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第二章 混沌竜の契約者

ユン

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「キャンキャンキャン!」
 そしていよいよ意識が飛びかけたその時、小狼が駆け寄って来て僕の左腕の傷に抱きついた。

「ああああああああああ!?」
 只でさえ激痛を発する深い傷に小狼の体毛が当たって更に酷い激痛に変わる。

「ワン!」
 と、そこで何故か急に痛みが引き始めた。
「……え?」
「グルルルルル……」



 段々と意識がハッキリして目を開くと、そこには黄金の光を放つ小狼の姿があった。



「これって、もしかして治癒魔法……?」
「ガルルルル……」
 小狼は唸り声を出しながら治癒魔法を使用していた。

 ちなみにこれはまだ僕が知らないことではあったけど、治癒魔法には2種類ある。
 1つは昨日小狼の傷を治したのと同じく活性化させて治癒を促す方法。
 もう1つは周囲の魔力を利用して直接傷を治してしまう方法。
 前者は比較的簡単に行える代わりに治癒される者の体力を使うが、後者は使用に関して大変な技量が必要になる代わりに対象者には負担がかからないというメリットがある。
 今使用されているのは前者であるが、それでも使用には最低限の光魔法に対する適性が無いと使用することが出来ない。

「君……治癒魔法なんて使えたの?」
 僕は先程までの激痛がまるで嘘のように無くなった腕に驚きつつ、とてつもない疲労感も感じながら小狼に対して問いかける。
「ワフ?」
 でも小狼はよくわからなかったようで首を傾げる。

 と、そんな小狼の様子が可愛くて右腕を持ち上げて頭を撫でようとしたのだが、何故か上手く力が入らない。
「あれ、おかしいな……」
 とりあえず寝たままもあれなので、起き上がろうと必死に力を込めることで何とか右腕を地面に突いて座る事に成功する。
 足を前に伸ばしたまま上体を起こしただけだけど、これ以上姿勢を変える体力もない。
「ふぅ……あ、やっぱりダメかも……」
 そこで頭がクラクラして動けなくなる。

 それもそのはずで、今考えると簡単にわかることなのだが、実は前者の治癒魔法では傷を治すことは出来ても血を増やすにはまた特殊な技術が必要になるため今は血が足りていないのだ。
 更に昨日の無理の疲れが取れない内に大怪我を負い、それを治すために自らの体力を使う治癒魔法を受けたのだ、ただの10歳の子供に体力が残っている筈がない。

「グーグルル、ガウ!」
 と、そこで未だ左腕に抱きついたままの小狼が吠える。
 すると狼の群れの何匹かがすぐに森に入っていき、約1分ほどすると戻って来た。

 その狼達は何故か幾つもの果物を僕の目の前に置いては森に戻り、また果物を持ってくることを3回ほど繰り返した。
 その行動に唖然としていると、小狼が僕の腕から離れてその果物の前に行き、1つの赤い果物を僕の右手に転がしてきた。

「もしかして、食べてってこと?」
「ワン!」
 その言葉に嬉しそうにまた吠えてグルグルと僕の周りを走り始める小狼に僕は微笑む。
「ありがとう、それじゃあいただきます!」

 その果物を口まで持ち上げるのも少し辛かったけど、それを1口食べ……そして気が付いたら目の前にあった十数個もの果物が無くなっていた。

「ご馳走様でした!」
「ワワン!」
 そう言って手を合わせた僕の足の上に小狼が飛び乗って、撫でて欲しそうに僕の胸の辺りにまで前足を伸ばして立てる。
「もう、本当に君は甘えん坊だなぁ」
「ワン!」

 そう言って小狼の頭を撫でている僕は、既に先程助けて後悔した事をすっかり忘れていた。



「クーン……」
 と、そんな時さっき僕の腕に噛み付いて来た狼が心配そうに近寄ってきた。



「僕はもう大丈夫だから気にしなくていいよ。この子を僕が攫ったんだって勘違いしただけだよね」
 本当はここで逃げたり怯えたり、または仕返ししたりするものなのかもしれない。
 でも僕は元々彼らのナワバリである森に居なくなった子供を連れてきたのだ、たとえ勘違いされたとしても仕方が無いと思ってしまうのだ。

「ちょっとこっちおいで」
 僕がその狼に声をかけると静かに近寄ってきた。
 なので僕は小狼を持ち上げてその狼の前に下ろす。
「たぶん君はこの子のお母さんだよね?」
「ワフ」
 首を縦に振ったのでそうだと判断する。
「それじゃあこれからはこの子の事をよく見てた方がいいですよ。とても酷い怪我をしていたので」
 そう言うとその狼は驚いたように小狼を見る。
 この様子だと、もしかして僕の言葉を理解してるのではないかと思う。

「それじゃあ僕はもう村に帰りますから、君も元気でね」
 僕は小狼にそう告げて村に帰るために立ち上がる。
 きっと何でこんなに遅くなったかと怒られるだろうけど、仕方ないよね。



 そう言って親子の狼から10歩ほど歩いた時だ。
「キャンキャン!!」
 急に小狼が僕に向かって走ってきて、僕は右の膝裏に見事な突進を食らった。
「うわっ!?」
 その予想外の攻撃に尻餅を着いた僕の上に小狼が飛び込んでくる。
「ワフー」
「え、なに?」
「ワワン、ワン、クーン……」
 何故か強く鳴いてそれからうなだれる小狼に、僕は問いかける。
「もしかして行くなってこと?」
「ワフ!」
 それに強く反応する小狼に対し、僕は困惑する。
「でも僕は村に帰らないとだし、連れてけないし……」
 どうするべきか考えて、考えて、考えて……
「そうだ、じゃあ僕がたまに遊びに来るから、それでいいかな?」
「クーン……」
 そう言っても信じてもらえないのか、小狼は納得する気配がない。



「君って呼ぶから悪いのかな?それじゃあ君は雄だから、真っ白な雪をもじって『ユン』って呼んでいい?」



 治癒する時の怪我の確認の際に一緒に性別もわかっていたのでそんな名前を着けてみる。
「ワンワン!」
 と、思いっきり吠えながら真っ白な尻尾を思いっきりブンブンと振り回す。
「あはは、気に入ってくれたの?」
「ワン!」
 ユンと言う名前をつけたのが余程嬉しかったのか、僕の顔を舐めてくる。
「ちょ、それくすぐったい」
 そう言うと小狼、ユンは僕の上から降りてまた走り回る。



「本当に、ユンは元気だなぁ」
「ワン!」
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