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第二章 混沌竜の契約者
責任
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「テッドさん、このお茶ってなんてお茶なんですか?」
先程1口貰った時は毒が入っていたらという言葉で味わうことが出来なかったのだが、今もう一度飲んでみると、それは一般的なお茶である麦茶とは違ったのだ。
「どうじゃ、美味しいか?」
「はい。ちょっと苦味がありますけど、とっても美味しいです」
「そうかそうか、わかってくれるか」
そう言うとテッドさんは嬉しそうに言う。
「これは『緑茶』と言うお茶でな、昔東国に旅した時にこのお茶を飲んでから気に入って飲んでいるのじゃ。残念ながら東国近辺でしか栽培しておらぬから毎月個人的に東国から取り寄せているのじゃよ」
「そうなんですね」
「私もこのお茶好きです」
「おおそうか!嬉しいのう、なかなかこのお茶を気にいる者がおらんのじゃ。少しだけではあるが茶葉を分けてあげよう」
そう言ってテッドさんは魔法を使って小袋に幾らか茶葉を詰め始める。
「え、東国から取り寄せてるんですよね?」
「なに気にするでない。どうせこれを飲むのは儂だけなのじゃ、取り寄せても1杯分で銅貨10枚程にしかならんしの」
それを聞いた僕とソフィは目を丸くして驚く。
「そ、そんな高い物いただけません!」
「そんなに高い物だったのですか!?」
銅貨10枚もあれば僕とソフィの家では1週間は余裕で暮らせる。
「なに、儂は現役の冒険者の頃に白金貨単位で稼いでおるし、今もギルドマスターなんて仕事をしておるのだ、この程度君らの鉄貨1枚程の価値と然程変わらんよ」
そう言って笑いながら詰めた袋を渡してくれたテッドさんは、この人も冒険者なんだなと思わせるものだった。
「それはそれとして、じゃ。ロイ君、君は先程話した通り大変強力な力を持っている。その力を持つことの責任についての話じゃ」
急に真剣な表情に戻ったテッドさんの言葉に、僕とソフィも真面目に聞く姿勢になる。
「これから先、様々な目的を持った者達が君の元にくるじゃろう。君を殺すために来る刺客、君を利用するために甘い誘惑や嘘の話で騙す者、または君の身の回りの人を人質にするものもおるかもしれぬ」
これはさっきも聞いたことだ。
「しかし、ロイ君の持つ力は本当に強大じゃ。何かあった時に怒りや憎しみなどの強い感情に押し流されてしまい、力を感情のままに振るえば全生物の絶滅でも簡単に出来るじゃろう」
「え、ぼ、僕はそんなこと」
そんなことはしない、そう言おうとするのをテッドさんは押し止める。
「例えばの話じゃ」
テッドさんはそう言って続ける。
「その力を自らの欲や感情に流されるまま好きなように扱うのは簡単じゃ。しかし、一時の欲や感情に流されぬように自らを律せねばならん。一時の考えで行動すればその時、その瞬間は満足するじゃろう。しかし冷静になれば必ずその自らが感情に任せて行った行為に後悔するじゃろう」
「これが、力を持つという事の『責任』じゃ」
何も、言葉が出なかった。
僕はコンが従魔になってもこれまで通りのんびり生活が永遠に続くと思っていた。
そして、もし何かあってもコンさえ居れば何とかなると思っていた。
それも相手が攻撃してきたら返り討ちにでも出来るだろうと、そう軽く考えていた。
でも、違った。
そう言われてコンが従魔になった際に僕が酷い目にあったら村ごと消滅させるかもと言っていたことを思い出す。
例え僕が気にする事はないと思っていても、よくよく考えてみればコンが僕のことを心配して何か勝手な行動を起こすかもしれない。
もし何も言わなければ何か大惨事を引き起こす事があるかもしれない。
僕自身が、というのも勿論言われた通りではあったけど、それよりコンが勝手な行動で他人を傷付けない保証は何処にも無く、それで人が死んでしまうことだってあるかもしれない。
僕は、ここに来て初めて混沌竜であるコンを従魔にした事の重大さに気付かされた。
「ろ、ロイ君……?」
ソフィが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「な、なに?」
「顔真っ青だよ、大丈夫?」
コンも心配そうに見つめてくる。
「ふむ、ちと脅かし過ぎたようじゃな」
テッドさんはそう言うと、空になっていた湯呑みに新しいお茶を注ぎ足した。
「ほれ、一先ず一杯飲んで落ち着きなさい」
言われるまま、いつの間にか少し震えていた手を持ち上げてお茶を啜る。
すると、不思議と心が落ち着いた。
「済まぬな、急にこんな話をして」
そう言って頭を下げるテッドさん。
「謝るのは僕の方です。これまでコンを従魔にした事の責任なんて考えてもみませんでしたから、今言われて初めて気がついたんです。大事な事を教えていただいて、ありがとうございました」
僕も深く頭を下げる。
「ふむ、この後冒険者登録内容に関して話そうと思っておったが、暫く時間を置いた方が良さそうじゃの」
「え、僕は大丈夫で……」
「無理はせんでいい。少し別部屋を用意させるのでな、続きはもう少し落ち着いてからじゃ」
「そうだよロイ君、まだ顔色も悪いし、ここはお言葉に甘えた方がいいよ」
「うむ、我も同意見だ」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
