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第二章 混沌竜の契約者

後悔

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「……ん、んん~!よく寝た~!」 
 そして目が覚めると、目の前には朝の草原が広がっていた。
「あれ、ここ何処?」
 寝起きで状況を把握出来ていない僕は辺りをキョロキョロと見渡す。
「スー……スー……」
 そして左から何かの寝息が聞こえたので振り向くと、そこには赤い血が付いた小狼が横たわっていた。
「うわぁ!?……あ、たしかさっき治癒をしてたんだっけ……」
 それを見てようやく今の状況を確認した僕は、サァーと顔を青ざめる。
「これ、絶対お父さんに叱られる……」
 治癒をしていたのが昼、今現在朝、これはつまり昨日の朝から家に帰らなかったことになる。

「ワフ」
 頭を抱えてどうするか悩んでいた僕の隣から鳴き声が聞こえた。
「あ、起きたの?」
「ワン!」
 そして僕が声をかけると小狼は何故か嬉しそうに僕の周りを走り始めた。
「あはは、元気になって良かったね」
「ワン!」

 それからグルグルと周り続ける小狼を捕まえて川に移動した。
「ほら、血を落とそうね~」
「キャンキャン!」
「あ、こら暴れない!」
 傷がもう塞がっていたので体に着いた血を川で洗い流してやる。
「意外とスラッとしてるんだね」
 そして水で濡れて体に張り付いた綺麗な白い毛の小狼はほっそりとしていた。
「クーン」
 ちょっとだけ悲しそうな声を出した小狼は、その直後体を大きく振る。
「あ、もうビショビショだよ~」
 小狼が振りまいた水で濡れた服を見て、ちょっと落ち込む。
「ワン!」
「まあ、元気そうだからいいか」
 今度は草原を自由に走り回っている小狼を見て、僕は笑顔になった。



「さて、それじゃあ群れに帰ろうか」
 それから暫く走り回っていたのが落ち着いてからそう声をかける。
「?」
 それに対して不思議そうに首を傾げる小狼。
「ほら、君は群れにちゃんと帰らないと。僕は君を治したけど世話までは出来ないし、君も仲間と居る方がいいでしょ?」
「ワン!」
 わかっているのかいないのか、無駄に元気に鳴く小狼に苦笑する。
「それまでは一緒に行こう?」
「ワワン!」
 それから村に近づく事無く南の森に向かった。



「ワオオオオォォォーン!」
「ワオオーン!」
「ワオオオオン!」

 森に近づくにつれ、そんな遠吠えが森から聞こえてくる。
「この子を探してるのかな」
 そう思って足元にいる小狼を見ると、その遠吠えの聞こえる方角と僕を見比べていた。
「もうすぐ仲間に会えるからね」
「ワン!」



 そしてようやく森の手前、約1キロ程にまで近づくとたくさんの狼の群れがあった。
「あれ全部この子を探してるの……?」
 そこには、この森全ての狼が居るのでは無いかと思う程の数が居た。
 あまりの数の多さに唖然としていると、その中で最も大きな個体がこちらに気づいて寄ってきた。

「グルルル……ガウ!ガウガウ!」
 明らかに威圧しているその声に、僕は襲われるかもしれない緊張の中足元の小狼に話しかける。
「ほら、仲間がこんなに探してくれてるよ。早く行ってあげて」
 僕が早く行くよう促すと、小狼は何故か僕と目の前の狼との間で視線を彷徨わせる。
「グルル、ガウ、グガウ!」
「どうしたの?ほら、迎えに来てくれてるよ?」
「ク、クーン」
 小狼は何故か僕から離れようとせず、目の前の狼から目を離す。
 その様子をみた狼は今すぐにでも襲い掛からんと前傾姿勢をとる。
「ちょ、ちょっと待って僕はこの子を治してあげただけで、何にもしてないから!ほら、君は早く群れに帰ろう?」
「ワン!」
 しかし小狼は離れたくないと言わんばかりに僕に体を擦り付ける。

 と、その行為で遂に僕を危険と判断したのか目の前の狼が僕目掛けて駆け出した。

「うわああああ!!」
 猛スピードで駆ける狼は僕を噛み殺すために大きく口を開けて鋭い牙が顔を出す。
「ガルルア!!」
 そして僕の目の前で跳躍して飛び掛る。



「ヮ、ワフ、ワオオオオオオォォォォォォォンンン!!」



 突然、僕の隣の小狼がこれまでで1番の声量で雄叫びを上げる。

 グチャリ

「あ、ああ、ああああああああああ!?」

 小狼が何と言ったのかはわからない。
 もしかしたら止まるよう言ってくれたのかもしれない。

 しかし、その狼の牙は無情にも僕の左腕に突き刺さる。
 だが腕自体が噛み千切られることはなく、骨には一切の傷が出来なかった。
 そしてすぐにその狼は口を開けて僕の腕を離す。

 それでも、たった10歳の僕がその牙の痛みに耐えられる程はずが無い。

「うわあああああああ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!?」

 信じられない程の激痛に地面を転げまわり、最早痛み以外の何かを感じられるほどの余裕すらない。
 更に運の悪いことに太い血管が切れてしまったのか、夥しい量の血が流れ出るのを感じる。



(お父さん、お母さん、ミリィ、ソフィ、皆……ごめんなさい)
 滅茶苦茶な激痛の中、悲鳴を上げながら段々意識が朦朧として目の前が霞、そして色んな人の顔が目の前に浮かんだ。

 もうこれで最後なのだと、僕は小狼に関わったことを後悔しながら目を閉じた。
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