろうか。
「だからさ、問題って何なのか、そこの説明がされてないのよ。話しなさい、早く!」
「ああ、そうだったわね。うっかりしてたわ。じゃあキャラクターの説明に入るけど、さっき話してたカ〇コンのスト6みたいな世界を思い浮かべてね。そこで活躍する女子のキャラクターを複数、イメージしてほしいの。身体が大きくて筋肉質のキャラ、胸が大きいキャラ、お尻が大きいキャラ。逆に身体が小さい、子どもみたいなキャラ。太ってるキャラ、スリムなキャラ。まあ、そんな感じで」
「思い浮かべたけど……それで? さっき言ってたわね、『誰が勝とうが、必ず問題が発生しちゃう』って。どういう意味なのよ?」
「順に説明するわ、まず身体が大きくて筋肉質のキャラね。スト6にもいる、あんなタイプ」
ああ、ヘビー級のボクサーみたいな、そんなキャラクターがいたなぁ。あのキャラ、投げ技も強力だったと私は思い起こした。そうしてると彼女が説明を続ける。
「それでね。マンガってキャラごとに区別しやすくなるように、極端な差を付けるじゃない。【身体が大きくて筋肉質のキャラ】だと、まあ一八〇センチ以上とかで、他の女子より少なくとも十センチ以上の差があって。当然、体格も体重も、他の女子より上なのよ。これって現実的に考えたら、戦って勝つのは当たり前じゃない? 男子と女子が戦うようなものだし」
「いや、そうかも知れないけど。私たちが描くのはフィクションだからさ。何も問題ないでしょうよ、体格差がある戦いを描いたって。筋肉キャラが勝ってもいいし、別のキャラが勝ってもいいのよ」
「いやぁ、文句を言う読者って、世界の何処かには居ると思うなぁ。『トランス女子は、女子じゃない!』って、声高に主張する人とか。男性から女性に性別変更しても、絶対に女性だとは認めない人とかね。そういう読者は『こんな、男みたいな女を出すな!』って言ってくると思うのよ。問題だわ」
「知らないわよ! ハリー・〇ッターの作者がトランス女性を認めなくても関係ないわよ! 大体、『絶対に認めない』って姿勢の、狭量な読者には何を主張しても無駄だし不毛でしょ。いいから貴女が言う、『問題』に付いて説明を続けて。次は【胸が大きいキャラ】の話だっけ?」
「ええ。これも最近は、コンプライアンスの問題で描きにくくなったわ。ちょっと前に日〇新聞で、巨乳のキャラが出てくるマンガの広告を大きく載せたら、国連女性機関が抗議してきたし。もし巨乳キャラが格闘マンガで勝ったら、『はいはい、男性読者に媚びたいのね』とかバカにしてくる読者が出るわね。かと言って【お尻が大きいキャラ】が勝ったら、『男を尻に敷いてくる女かよ、うぜぇ』とか言われるのよ。八方塞がりだわ、問題ね」
「知らないわよ! どうせ私たちのマンガはそんなに注目されないから! ついでに言えば、胸もお尻も個性でしょ。女子テニス選手の胸やお尻が大きかろうが、何も問題ないから!」
「他のキャラも、【身体が小さい、子どもみたいなキャラ】だと『ロリコンかよ。こんな小さなキャラが強いとか無理があるだろ』と言われるし。【太ってるキャラ】はブタとか言われて馬鹿にされて、【スリムなキャラ】は『モデルみたいな体型ですね。表面的な美しさしか認めないのは差別だと思います』とか言われるのよ。どうすりゃいいのか分からないわ、問題ね」
「いいのよ、フィクション! フィクションなんだから! フ〇ーレンなんか子ども体型でスリムな魔法使いじゃない! 魔法や気功的なエネルギーで解決よ。太ってる女性を馬鹿にする読者は論外だから、論外!」
「そこでね、最初に言ったでしょ。『女性キャラの足って、重要だと思うの』って。足が綺麗なキャラって、描いても批判は、されにくいと思うのよ。貴女の足って綺麗だから、ちょっと良く見せてくれない?」
「マンガの話を描けぇ! ハイキックでも喰らわせてやろうかぁ!」
いつまで経っても文字通り、話が進まない。今日中に読切マンガのネームを完成させないといけないのだ。私たちの遣り取りは夜遅くまで延々と続いた。
「うん。さっきも言ったけどストーリーも決まってないからね。だからヒロインが誰かも決まっていないのよ。だから思ったの、『さぁ、皆で戦って、ヒロインの座を勝ち取って見せなさい!』って。これ、新しい創作方法だと思わない?」
「思わないわよ。どうせ問題が起きて、上手く行かなかったんでしょ。だから問題って何なのかを説明しなさいってば」
「ええ、そうよ。上手く行かなかったの。とりあえず頭の中で、バトルロイヤルで戦わせてみたんだけどね。誰を勝たせればいいか、それが分からなくなっちゃったのよ」
あー、なるほど。一人ジャンケンで、自分の右手と左手を戦わせたら、いつまでもアイコが続いて決着がつかないというような状況だろうか。藤子〇二雄先生のマンガで、そういう描写があったなぁ。
