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第二章 混沌竜の契約者

揚げパン

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「ロイよ、メルクから連絡が来たぞ」
 メルクさんとノトさんが遊びに来てから1ヶ月が過ぎ、畑には育ってきた野菜を支えるための木製の支柱が立ち並んでいる。
「なんて来たの?」
「《予定通り商品開発と販売の目処が立った。なのでこの後12時に指定の場所に転移して来てほしい》とのことだ」

 指定の場所とは1ヶ月前にメルクさんとノトさんが転移に使用した空き部屋のことだ。
 元々使用予定が無く手入れだけしていた部屋だったらしいけど、コンという竜が僕の従魔として召喚され、またメルクさんが大変な竜好きで、転移が使えるコンと僕が転移して来ても平気な部屋として今は必要最低限の家具が置かれている。

「わかった。それじゃあコンはソフィに今日になったって伝えてきてくれる?」
「了解した」
 これは、メルクさんが帰った翌日にソフィに揚げたパンを食べてもらってからの流れを話した時に「確かそれってアイデア料で売上の数割を受け取るって内容もあったはずだけど、ロイ君そういう話苦手だったよね」といった経緯でソフィも一緒に着いて行くことになっているのだ。

「僕も行く準備をしないとね」



「行ってきます!」
「行ってらっしゃいお兄ちゃん、ソフィお姉ちゃん」
「行ってきます」
「ワン!」
 12時、僕とソフィはミリィと今回はお留守番のユンに挨拶をするとコンが転移を使用する。



「いらっしゃい、ロイ君、コン殿。それとソフィさん」
「お邪魔します、国王様」
「お、お邪魔します」
「健康そうだなメルクよ」
「皆様お久しぶりです」
 転移先である城の1室、国王様であるメルクさんと総務大臣のノトさんに挨拶を交わす。
「それでは早速だがあのパンの話に移ろうか」
 メルクさんにそう言われ、僕達は部屋の真ん中にある椅子に座る。

「ではまず商品に関してだが、あれから色々と試作して幾つか良い物が出来た。大きなのはあの揚げて砂糖をまぶしたパンに黄豆(大豆)を粉にした物を砂糖と混ぜた物、あとは生地そのものに砂糖などを混ぜて味をつけて直接揚げた物だ」
 メルクさんは言いながら味を思い出していたのか、つばを飲んでいた。
「これを販売するにあたり、これまで通りパンとして売るのでは売れ行きが怪しいので名前は前者を『揚げパン』、後者を『素揚げパン』として販売したいと考えている」
「え、パンに名前つけたんですか?」
 この世界ではパンはパン。
 どのパンを指すのかは『~が~のパン』みたいに説明するのが普通だ。
「はい。そもそもパンは焼くものであり、揚げたパンはなかったですから。それに今回販売を開始するのは北の冒険者の街の空き店舗で、城のメイドの者と兵を少数送って販売を開始する予定です」
 ノトさんが名前の理由と販売場所の説明をしてくれた。



「そこで、値段は初めなので少々高めだが揚げパンに砂糖をまぶした物を鉄貨30、黄豆の粉を混ぜた物を40、そして素揚げパンを50枚で販売する予定だ」



 この世界の通貨は下から順に『鉄貨』『銅貨』『銀貨』『金貨』『白金貨』の5種類である。
 一般的な暮らしをしていれば金貨を目にすることはまず滅多になく、その上白金貨ともなれば貴族か物凄く腕の立つ冒険者ぐらいしか扱う者が居ない。
 そのため平民の間では『白金貨を見る事が出来れば一生お金に困る事はなくなる』という迷信が流れていたりする。



「そんなに高くして売れますか?」
 と、ここでソフィが質問する。
「ええ。冒険者は良くも悪くも好奇心が強く、またそこそこの腕があればこのくらいの値であればまず間違いなく買って貰えるはずです。また冒険者は世界中を旅するものも多く、仲間内で様々な情報を交換するので人気であれば国内に限らず国外にもよい宣伝効果になるはずです」
「それなら売れるでしょうけど、国の名物とするならずっとそのままというわけにはいかないと思いますけど」
「それに関しては反応が確認取れ次第、まずは周辺の店にレシピを広めて行くつもりです。その後少しずつ国中に広めていく予定です」
「わかりました、ありがとうございます」



「では次にロイ君のアイデア料の話ですが……大丈夫ですか?」
「えっと……」
「ロイ君、やっぱり商売に関しての話はとことん苦手だよね」

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 この世界では鉄貨1枚が日本円にして10円、各貨幣百枚毎に1つ上の貨幣の価値になるため『鉄貨→10円』『銅貨→千円』『銀貨→10万』『金貨→一千万』『白金貨→10億』となります。
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