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番外編

エルフの里の泉に落ちました

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「……は?」

 わけがわからない。
 取りあえず落ち着いて状況を整理しよう。

 たしか俺は今日いつも通り起きて朝ご飯にコンビニおにぎりを食べつつ登校して、授業を真面目に受けて休み時間は植田と鈴木と馬鹿な話をして、昼飯はコンビニ弁当を食べて午後の授業を受けた放課後にあいつらとゲーセンに行く。
 うん、ここまでは普通なのだ、ここまでは。

 で、俺は寒いからトイレに行って戻って大きな鏡にもたれかかるともたれかかれなくて、何かわけわからん感覚を味わって途中途切れまくりの声が聞こえたかと思うと意識を失い、気が付いたら浅い泉に浮かんでいて色白の耳の長い人間が弓矢を向けてきている臨戦態勢であった。

 ……全然サッパリわからん。

「貴様!何故人族がこの神聖なる泉に居るのだ!!」

 そして耳に入る言葉は日本語のようだった。
 ここは日本なのか、それとも偶然日本語が使える人が居る所に辿り着いたのか、はたまたなんか異世界転生物のラノベみたいな言語の自動翻訳的な能力でも授かっているのか……いや、最後のはないな。

「おい、聞こえておるだろう!早く答えんか!!」

 そしてこの先程から怒鳴っている男性……なんか耳長いし、同じ人間なのか?
 いや、人族がどうこう言ってたから人ではないのか?

「そうか、黙秘するか。ならば容赦はせぬ、矢をはな……」
「わー待って待って待って待って!ちょっと待って俺も今何が起きてるかわかんねぇんだよ!ちょっとだけ待ってくれ!!」

 そうこうしている内に射殺されそうになったので、取りあえず状況把握を一旦やめてこの場を乗り切ることに尽力することにした。

「なんだ?この期に及んでしらを切る気か!ここに偶然迷い込むなどあるはずがない!!」
「そんなん知らねーんだよ!なんか俺いつの間にかこんな場所にいただけなんだよ信じてくれ!」

 うわぁこれなんかものすっごいまずい所に辿り着いた感じか……もうほんと何なんだよ。
 


「フザケるな!我々『エルフ』をバカにするのも大概にしろ!!」
「……は、エルフ?」



 エルフ、エルフってあれだよな?ラノベだとか漫画だとかで人間よりも見た目がよく、魔力が高くて耳が長く、そしてプライドが高いとかいう。
 なんか納得し……いやいやいやいや、いくら異世界とはいえそのまんまの知識当てはめていいのか?

「んぐ!?」

 そんなことを考えていたら、唐突に頭の中に何かが流れ込んで来て、それにより一瞬頭痛を覚える。

(……えっと、どういうことだ?)

 そして今のが何かを考えていると、何故か今何が起こっているのかがある程度理解できてしまった。
 俺は今地球がある世界とは違う所にいて、この大陸以外では人は存在していない。
 そしてこの大陸は結構綺麗な円形をしていて、この目の前の耳の長いエルフがいると言う事は北にある魔国の南端にある『エルフの大森林』に居ることだけは確かだ。

 こんなこと、知っているはずがない。
 なら俺の妄想かとも思ったが、何故か今思い出したようなこの情報は絶対に間違えのない事だと思えてしまっていた。
 もう何がなんだかわからないが、とりあえずこの危険な状態を切り抜けてから考えた方がいいよな。

「とぼけても無駄だ!この森がエルフの居住地であることはどこに住んでいようと学ばぬはずがないだろう!!」
「んな事言われても、俺はなんかわけわかんねぇことが起きて、気付いたらここにいたんだよ」
「そのようなことがあるはずがない!」
 だが目の前のエルフは聞く耳を持たずただ怒鳴ってくる。
「この泉の存在は我々エルフ以外に知るものはおるはずがない上、幾重にも他種族が入り込めぬよう結界を張っておるのだぞ!」
「だーかーらー、知らねーっての!なぁ頼むよ、何でもいうこと聞くからさ、とりあえずその弓を降ろしてゆっくり話をしてくれよ」
「もういい!さっさ情報を吐かぬなら……」

 全く持って取り合ってすら貰えず、状況からして恐らく重役であろうエルフがサッと右手をあげた。
 それに周囲のエルフが既に矢を番えて構えていた弓を引き絞り俺へと狙いを定める。

「えっちょっまっ」
 慌てて手を前に出して左右に振ってみるものの、重役エルフの隣に居たエルフが矢から手を離……



「待ちなさい!!」



 鋭い女性の声が響く。
 その声に驚いたのか放たれた矢は俺の右の頬を掠って泉の中に突き刺さる。

 少し切れた右頬に痛みが走る。
 でも何故か重役エルフにその他エルフ達全員が急に片膝を地面についてその声のした方へと頭を下げたことへの驚きに痛みを忘れてその方向を見やる。

「その人間の身柄は私が預かるわ」

 すると、そこには長い金髪の女性エルフが立っていた。
 他のエルフ達は白いシャツのようなものに緑の上着、下は膝より少し下程までのズボンを履いていたのに対し、その女性エルフは……何だろう、道着の上の丈を足元まで伸ばした感じの服を身に纏っていた。

「な!?幾ら貴方様でも、この場に入り込んだ人族を……」
 だがそれに反対する重役エルフの声を女性エルフが遮る。
「なに?私に意見をするの?」
「……いえ、そんな、貴方様のお言葉であれば……」
「ふん、それでいいのよ」

 なんだろう、この光景は。
 僕が泉の中で呆けていると、何か重役エルフよりも偉いと思う女性エルフが僕の方へバシャバシャと水を盛大に蹴り上げながら向かってきた。
 そして女性エルフは俺の前で立ち止まると少しだけ腰を下げ、俺の顔をしげしげと眺める。

「ふーん、ま、とても綺麗とは言いがたいけど、それなりの顔立ちはしてるのね」
「何なんだよイキナリ……そりゃイケメンでも野性味とかも無いけどさ……」

 とはいえとても綺麗な女性エルフが悪くはないと言ってくれたことに対して実は内心喜んでいたりする。

 と、そこでいきなり僕の左肩を彼女が掴んできた。
 流石にそれは払おうと右手をあげかけたその瞬間、体の中に何かが入り込んで来た。

「うんうん、魔力量は人間にしてはそれなりと」

 彼女はそう呟くと、僕の顔を見て微笑む。
 凄く美人な女性エルフの微笑みを見た僕は一瞬頬が緩む。



「君は今日から私の下僕だから、よろしく」



 それを聞いて、すぐに引き締まったが。
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