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第一章 僕は普通の農民です

黒装備の男

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「いやー、助かったよ!あいつらの調査してたらいつの間にか財布無くしちゃってさ」
「い、いえいえ、その、僕も危ない所を助けていただきまして、ありがとうございました」

 今現在、僕は滞在している宿の食堂に居た。



 今から約30分前、僕は目の前で土魔法を使って金髪の男とその仲間の全身を縛ってしまう様子を眺めていた。
「あー、死ぬ程腹減った……」
「あ、その、助けていただいてありがとうございます!」
 僕はその黒装備の男に頭を下げる。
 その際肩に乗っていたコンは羽ばたいて空を飛ぶ。

「いやいや、そもそも俺はこいつら見っけるために田舎者丸出しの君をマークしてたんだ、注意もせずに放置してたんだからお礼なんて言う必要ねーよ」
 そう言って黒装備の男は金髪の男をまさぐり、何かを取り出す。
「うっし証拠ハッケーン!奴隷商人との印なんてホントに持ち歩くバカ居るんだな」
「あの、何してるんですか?」
 黒装備の男が何をしているのかが気になった僕は、とりあえず聞いてみる。
「あ、あー、おう、話してやるからその前に飯奢ってくんね?換金とかすればお金入るけどその前に腹減って死にそうなんだよー」
 そして、金髪の男から回収した物をポケットにしまった彼は、そう言って僕にしがみついてくる。
「は、はい、助けて頂きましたし、それくらいなら……」
 まあ土産代を使う事にはなるけど、助けてもらったんだからいいかな。
「本当か!それじゃあ早速飯屋行こうぜ!」

 それから黒装備の男は通りに出て自警団に軽く事情を話してから僕と共に宿兼食堂に向かったのだ。



 そして現在は宿屋の部屋に移動している。

「はー、美味かった……いやホント助かったぜ」
「僕が助けて頂きましたし、これくらいなら……」
 カラッポになった財布を思い浮かべながら、本当はコンが何とか出来たけどと思う。
「それで、まずは自己紹介と行こうじゃないか」
 そう言って黒装備の男は食後のお茶を飲んでいるので、僕から自己紹介をする。
「僕はロイって言います、今日はその、観光に来てました」
 本当は国王様に呼ばれてきたけど、それはコンのことも話さないといけなくなるかもなので黙っておく。
 それに黒装備の男はうんうん頷く。

「俺の名前はイツキだ。冒険者をしていて自警団からあいつらを捕らえる依頼が来てよ、その調査と捕縛をしてたんだ」

 黒装備の男改めイツキさんはそう言うとカバンに手を入れる。
「そんでだ、まああん時お前を囮にしたのと今奢ってもらってる分はとりあえずこれやるからチャラでいい?」
 そう言ってカバンから取り出したのは、4つのデカイ球体だった。
「……え、これって……?」

 それは実物を見たことも無かった代物だが、誰もが知っている物だった。
 但し、それは大きくてもガラス球(ビー玉)サイズである筈である。
 だが目の前にあるそれは、1つ1つが30センチもの直径を持つ巨大な物であった。



 と、そこで急にコンから本当に、本当に微かではあったけど、怒気を含んだ声が聞こえた。

「これは竜種の『魔石』ではないか?これを、何処で手に入れた」

 『魔石』、それはこの世に魔物と呼ばれる大量の魔力を持つ獣が存在し、その魔物を倒した際に魔力を帯びた球体が体内に現れることがあり、それが魔石と呼ばれ大変高価な物である。

 そのため、今コンが言った『竜種の魔石』である場合、それはこの者が竜の命を奪ったことに他ならないのだ。



 但し、コンが怒っている事など気付かない彼はさも当然のように言う。
「そりゃもちろんダンジョンの深部に決まってるじゃないか。いやー、すっごい倒すの手間取ったけど、俺これ使う事ねーしな」

 そして、その答えに内心ハラハラしながらコンを見ると、何故かコンはホッとしているようだった。
「ふむ……突然口を挟んで済まなかったな」
 コンは鳥の姿のままお辞儀をする。
「いいよいいよ全然、フツー気になるよな!で、このトークバードはロイ君の従魔何だよな?」
「うん、そうだよ」
「いやーこいつ賢いな、まさかトークバードに竜種の魔石と言われるとは思ってなかったぜ」
 まあ、本当は混沌竜ですから。



 それから少しして、イツキさんは冒険者ギルドに行くと言う事でお別れとなった。
 今は宿も引き払って僕も村に戻る準備もしている。
「そんじゃな、もうあんなのに騙されんじゃねーぞ」
「あの、助けていただいた上、あんな高価なまで頂いてしまって、本当にありがとうございました」
 僕は深々と頭を下げる。
「いやいや、溜まってる素材を換金さえすれば金に困る事もねーからな。もう会うことも無いだろうけど、元気で居ろよ」
 イツキさんは何かを確認するようにポケット等をまさぐりながら言う。
「はい!その、僕はこの国のクルク村に住んでますので、また良ければ来て下さい」
「気が向いたらな。んじゃな」

 そう言うと、イツキさんは急に姿が背景と同化して見えなくなってしまった。

「え、イツキさん今何を……」
 そう困惑する自分の耳に、内容は聞き取れなかったがイツキさんの小さな呟きが聞こえたような気がした。
「……まあ、いいか。それじゃあ帰ろうか、コン」
 そう言って左肩に乗っているコンに話しかけると、何やら難しそうな顔をしていた。
「……コン?」
「ああいや、不思議な奴だったなと思ってな」
「そうだね」



 そしてイツキという男は透明化の魔法を使ってから、こう呟いたのだ。
「もしこれが可愛い女の子だったら喜んで行くのに。本当に異世界物の小説ようには行かないもんだな、チクショウ」
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