それから少しして、僕とソフィとコンは何かの魔法で呼んだらしい受付嬢のキッカさんに案内され、冒険者ギルド2階の別の部屋、普段は冒険者との個別のやり取りに使われるという部屋に移動した。
先程1口貰った時は毒が入っていたらという言葉で味わうことが出来なかったのだが、今もう一度飲んでみると、それは一般的なお茶である麦茶とは違ったのだ。
「どうじゃ、美味しいか?」
「はい。ちょっと苦味がありますけど、とっても美味しいです」
「そうかそうか、わかってくれるか」
そう言うとテッドさんは嬉しそうに言う。
「これは『緑茶』と言うお茶でな、昔東国に旅した時にこのお茶を飲んでから気に入って飲んでいるのじゃ。残念ながら東国近辺でしか栽培しておらぬから毎月個人的に東国から取り寄せているのじゃよ」
「そうなんですね」
「私もこのお茶好きです」
「おおそうか!嬉しいのう、なかなかこのお茶を気にいる者がおらんのじゃ。少しだけではあるが茶葉を分けてあげよう」
そう言ってテッドさんは魔法を使って小袋に幾らか茶葉を詰め始める。
「え、東国から取り寄せてるんですよね?」
「なに気にするでない。どうせこれを飲むのは儂だけなのじゃ、取り寄せても1杯分で銅貨10枚程にしかならんしの」
それを聞いた僕とソフィは目を丸くして驚く。
「そ、そんな高い物いただけません!」
「そんなに高い物だったのですか!?」
銅貨10枚もあれば僕とソフィの家では1週間は余裕で暮らせる。
「なに、儂は現役の冒険者の頃に白金貨単位で稼いでおるし、今もギルドマスターなんて仕事をしておるのだ、この程度君らの鉄貨1枚程の価値と然程変わらんよ」
そう言って笑いながら詰めた袋を渡してくれたテッドさんは、この人も冒険者なんだなと思わせるものだった。
「それはそれとして、じゃ。ロイ君、君は先程話した通り大変強力な力を持っている。その力を持つことの責任についての話じゃ」
急に真剣な表情に戻ったテッドさんの言葉に、僕とソフィも真面目に聞く姿勢になる。
「これから先、様々な目的を持った者達が君の元にくるじゃろう。君を殺すために来る刺客、君を利用するために甘い誘惑や嘘の話で騙す者、または君の身の回りの人を人質にするものもおるかもしれぬ」
これはさっきも聞いたことだ。
「しかし、ロイ君の持つ力は本当に強大じゃ。何かあった時に怒りや憎しみなどの強い感情に押し流されてしまい、力を感情のままに振るえば全生物の絶滅でも簡単に出来るじゃろう」
「え、ぼ、僕はそんなこと」
そんなことはしない、そう言おうとするのをテッドさんは押し止める。
「例えばの話じゃ」
テッドさんはそう言って続ける。
「その力を自らの欲や感情に流されるまま好きなように扱うのは簡単じゃ。しかし、一時の欲や感情に流されぬように自らを律せねばならん。一時の考えで行動すればその時、その瞬間は満足するじゃろう。しかし冷静になれば必ずその自らが感情に任せて行った行為に後悔するじゃろう」
「これが、力を持つという事の『責任』じゃ」
何も、言葉が出なかった。
僕はコンが従魔になってもこれまで通りのんびり生活が永遠に続くと思っていた。
そして、もし何かあってもコンさえ居れば何とかなると思っていた。
それも相手が攻撃してきたら返り討ちにでも出来るだろうと、そう軽く考えていた。
でも、違った。
そう言われてコンが従魔になった際に僕が酷い目にあったら村ごと消滅させるかもと言っていたことを思い出す。
例え僕が気にする事はないと思っていても、よくよく考えてみればコンが僕のことを心配して何か勝手な行動を起こすかもしれない。
もし何も言わなければ何か大惨事を引き起こす事があるかもしれない。
僕自身が、というのも勿論言われた通りではあったけど、それよりコンが勝手な行動で他人を傷付けない保証は何処にも無く、それで人が死んでしまうことだってあるかもしれない。
僕は、ここに来て初めて混沌竜であるコンを従魔にした事の重大さに気付かされた。
「ろ、ロイ君……?」
ソフィが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「な、なに?」
「顔真っ青だよ、大丈夫?」
コンも心配そうに見つめてくる。
「ふむ、ちと脅かし過ぎたようじゃな」
テッドさんはそう言うと、空になっていた湯呑みに新しいお茶を注ぎ足した。
「ほれ、一先ず一杯飲んで落ち着きなさい」
言われるまま、いつの間にか少し震えていた手を持ち上げてお茶を啜る。
すると、不思議と心が落ち着いた。
「済まぬな、急にこんな話をして」
そう言って頭を下げるテッドさん。
「謝るのは僕の方です。これまでコンを従魔にした事の責任なんて考えてもみませんでしたから、今言われて初めて気がついたんです。大事な事を教えていただいて、ありがとうございました」
僕も深く頭を下げる。
「ふむ、この後冒険者登録内容に関して話そうと思っておったが、暫く時間を置いた方が良さそうじゃの」
「え、僕は大丈夫で……」
「無理はせんでいい。少し別部屋を用意させるのでな、続きはもう少し落ち着いてからじゃ」
「そうだよロイ君、まだ顔色も悪いし、ここはお言葉に甘えた方がいいよ」
「うむ、我も同意見だ」
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
それから少しして、僕とソフィとコンは何かの魔法で呼んだらしい受付嬢のキッカさんに案内され、冒険者ギルド2階の別の部屋、普段は冒険者との個別のやり取りに使われるという部屋に移動した。
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