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第三章 農民が動かす物語
不穏な便り
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「ただいま~」
僕は家の隣にある小さな建物に入る。
ユンとミリィは先に家へと戻っている。
「おうおかえり。なんかあったか?」
そこは父さんが家具を作るための部屋であり、家の中と外の両方から入れるようになっている。
「これ、父さんに手紙だって」
「おおそうか、ありがとなロイ」
そして作業の手を止めた父さんに手紙を渡すとすぐに封を切る。
「えっとなになに……」
と、そこで手紙を読み進めるにつれて父さんの顔がどんどん険しくなっていく。
「なぁロイ……」
そう父さんが言いかけた時、家と作業場を行き来する為の戸が勢い良く開く。
「お兄ちゃん、素揚げパン温めたから早く食べよう!」
そこからもう待ち切れないという雰囲気を出しているミリィが顔を出す。
「わかったからちょっと待って。それで父さん、何かな?」
「いや、何でもないから早く手を洗って食べて来なさい」
「うん!」
父さんはそう言ったけど確実に何でもないという感じでは無かった。
でもミリィが「早く早く!」と言っているので苦笑いして家に帰る事にした。
本当に大事な事なら後で教えてくれるはずだと思うから。
《ゼンside》
「はぁ、何でこんなことに……」
思い当たる節は幾つもあるのだが、だからといってこんなに早く来るとは思ってなかった。
俺宛の手紙は昔王都に住んでいた頃の友人からしか来る事は無い。
なので俺はクートの愚痴かヘッジの飲みの誘い辺りだと思い封を切ったのだ。
そうしてワクワクしながら取り出した手紙の差出人は『ヴォルト・バートン』。
こいつはクルク村に移住してからただの一度も会っていない相手。
だが、俺もあいつもお互いの事は良く知っている。
俺が王都にいた頃の名前は『ゼン・バートン』。
つまり、この手紙の主と同じ家名を持つ元家族であった。
「……あーやな事思い出した、これは今考えても埒が明かねぇや」
俺はそう呟くと手紙をクシャクシャにして丸め、作業場の裏に出て火魔法で灰にした。
「さて、作業の続きすっか」
俺はそう呟くと、完成直前のタンスを仕上げるために作業場に戻る。
焼却した手紙には短くこう書かれていた。
『8月の14日、孫を迎えに行く』と。
《ロイside》
「これが素揚げパンかぁ」
今、僕とミリィの前に皿に盛られた素揚げパンがのせられていた。
「ねぇねぇ早く食べよーよ!」
「そうだね。それじゃあいただきます」
「いただきます!」
手を合わせてそう言うと、僕とミリィは直接手で摘んで食べる。
「美味しい!」
「外はしっかり揚がってるけど中がふわふわしてる。これがメルクさんの言ってた素揚げパンかぁ」
砂糖をかけてはいないみたいだけど生地に練り込んであるのかしっかりと甘い。
「あ、でも5個なら皆で分けて、あと一つはどうしようか?」
「ミリィが食べたかったんだから、ミリィが食べていいよ」
「うん!ありがとうお兄ちゃん」
ミリィはそう言うともう一つ摘んで頬張り、満面の笑みを浮かべる。
ミリィはとても美味しそうに食べるから、それを見るだけで僕も満足だ。
「うむ、これは美味いな」
「ワン!」
そして僕のを3等分してコンとユンにもあげていたんだけど、気に入ったみたいだった。
と、そこで唐突にあることを思い付いた。
「そうだミリィ、今度一緒に王都に行って食べ歩きしない?」
この前メルクさんの元へ行った時、揚げパンは既に王都でも販売を開始して凄い売れ行きとなっているらしく、それに加えて「パンを揚げておいしいのなら」ととにかく色々な物を揚げてみて新商品として販売を開始している例もあるらしいのだ。
その中でも特に丸芋の揚げ物が様々な方法で揚げられて、とても美味しいそうなのだ。
「うん、行きたい!」
「コン、1日で僕とコンとミリィ、ソフィにブロウとコールも一緒に転移することって出来る?」
「その程度であれば余裕だ」
「それじゃあ今度皆に予定を聞いて、王都観光でもしようか。お金は僕が出せばいいかな?」
「すっごく楽しみ!」
「皆で行ったら絶対楽しいよね」
「うむ、我も楽しみだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
