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第四章 分岐点
野外の食事
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「まあ結構忘れがちだけどさ、洗濯板ってちゃんと持ってるか?」
イツキさんが薪を組みながら問いかけてくる。
「ソフィは持ってる?」
「ううん」
僕とソフィはその向かいで地べたに座ってその様子を眺めながら首を横に振る。
「やっぱりな。割と忘れがちだけど、旅行なら替えの服あればいいけど旅なら何ヶ月も外行くんだからすぐに使える服が無くなるぞ。あと桶な、大きめのとその中に入れられる小さいのも用意しといた方がいいぞ」
「2つもいるんですか?」
「いや?でもあれば鍋に水を入れる時とかに便利だからな、余裕あるならオススメしとく」
そう言いながらイツキさんは手元に木屑の入った瓶を出して組んだ薪の下に幾らか出すと、今度は瓶を消して火打ち石を腰のポーチから取り出して手早く火を付けた。
「魔法は使わないんですか?」
「俺は闇以外さっぱりでな、こっちの方が楽なんだ。それにあんまり気軽に魔法使ってると街中でも不注意に使うようになるからこっちに慣れる方がいい、衛兵の世話になるぞ」
イツキさんが安定して燃え始めた薪の上に金属の四脚を取り出して置き、その上に網を敷いて大きな鍋を置くと中にフールさんが切っておいた具材を入れる。
今僕達は日が沈む中、街と村の間の街道の脇で野宿の準備をしていた。
「で、テントの張り方は大丈夫か?」
調理を始めて暫く、コトコトと音を立てている鍋を全員で囲んで完成を待っている。
「大丈夫そうです」
たまに天日干しも兼ねて張る事もあるのでコツは簡単に思い出す事が出来ていた。
「そうか。んで、やっぱ山刀って持ってんの?」
「それはちゃんと持ってます。ね、ソフィ」
「うん」
「……なんで洗濯板は無いのに皆それは持ってんだろうな」
イツキさんがそう言って溜息をついたけど、僕は首を傾げる。
「護身とか血抜きとか解体に使うから、持ってない方が少なくないですか?」
僕はそう言って、腰の後ろにある山刀を鞘ごと外して見せる。
刃渡り20センチ程の片刃で真っ直ぐな有り触れた物で、ソフィも同じ物を持っている。
僕の村では仕留めの儀の後から森に行く事になるので親が子に買い与える事になっていて、同い年の皆が同じ時に買ってもらっているから全員がお揃いだった。
「抜くことは少ないけど、一応手入れもしています」
罠にかかった獲物を仕留めて血抜きをしたり、通りにくい道の枝葉を払ったり、日常のちょっとしたことに使う事もあるから、錆びたり酷く刃こぼれしないように手入れ用の布や油、携帯砥石は持っているし使ってもいる。
そんな大事な山刀を抜いて見せる。
「少し見せてもらってもいいかな?」
するとフールさんがそう言って僕の方に手を伸ばす。
僕は頷くと、抜いた山刀を鞘に戻してから鞘ごと伸ばされた手に渡した。
フールさんは渡した山刀を抜いて持ち手から刃先まで丹念にチェックしていく。
「うん、ちゃんと手入れされてるいい刃だね。砥石は荒じゃなくて中なのかな?用途的に頑丈さを求められるから、これだけ磨けてたら十分役目を果たしてくれると思うよ」
フールさんはそう言って僕に山刀を返すと、同じようにソフィの山刀も見て頷いて返した。
「こっちも問題無いけど、殆ど使ってはなさそうだね」
「解体は大体男の仕事ですから、練習くらいでしか使わないんです」
「え?……ああ、そういえばそうだったね」
ソフィが当たり前の事を言ったはずなのに、フールさんは微妙な顔をしてイツキさんを見た。
「イツキが僕達の中で一番力が無い上に解体が苦手だから、普通はそうだって意識が無いんだよね……そうだ、Eランク以上の冒険者をやってれば解体をする事は増えるだろうから、冒険者なら誰でも出来るって思った方がいいよ。得意かどうかは別だけど」
