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第一章 僕は普通の農民です
ちっぽけな農民の僕は亀を望む
しおりを挟むザク、ザク、ザク、ザク、ザク……
晴れた春の空の下、畑を耕す音と何処からか聞こえる鳥の声が響く。
「ああ、暑いなぁ」
僕は程よく暖かくなってきた気温の中の労働により額に流れる汗を感じ、畑を耕す手を止めて汗を拭う。
「ふぅ、よっしょっと」
汗を拭うために離した鍬を再び手に取り、それから暫くたまに汗を拭いながら畑を耕し続けた。
「ロイくーん、お弁当持ってきたよー!」
「あ、もうそんな時間か。今行くー!」
あれから数時間が過ぎ、朝から今年の野菜の苗を植えるために畑を耕していた手を止める。
僕は折角耕した畝を踏まないように今僕を呼んだ女の子の元へ行く。
「ありがとね、ソフィ」
「ううん、何時ものことだもん!それよりも、早く食べて感想聞かせて欲しいな」
「今日も一緒に食べるの?」
「勿論、だから二人分持ってきたよ」
今日父さんは屋根の修理のため家にいるので、僕一人で作業していた。
僕は近くの井戸から汲んで置いた水で手を流すと、ソフィと一緒に手を合わせる。
「「いただきます」」
「ねぇ、明日はもう従魔召喚の儀だけど、ロイ君は何か希望はあるの?」
ソフィが作ってきてくれたオニギリを食べ終えたあと、彼女は僕にお茶を飲んでる時にそんなことを聞いてくる。
『従魔召喚の儀』とは、15になる者全てが動物、もしくは魔物と呼ばれる存在を呼び出し、従魔契約を交わすという儀式。
従魔契約を交わせば様々な恩恵があるため、既に直に契約を終えたような人でなければ必ず行う儀式である。
「そうだなぁ、僕はやっぱり虹亀かなぁ」
「うん、やっぱり私と同じだよね」
「というより、皆虹亀がいいんじゃないかな?」
虹亀とは、『火』『水』『土』『風』『光』『闇』の6属性を全て扱える亀のことである。
火は料理なんかに使えるし、水は体内に圧縮した水を溜め込る上に汚れた水を浄化する力になる。
土は農家などでは畝を作ったり肥料を混ぜたりする際に役に立つし、風も涼しい風を送ってくれたりする。
光には癒やしの力があるので作業後に体を癒やしてもらい、闇には物を収納することが出来るので道具の持ち運びが便利になる。
そのため、一般的な人の殆どは大体虹亀を望むことになる。
「でも、なかなかいないから私達は何が出るんだろうね」
従魔召喚の儀では必ずしも望んだ通りに召喚されるのではなく、望んだ者に合う従魔を呼び出すのだ。
虹亀は数が少ないが望む人が多いので、滅多に従魔に出来るものは居ない。
「さて、それじゃあ僕はそろそろ作業に戻るよ。明日従魔召喚の儀の後はスキンシップの為に休みになるんだから、今日中に出来るだけ進めときたいからね」
「うん、わかった、頑張ってねロイ君。明日は絶対、一緒に行こうね」
「明日は僕がソフィの家に行くね」
「うん!」
「また明日、ソフィ」
「うん、また明日!」
そうしてソフィが家に戻ったあと、僕は明日の従魔召喚の儀に心を躍らせながら農作業に勤しんだ。
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