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第三章 農民が動かす物語
バートン家
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《ゼンside》
「今日、来週ロイを迎えに来ると俺の家から連絡があった」
ロイとミリィが眠った後、俺はルミに隠してもどうしようもないし、一人でどうするか決めて良い問題でもないので話す。
「あなたの家からってことは、バートン家よね?」
「そうだ」
俺がそう頷くと、ルミは怒りで肩を震わせる。
「あんな家にロイを行かせるなんて、私は絶対嫌よ!」
過去にルミの両親が死んだ際、俺に送られてきた手紙の事を忘れられない彼女はそう叫ぶ。
だが、俺はそれに賛成出来なかった。
「だがな、あいつらは人としてクソ最低な奴だけど、でも商人としては優秀なんだ」
そう、バートン家とは商人の家系である。
それもただの小さな店ではなく、この国で最も巨大な商会であり、そしてこの国のほぼ全ての町や村との物流、他国との貿易などを行っている巨大な商会のまとめ役である。
あいつらは俺の親だから育て、俺を商人にする為に様々な教育を受けさせた。
それは周囲から見ればとても幸せな事で、とても裕福で何も不自由のない暮らしだった。
暴力を振るわれた事は無いし、食事もそんじょそこらの下級貴族よりも良い物を与えられ、服も商人として派手過ぎはしないが綺麗で清潔感のある服を着ていた。
だが、その暮らしにはたった1つ、何をしようと決して得られない物があった。
それは子供であれば親からお金の有無に関わらず与えられる筈のもの、『愛情』。
俺は確かに周囲の奴等よりも上等な服を着て、豪華なご飯を食べて、商人として生きていく為の知識を与えられ、そしていつかはバートン家の跡継ぎとしての地位すら約束されていたのだ。
だが、俺は「これまでのことを無かった事にして、あの時に戻れるとしたら戻りたいですか?」と聞かれても、絶対に戻りたいなんて思わない。
王都の学校では貴族も商人も平民も、誰もが身分など特に気にすることが無かった。
この国が出来たのは約200年前の事であり、その頃から国王様は今のメルク様も含め皆『身分などただの仕事の差、同じ国に生きる者同士仲良くしなくてはならない』としているため、そこは至って平和なものだ。
だけど、俺はそこでいつも他の人に羨ましいと思う事があった。
クラスも身分関係なく混ぜられており、そこで話していると俺がどうしとも得られない『親の愛情』を感じる話をよく聞いたのだ。
「なあおいゼン、今度この前親に連れられてルルトに観光してきたぜ!いやー人が物凄く多いくてな……ま、そんな感じですっげえ楽しかったぜ!」
「ねぇねぇゼンさん、この前テストで良い点取ったからってお父さんがこの髪飾りを買ってくれたの!似合ってるかな?」
「ゼン、親がこの前旅行行っててよ、土産を皆に配ってるからお前にもやるよ」
それは全て、俺がたったの一度も経験したことの無い事だった。
家族と旅行?あちこちに挨拶回りに行くことと市場調査等で回ることはあれど観光目的の旅行なんて無かった。
テストで良い点?そんなの毎回全教科満点を取って当たり前、ケアレスミス1つでもあればなんでそんな間違えをしたのかを親の前で話し、それを無くすために使用人に作らせた模擬テストで満点を取るために勉強しなくてはならない。
親が旅行に行ってお土産?それはあっても名産品や特産品を食べて味を完璧に覚え、どこでどんな物を売っているのかを把握する為の物でしか無い。
俺はちゃんとわかっていた、これは立派な商人になるための教育だと。
でも、俺には耐え切れなかった。
俺はいつも家の中で孤独感を感じて生きてきた。
周りの皆が話す温かな家族が羨ましかった。
こんな豪勢な暮らしより、貧しくても親の愛情を受けられる事の方が良かった。
あいつらの俺へ与えるのはただただ商人になるために必要なもののみ。
食事の時に話すのは商売の事か学校での成績の事だけ。
他の事を話そうとすれば「仕事の邪魔だ」と言ってとてつもなく冷たい瞳を向けられた。
「だからこそ、俺はロイの道を一時の感情で潰したくねえんだ」
例えあいつらの所へ行っても死ぬまで強制労働とかさせられるわけではなく、恐らく商人としての知識を与えて俺が居なくなって空いた跡継ぎの穴を埋めるつもりだろう。
俺にはどちらがロイにとって幸せなのかわからない。
もしかしたらロイならばこの村で生きるより、バートン家で生きる方が幸せかもしれないからだ。
「でもあなた!」
「すまない、ちょっと村長の所へ行って来る」
俺はルミの言葉を無視して家を出る。
もう夜遅いが少し話をするだけなら許してくれるはずだ。
俺がこの村に来てロイとミリィを育てる時に一番大切にした事は『愛情を注ぐ』事。
それは俺が昔一番欲しくて、しかし決して与えられることの無かった物である。