「おい、俺の事は余計だ。まあでも誰でも出来て当然ぐらいには思ってて問題ないけどな、たまにあからさまなお坊っちゃんとかお嬢様的なやつも居るから、そういうやつは戦闘はよくても解体は出来ないってのが居るから注意な」
「はい、わかりました」
そうやって色々話して、彼らが思い付いた事から一つ一つ教えて貰いながらご飯が出来るのを待っていると、時折開けてかき混ぜていた鍋の蓋がカタカタ鳴り始めた。
「お、そろそろかな」
イツキさんがそう言って蓋を開けると、その中には具がたっぷりの白色のとろみがついたスープが煮立っていい匂いを出していた。
「美味しそうですね」
僕とソフィが少し身を乗り出して中を見ていると、イツキさんがスープをお椀についで配りながら自慢気に教えてくれる。
「実際うまいぞ?これは寒い魔国でよく食べられるシチュって料理でな、バターとタームの乳と小麦粉と水を混ぜたスープに具材を入れて煮る料理だな。この時期には合ってないけど、簡単で美味しいからな。あと一応ターム以外の乳でも作れるっちゃ作れる」
イツキさんはそう言って、大まかな分量の書かれた紙を手渡してくれた。
「いいんですか?」
「よくあることだし、簡単でうまくて量作れる料理は一つくらい知っておいた方が何かと便利だからな。入れる具材も変えてみたら味も変わるし、温まる料理は万一の時にいい。ま、話は後にして食え。冷めちまうからな」
「はい!」
「ありがとうございます」
そうして日が沈んで暗くなる中、火を囲んで温かいご飯を食べながらワイワイと食べる食事は中々新鮮で、とても美味しかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
刃物の分類として、作中の山刀はナタのような刃物のみではなく万能ナイフのような物と位置付けています。
山刀は戦闘向けではない大形のナイフを指し、戦闘に使う物を短剣と呼ぶなど現代日本程厳密に細かくは分けられていません。
またこの世界独自の分類があれば、最後に補足します。
イツキさんが薪を組みながら問いかけてくる。
「ソフィは持ってる?」
「ううん」
僕とソフィはその向かいで地べたに座ってその様子を眺めながら首を横に振る。
「やっぱりな。割と忘れがちだけど、旅行なら替えの服あればいいけど旅なら何ヶ月も外行くんだからすぐに使える服が無くなるぞ。あと桶な、大きめのとその中に入れられる小さいのも用意しといた方がいいぞ」
「2つもいるんですか?」
「いや?でもあれば鍋に水を入れる時とかに便利だからな、余裕あるならオススメしとく」
そう言いながらイツキさんは手元に木屑の入った瓶を出して組んだ薪の下に幾らか出すと、今度は瓶を消して火打ち石を腰のポーチから取り出して手早く火を付けた。
「魔法は使わないんですか?」
「俺は闇以外さっぱりでな、こっちの方が楽なんだ。それにあんまり気軽に魔法使ってると街中でも不注意に使うようになるからこっちに慣れる方がいい、衛兵の世話になるぞ」
イツキさんが安定して燃え始めた薪の上に金属の四脚を取り出して置き、その上に網を敷いて大きな鍋を置くと中にフールさんが切っておいた具材を入れる。
今僕達は日が沈む中、街と村の間の街道の脇で野宿の準備をしていた。
「で、テントの張り方は大丈夫か?」
調理を始めて暫く、コトコトと音を立てている鍋を全員で囲んで完成を待っている。
「大丈夫そうです」
たまに天日干しも兼ねて張る事もあるのでコツは簡単に思い出す事が出来ていた。
「そうか。んで、やっぱ山刀って持ってんの?」
「それはちゃんと持ってます。ね、ソフィ」
「うん」
「……なんで洗濯板は無いのに皆それは持ってんだろうな」
イツキさんがそう言って溜息をついたけど、僕は首を傾げる。
「護身とか血抜きとか解体に使うから、持ってない方が少なくないですか?」
僕はそう言って、腰の後ろにある山刀を鞘ごと外して見せる。
