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第四章 分岐点

コンの知り合い

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《コンside》

 最南の大森林を調査しながら進む事数時間が過ぎ、テウによれば例年の倍ほどの早さで調査が進んでいるそうだ。

「で、お前の知り合いってどんなやつなんだ?」
「それは会ってみてのお楽しみだ」

 既に大森林の中層を3分の2程を調査し終えて野宿を始め、今はイツキと2人で火の番をしていた。
 我は眠る必要が無いのでこれから全員と夜を共にする予定である。

「お楽しみって、いやまあそれはいいけどどこに行くか教えてくれないと会えねぇだろ」
「ふむ、では明日中層の調査を終えたあとテウをフールとスーを護衛として先に帰し、我とイツキとメイフィアで森の奥へ向かうのでどうだろうか?」
「おー……て、お前なんでメイの名前知ってんだよ」
「メイフィア・ファル・フルール。エルフの巫女であろう?フレシアから聞いたことがあるのでな」
「おまっ、それってもしかして主神の……いやいい、聞かなかったことにするわ」

 耳を塞いで聞こえないとばかりに首を振るイツキに我はフフフと笑う。

「てかもしかしてだけどさ、その知り合いってもしかして『主』とか言うやっばい奴じゃ」
「知っておるのか?」
「知ってるもなにも、この依頼を受けた時に散々注意されたからな。何でも昔からこの森の奥深くに入った者は誰も帰らず、英雄ですら話にならない程強い主が居るってな」
「そうか」
「だからさ、お前の知り合いってのはその主じゃねぇのかって思うんだが」
「テンプレ、お約束と言うものか?」
「そういう言葉ははここで持ち出すなっての、合ってるけどさ」

 嫌そうな顔をして答えるイツキに我は笑って誤魔化す事にした。

「明日になればわかることだ」



 翌朝、予定を話すとスーが少々ゴネたが必要だからと納得してもらった。

「すまぬなメイフィアよ、お主も付き合わせて」
「いえ、混沌竜様の頼みなら……あら、なぜ私の名前を知ってるのかしら?」
「コンってのはこういうやつなんだよ。黙ってる事も全部お見通しってね」
「割とそうでもないのだぞ?つい先日ロイを怒らせたばかりだからな」
「へー、あの優しそうな奴がねぇ」
「うむ。ロイは物心ついた頃から怒ったのは我含め2度しかないらしい」
「……それはそれで随分と温厚に過ぎる気もするが、それならむしろどうやって怒らせたんだよ」
「それは秘密だ」
「ほーらまた秘密だ!秘密秘密って秘密多過ぎね?」
「なら少しばかり誰も知らぬ神話でも聞かせようではないか。今から7億五千万年程昔……」

 そんな会話を交わしつつ森の奥へ、奥へと進んで行き、とある地点で微かなマーキングの匂いを嗅ぎ取りコッソリと2人を見るがやはり気づいた様子は無かった。
 ユンは狼であるからそれに気付いているようで、恐怖で尻尾を巻きながらもついてきていた。
 そしてこちらに向かうとある存在にいつ気が付くかと思っていたが、一向に気づく様子が無かったので仕方なく魔力障壁を張った。



 そして、目の前に巨大な口が現れた。



「んでさ…あああああ!?」
「な、んなのコイツ!」
 それを見てイツキとメイが叫びながらも瞬時に戦闘態勢に入る。
 先程からずっと話していたが、彼らはSランク冒険者でありずっと周辺の警戒と『常識的な範囲内であれば』とても有効な防御魔法を幾重にも展開していた。
 そんな防御魔法の中の1つに数億ボルトにもなる電圧を流す物もあった。

 しかし、その存在はとても普通ではなかった。

 メイの『とっておき』とも言える高圧電流すらマッサージにも足らないとばかりに突っ込んできたそれを我は止める。
 我自身常識の外にあるような存在であり、相対した者も様子見であったため簡単に止める事が出来た。
 それは眼前数センチの位置で止められており、大きく開けていた口を閉じると黒くて長い体毛が目に入った。