「ロイからしてみたら、どっちが幸せなんだろうな……」
「今日、来週ロイを迎えに来ると俺の家から連絡があった」
ロイとミリィが眠った後、俺はルミに隠してもどうしようもないし、一人でどうするか決めて良い問題でもないので話す。
「あなたの家からってことは、バートン家よね?」
「そうだ」
俺がそう頷くと、ルミは怒りで肩を震わせる。
「あんな家にロイを行かせるなんて、私は絶対嫌よ!」
過去にルミの両親が死んだ際、俺に送られてきた手紙の事を忘れられない彼女はそう叫ぶ。
だが、俺はそれに賛成出来なかった。
「だがな、あいつらは人としてクソ最低な奴だけど、でも商人としては優秀なんだ」
そう、バートン家とは商人の家系である。
それもただの小さな店ではなく、この国で最も巨大な商会であり、そしてこの国のほぼ全ての町や村との物流、他国との貿易などを行っている巨大な商会のまとめ役である。
あいつらは俺の親だから育て、俺を商人にする為に様々な教育を受けさせた。
それは周囲から見ればとても幸せな事で、とても裕福で何も不自由のない暮らしだった。
暴力を振るわれた事は無いし、食事もそんじょそこらの下級貴族よりも良い物を与えられ、服も商人として派手過ぎはしないが綺麗で清潔感のある服を着ていた。
だが、その暮らしにはたった1つ、何をしようと決して得られない物があった。
それは子供であれば親からお金の有無に関わらず与えられる筈のもの、『愛情』。
俺は確かに周囲の奴等よりも上等な服を着て、豪華なご飯を食べて、商人として生きていく為の知識を与えられ、そしていつかはバートン家の跡継ぎとしての地位すら約束されていたのだ。
だが、俺は「これまでのことを無かった事にして、あの時に戻れるとしたら戻りたいですか?」と聞かれても、絶対に戻りたいなんて思わない。
王都の学校では貴族も商人も平民も、誰もが身分など特に気にすることが無かった。
この国が出来たのは約200年前の事であり、その頃から国王様は今のメルク様も含め皆『身分などただの仕事の差、同じ国に生きる者同士仲良くしなくてはならない』としているため、そこは至って平和なものだ。
だけど、俺はそこでいつも他の人に羨ましいと思う事があった。
クラスも身分関係なく混ぜられており、そこで話していると俺がどうしとも得られない『親の愛情』を感じる話をよく聞いたのだ。
「なあおいゼン、今度この前親に連れられてルルトに観光してきたぜ!いやー人が物凄く多いくてな……ま、そんな感じですっげえ楽しかったぜ!」
「ねぇねぇゼンさん、この前テストで良い点取ったからってお父さんがこの髪飾りを買ってくれたの!似合ってるかな?」
「ゼン、親がこの前旅行行っててよ、土産を皆に配ってるからお前にもやるよ」
それは全て、俺がたったの一度も経験したことの無い事だった。
家族と旅行?あちこちに挨拶回りに行くことと市場調査等で回ることはあれど観光目的の旅行なんて無かった。
テストで良い点?そんなの毎回全教科満点を取って当たり前、ケアレスミス1つでもあればなんでそんな間違えをしたのかを親の前で話し、それを無くすために使用人に作らせた模擬テストで満点を取るために勉強しなくてはならない。
親が旅行に行ってお土産?それはあっても名産品や特産品を食べて味を完璧に覚え、どこでどんな物を売っているのかを把握する為の物でしか無い。
俺はちゃんとわかっていた、これは立派な商人になるための教育だと。
でも、俺には耐え切れなかった。
俺はいつも家の中で孤独感を感じて生きてきた。
周りの皆が話す温かな家族が羨ましかった。
こんな豪勢な暮らしより、貧しくても親の愛情を受けられる事の方が良かった。
あいつらの俺へ与えるのはただただ商人になるために必要なもののみ。
食事の時に話すのは商売の事か学校での成績の事だけ。
他の事を話そうとすれば「仕事の邪魔だ」と言ってとてつもなく冷たい瞳を向けられた。
「だからこそ、俺はロイの道を一時の感情で潰したくねえんだ」
例えあいつらの所へ行っても死ぬまで強制労働とかさせられるわけではなく、恐らく商人としての知識を与えて俺が居なくなって空いた跡継ぎの穴を埋めるつもりだろう。
俺にはどちらがロイにとって幸せなのかわからない。
もしかしたらロイならばこの村で生きるより、バートン家で生きる方が幸せかもしれないからだ。
「でもあなた!」
「すまない、ちょっと村長の所へ行って来る」
俺はルミの言葉を無視して家を出る。
もう夜遅いが少し話をするだけなら許してくれるはずだ。
俺がこの村に来てロイとミリィを育てる時に一番大切にした事は『愛情を注ぐ』事。
それは俺が昔一番欲しくて、しかし決して与えられることの無かった物である。
「ロイからしてみたら、どっちが幸せなんだろうな……」
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