刃渡り20センチ程の片刃で真っ直ぐな有り触れた物で、ソフィも同じ物を持っている。
僕の村では仕留めの儀の後から森に行く事になるので親が子に買い与える事になっていて、同い年の皆が同じ時に買ってもらっているから全員がお揃いだった。
「抜くことは少ないけど、一応手入れもしています」
罠にかかった獲物を仕留めて血抜きをしたり、通りにくい道の枝葉を払ったり、日常のちょっとしたことに使う事もあるから、錆びたり酷く刃こぼれしないように手入れ用の布や油、携帯砥石は持っているし使ってもいる。
そんな大事な山刀を抜いて見せる。
「少し見せてもらってもいいかな?」
するとフールさんがそう言って僕の方に手を伸ばす。
僕は頷くと、抜いた山刀を鞘に戻してから鞘ごと伸ばされた手に渡した。
フールさんは渡した山刀を抜いて持ち手から刃先まで丹念にチェックしていく。
「うん、ちゃんと手入れされてるいい刃だね。砥石は荒じゃなくて中なのかな?用途的に頑丈さを求められるから、これだけ磨けてたら十分役目を果たしてくれると思うよ」
フールさんはそう言って僕に山刀を返すと、同じようにソフィの山刀も見て頷いて返した。
「こっちも問題無いけど、殆ど使ってはなさそうだね」
「解体は大体男の仕事ですから、練習くらいでしか使わないんです」
「え?……ああ、そういえばそうだったね」
ソフィが当たり前の事を言ったはずなのに、フールさんは微妙な顔をしてイツキさんを見た。
「イツキが僕達の中で一番力が無い上に解体が苦手だから、普通はそうだって意識が無いんだよね……そうだ、Eランク以上の冒険者をやってれば解体をする事は増えるだろうから、冒険者なら誰でも出来るって思った方がいいよ。得意かどうかは別だけど」
「おい、俺の事は余計だ。まあでも誰でも出来て当然ぐらいには思ってて問題ないけどな、たまにあからさまなお坊っちゃんとかお嬢様的なやつも居るから、そういうやつは戦闘はよくても解体は出来ないってのが居るから注意な」
「はい、わかりました」
そうやって色々話して、彼らが思い付いた事から一つ一つ教えて貰いながらご飯が出来るのを待っていると、時折開けてかき混ぜていた鍋の蓋がカタカタ鳴り始めた。
「お、そろそろかな」
イツキさんがそう言って蓋を開けると、その中には具がたっぷりの白色のとろみがついたスープが煮立っていい匂いを出していた。
「美味しそうですね」
僕とソフィが少し身を乗り出して中を見ていると、イツキさんがスープをお椀についで配りながら自慢気に教えてくれる。
「実際うまいぞ?これは寒い魔国でよく食べられるシチュって料理でな、バターとタームの乳と小麦粉と水を混ぜたスープに具材を入れて煮る料理だな。この時期には合ってないけど、簡単で美味しいからな。あと一応ターム以外の乳でも作れるっちゃ作れる」
イツキさんはそう言って、大まかな分量の書かれた紙を手渡してくれた。
「いいんですか?」
「よくあることだし、簡単でうまくて量作れる料理は一つくらい知っておいた方が何かと便利だからな。入れる具材も変えてみたら味も変わるし、温まる料理は万一の時にいい。ま、話は後にして食え。冷めちまうからな」
「はい!」
「ありがとうございます」
そうして日が沈んで暗くなる中、火を囲んで温かいご飯を食べながらワイワイと食べる食事は中々新鮮で、とても美味しかった。
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刃物の分類として、作中の山刀はナタのような刃物のみではなく万能ナイフのような物と位置付けています。
山刀は戦闘向けではない大形のナイフを指し、戦闘に使う物を短剣と呼ぶなど現代日本程厳密に細かくは分けられていません。
またこの世界独自の分類があれば、最後に補足します。
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