『丸芋』とは日本で言う「じゃがいも」のことを指します。
僕は家の隣にある小さな建物に入る。
ユンとミリィは先に家へと戻っている。
「おうおかえり。なんかあったか?」
そこは父さんが家具を作るための部屋であり、家の中と外の両方から入れるようになっている。
「これ、父さんに手紙だって」
「おおそうか、ありがとなロイ」
そして作業の手を止めた父さんに手紙を渡すとすぐに封を切る。
「えっとなになに……」
と、そこで手紙を読み進めるにつれて父さんの顔がどんどん険しくなっていく。
「なぁロイ……」
そう父さんが言いかけた時、家と作業場を行き来する為の戸が勢い良く開く。
「お兄ちゃん、素揚げパン温めたから早く食べよう!」
そこからもう待ち切れないという雰囲気を出しているミリィが顔を出す。
「わかったからちょっと待って。それで父さん、何かな?」
「いや、何でもないから早く手を洗って食べて来なさい」
「うん!」
父さんはそう言ったけど確実に何でもないという感じでは無かった。
でもミリィが「早く早く!」と言っているので苦笑いして家に帰る事にした。
本当に大事な事なら後で教えてくれるはずだと思うから。
《ゼンside》
「はぁ、何でこんなことに……」
思い当たる節は幾つもあるのだが、だからといってこんなに早く来るとは思ってなかった。
俺宛の手紙は昔王都に住んでいた頃の友人からしか来る事は無い。
なので俺はクートの愚痴かヘッジの飲みの誘い辺りだと思い封を切ったのだ。
そうしてワクワクしながら取り出した手紙の差出人は『ヴォルト・バートン』。
こいつはクルク村に移住してからただの一度も会っていない相手。
だが、俺もあいつもお互いの事は良く知っている。
俺が王都にいた頃の名前は『ゼン・バートン』。
つまり、この手紙の主と同じ家名を持つ元家族であった。
「……あーやな事思い出した、これは今考えても埒が明かねぇや」
俺はそう呟くと手紙をクシャクシャにして丸め、作業場の裏に出て火魔法で灰にした。
「さて、作業の続きすっか」
俺はそう呟くと、完成直前のタンスを仕上げるために作業場に戻る。
焼却した手紙には短くこう書かれていた。
『8月の14日、孫を迎えに行く』と。
《ロイside》
「これが素揚げパンかぁ」
今、僕とミリィの前に皿に盛られた素揚げパンがのせられていた。
「ねぇねぇ早く食べよーよ!」
「そうだね。それじゃあいただきます」
「いただきます!」
手を合わせてそう言うと、僕とミリィは直接手で摘んで食べる。
「美味しい!」
「外はしっかり揚がってるけど中がふわふわしてる。これがメルクさんの言ってた素揚げパンかぁ」
砂糖をかけてはいないみたいだけど生地に練り込んであるのかしっかりと甘い。
「あ、でも5個なら皆で分けて、あと一つはどうしようか?」
「ミリィが食べたかったんだから、ミリィが食べていいよ」
「うん!ありがとうお兄ちゃん」
ミリィはそう言うともう一つ摘んで頬張り、満面の笑みを浮かべる。
ミリィはとても美味しそうに食べるから、それを見るだけで僕も満足だ。
「うむ、これは美味いな」
「ワン!」
そして僕のを3等分してコンとユンにもあげていたんだけど、気に入ったみたいだった。
と、そこで唐突にあることを思い付いた。
「そうだミリィ、今度一緒に王都に行って食べ歩きしない?」
この前メルクさんの元へ行った時、揚げパンは既に王都でも販売を開始して凄い売れ行きとなっているらしく、それに加えて「パンを揚げておいしいのなら」ととにかく色々な物を揚げてみて新商品として販売を開始している例もあるらしいのだ。
その中でも特に丸芋の揚げ物が様々な方法で揚げられて、とても美味しいそうなのだ。
「うん、行きたい!」
「コン、1日で僕とコンとミリィ、ソフィにブロウとコールも一緒に転移することって出来る?」
「その程度であれば余裕だ」
「それじゃあ今度皆に予定を聞いて、王都観光でもしようか。お金は僕が出せばいいかな?」
「すっごく楽しみ!」
「皆で行ったら絶対楽しいよね」
「うむ、我も楽しみだ」
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『丸芋』とは日本で言う「じゃがいも」のことを指します。
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