「話の都合でしょ、結局。基本的にはヒロインが勝つストーリーが、読者から好まれるんだから、そういう展開で完成させればいいのよ。ヒロインを先に決めないから、『誰を勝たせればいいか分からない』なんて言って困ってるだけじゃないの」
「違うのよ、そういうことじゃないわ。誰がヒロインだろうが、誰が勝とうが、必ず問題が発生しちゃうのよ。それで今、私は困ってるの。ねぇ、どうしたらいいかしら?」
さぁ、私のパートナーが、本格的に訳の分からないことを言い出した。そろそろ私は、彼女の頭をはたいて、物理的に脳をシャットダウンさせるべきじゃないだろうか。
「だからさ、問題って何なのか、そこの説明がされてないのよ。話しなさい、早く!」
「ああ、そうだったわね。うっかりしてたわ。じゃあキャラクターの説明に入るけど、さっき話してたカ〇コンのスト6みたいな世界を思い浮かべてね。そこで活躍する女子のキャラクターを複数、イメージしてほしいの。身体が大きくて筋肉質のキャラ、胸が大きいキャラ、お尻が大きいキャラ。逆に身体が小さい、子どもみたいなキャラ。太ってるキャラ、スリムなキャラ。まあ、そんな感じで」
「思い浮かべたけど……それで? さっき言ってたわね、『誰が勝とうが、必ず問題が発生しちゃう』って。どういう意味なのよ?」
「順に説明するわ、まず身体が大きくて筋肉質のキャラね。スト6にもいる、あんなタイプ」
ああ、ヘビー級のボクサーみたいな、そんなキャラクターがいたなぁ。あのキャラ、投げ技も強力だったと私は思い起こした。そうしてると彼女が説明を続ける。
「それでね。マンガってキャラごとに区別しやすくなるように、極端な差を付けるじゃない。【身体が大きくて筋肉質のキャラ】だと、まあ一八〇センチ以上とかで、他の女子より少なくとも十センチ以上の差があって。当然、体格も体重も、他の女子より上なのよ。これって現実的に考えたら、戦って勝つのは当たり前じゃない? 男子と女子が戦うようなものだし」
「いや、そうかも知れないけど。私たちが描くのはフィクションだからさ。何も問題ないでしょうよ、体格差がある戦いを描いたって。筋肉キャラが勝ってもいいし、別のキャラが勝ってもいいのよ」
「いやぁ、文句を言う読者って、世界の何処かには居ると思うなぁ。『トランス女子は、女子じゃない!』って、声高に主張する人とか。男性から女性に性別変更しても、絶対に女性だとは認めない人とかね。そういう読者は『こんな、男みたいな女を出すな!』って言ってくると思うのよ。問題だわ」
「知らないわよ! ハリー・〇ッターの作者がトランス女性を認めなくても関係ないわよ! 大体、『絶対に認めない』って姿勢の、狭量な読者には何を主張しても無駄だし不毛でしょ。いいから貴女が言う、『問題』に付いて説明を続けて。次は【胸が大きいキャラ】の話だっけ?」
「ええ。これも最近は、コンプライアンスの問題で描きにくくなったわ。ちょっと前に日〇新聞で、巨乳のキャラが出てくるマンガの広告を大きく載せたら、国連女性機関が抗議してきたし。もし巨乳キャラが格闘マンガで勝ったら、『はいはい、男性読者に媚びたいのね』とかバカにしてくる読者が出るわね。かと言って【お尻が大きいキャラ】が勝ったら、『男を尻に敷いてくる女かよ、うぜぇ』とか言われるのよ。八方塞がりだわ、問題ね」
「知らないわよ! どうせ私たちのマンガはそんなに注目されないから! ついでに言えば、胸もお尻も個性でしょ。女子テニス選手の胸やお尻が大きかろうが、何も問題ないから!」
「他のキャラも、【身体が小さい、子どもみたいなキャラ】だと『ロリコンかよ。こんな小さなキャラが強いとか無理があるだろ』と言われるし。【太ってるキャラ】はブタとか言われて馬鹿にされて、【スリムなキャラ】は『モデルみたいな体型ですね。表面的な美しさしか認めないのは差別だと思います』とか言われるのよ。どうすりゃいいのか分からないわ、問題ね」
「いいのよ、フィクション! フィクションなんだから! フ〇ーレンなんか子ども体型でスリムな魔法使いじゃない! 魔法や気功的なエネルギーで解決よ。太ってる女性を馬鹿にする読者は論外だから、論外!」
「そこでね、最初に言ったでしょ。『女性キャラの足って、重要だと思うの』って。足が綺麗なキャラって、描いても批判は、されにくいと思うのよ。貴女の足って綺麗だから、ちょっと良く見せてくれない?」
「マンガの話を描けぇ! ハイキックでも喰らわせてやろうかぁ!」
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