「なんだ、アタイの縄張りに入った不届き者とちょいと遊んでやろうかと思って来てみたが、あんた混沌竜じゃないかい」


 そしてそんな声が脳内に直接響く。
「なんなのコイツ!この私の結界をこんなにやすやすと壊すなんて信じらんない!」
「こいつ一体どこから湧いて出やがった!」
 それに驚いたイツキとメイも流石Sランクだけあって突然の事に驚きながらもすぐに戦闘が出来るよう構える。
 それに対して襲撃者はゆっくりと後ろへ数歩下がり、その全身が顕になる。


 それは高さが5メートル程もある、巨大で黒く長い毛を持つ狼であった。


「お主のじゃれ合いに耐えうる者がそうそう居るはずがなかろう、大狼たいろうよ」
「黒狐が死んでからつまらん奴らしか居らんで退屈極まりないわ」

 そう大狼と言葉を交わす我にメイが震える声で聞いてくる。
「い、今たた大狼ってい言わなかった?」
「うむ。遥か太古の昔に人が付けた名であるので名であるかは疑問ではあるがな」

「大狼って!……その、もしかして大狼って『四神獣しじんじゅう』の大狼……?」

 四神獣、又は三神獣とも言われている太古から生きる者がある。
 それは巨躯であり、力が強く、保有魔力量が極端に多いという特徴を持つ。
 今では王種などと呼ばれる者が闊歩する時代から今に至るまで生きているという『神の使い』とも呼ばれる者を指す。
 『災害獣黒狐』、『疾風の大狼』、『絶硬の玄武』、そして『竜の始祖混沌竜』。
 この内の我を入れるか入れないかで人の中では意見が分かれるところであるが、我としてはどちらでも良いことだ。
 まだまだ人間が生まれて間もない頃に描かれた壁画にそれぞれの特徴が描かれており、気まぐれに人里に現れては荒らしていく黒狐の存在がそれを裏付けているため今も大狼と玄武も居るのではないかと噂されている。

「うむ、その大狼であるな」
「ふん!アタイの事を認識すら出来ない相手がよくもまあ残せたものだね」
「そう興奮するな」
「興奮するなだって?こんな所まで4匹も侵入者が居るというのに興奮するなと!」
「この者達はお主に会うため、我が主への口実の為に付いてきて貰っただけだ」

 そう言った途端、大狼が目を大きく開いた。

「主ィ?混沌竜ともあろう者が他者に下るなど……」
「ふふ、下るのではなく対等な関係である。つい先日家族だと言ってくれたのだ」
「は!まさかアンタが家族がどうのと嬉しげに語るなんて一体どんな強者なんだい?」
「我が主は弱いぞ?磨けば光るものはあるが、幾ら時が経とうとお主に勝てはせぬだろう」
 そう言うと大狼はグルルと悩む様に唸る。
「……アタイにはそんな奴に何の価値があるかわからないが、アンタが気に入ってるならアタイがこれ以上口出しするつもりもないよ」
「またいずれここへと共に来よう。一度言葉を交せばわかるかもしれんぞ?」
「アタイはアタイより弱い奴に興味なんて無いね」

 大狼はそう言ってフンと鼻息を鳴らすと苛立たし気に唸る。

「それはいいが、そこのオスはなんだい!?」

 そう吠えると我の後ろにビクビクしながら隠れていたユンが「キャン」と弱々しく鳴いた。

「ユンには一度、目指すべき目標を見せておくべきだと思ってな」
「はーん?アンタがそう言うってことは素質はあるんだろうね?」
「うむ、期待して良いぞ。素質だけで言えばいずれお主も超えるかも知れぬぞ?」
「それまでに一体何百年かかるんだか」
「千年は掛からぬと思うがな、最低でも五百年はかかるであろうな」
「はん!アンタは気が長すぎる」
「お主は気が短すぎる」

 我と大狼はそうツマラナそうにいい、しかしそのすぐ後に笑う。

「相変わらずなようで何よりであった」
「アタイも少しは退屈しのぎにはなった」
「では我はもう行くぞ」
「見送りはしないからね」
「元より期待はしておらぬ。では待たせたな、イツキ、メイ、ユンよ」
 そう呼び掛けると何時でも戦えるように身構えていた2人が武器を下ろす。
「も、もういいのか?」
「うむ、満足した」
「それなら早く帰りましょう?この子も怯えてますし」
「ワフゥ」



 そうして森を抜けたのは、既に日が傾いて空が茜に染まる頃であった。


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