心傷を負った英雄はシスターと異世界で生きる

アルセクト

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第一章 生きる意味

魔物の知恵

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 魔族って奴はただでさえ身体的なスペックが高いのに狡猾だ。
 まー狡猾さだけで言えば人間に敵うものはないと断言出来るが、あいつらもバカではない。

 その中でも魔王『ファルファローレ』はとんでもない切れ者だ。

 魔族を統率するだけの力をただ闇雲に振るうのであれば人類は決して滅ぶことは無かったであろう。
 強い者集めて突撃!なんて事をやれば範囲魔法で軽く吹き飛ばせるし、弱い奴をまとめても例えばゴブリンやコボルトやスライムなどの有象無象が何匹集まろうと人類の敵ではない。

 では何故人類は滅んだのか。

 それは魔王ファルファローレが人間を・・・知り、研究したからだ。

 人間は単体であればとても弱い生き物だ。
 勿論今の俺のような例外も居るが、それだってここまで育ててくれた人が居たからこそ。
 魔族は産まれてすぐに自立する種族が決して少なくなく、生まれたてであったとしても一般人の成人男性一人を殺す事ができる者さえいる。

 そんな魔族を何故人間は倒せるのか。

 それは人間は高い知性を持ち、巨大な社会を形成し、様々なノウハウを生み出し継承できたからだ。

 剣一つ取ってみても、『剣』そのものを魔物や魔族が継承できたとしても『剣術』を継承する事が出来ないどころかそもそも剣術自体作れない。
 彼らは基本的に本能に忠実であり、理論よりも感覚で振るうため人間のように剣の使い方をまとめた剣術を作り強い剣士を量産する事が出来ない。

 また『分業』も人間の強みである。
 魔物は群れで狩りをして、群れで食事を取り、群れで寝床を探す。
 それに対して人間は一人が狩りをし、一人がご飯を作り、一人が寝床を用意する。
 それは当たり前に感じるかもしれないが、分業によって戦士はより戦闘に特化し、生産者はより質の良い物を作り、そのシステムを維持する為に王や貴族などといった管理者が出来た。

 そうして発展した社会を魔王ファルファローレは覗き見て、自らの力で支配した魔物で人間と同じように社会を作り、分業の仕組みを作り出した。

 それによってゴブリンやコボルトのような亜人種は人間と同じように戦闘訓練をし、数に任せた戦い方から『連携』を交えた戦い方を覚えた。
 質の良い武器や食事等で魔物の体がますます強くなった。
 寝床の確保を分業した者が行う事により、睡眠で疲れをより落とせるようになり持久戦にも強くなった。

 こうして魔族・魔物全体が強化された俺の世界は追い詰められていったのだ。



 また長々と何が言いたいのかと言えば、それはまだこの世界ではそんな絶望的状況には陥っていないということだ。



「……弱え。幾ら何でもこれは弱すぎねぇか?」
「そうですか?」
「ああ。さっき俺が見落としたゴブリンだが、三匹もいた癖にただの木の棒を考え無しに振り回すバカしかいなかった」
「あの、それが普通だと思うのですけど」

 おかしい、と思っていたがこれが普通なのか?
 何故この程度で助けを……いや、手遅れになる前に呼び出したのか。
 俺の世界の魔王ファルファローレの享年は約二百、二百年の時間をかけて人類を滅ぼしたのだ。
 始めは支配の影響力が弱かった……らしい。
 らしい、と言うのは俺が生まれた時には既にファルファローレの支配は世界全域に及び、全ての魔物が人間のように訓練を施され戦術通りに動く『兵士』になっていたからだ。

 今のこの世界にいる魔物はただの動物と何ら変わりないようで、全く持って統率された動きをしない事の違和感が半端では無かった。

「はは、これが魔物ねぇ……」
「どうしたんですか、ガルーさん」
「いやな、俺の国を襲ってた魔物は……そうだな、兵士のような訓練を施された奴が例えば連携だとか待ち伏せ、釣りなんて戦術まで駆使して来る奴らばかりだったから拍子抜けしたんだ」
「そんな魔物が居たんですか?それってかなり高ランクの魔物では」
「違う。ゴブリンやコボルトもそういった事をしていたんだ」
「それは!その、ガルーさんが言うなら嘘では無いと思いますけど、ちょっと信じられないです」

 まあ、当然の反応だ。
 俺の知る魔物は『兵士』だが、メリスの知る魔物は『獣』。
 小さい頃から教えられ続けて戦いの経験もあればそれが常識であり、他人がとやかく言ってもそう容易く信じられるものではない。



「ガルーさん。統率のとれた魔物と戦う時は、どうしたらいいのでしょうか?」



 のだが、メリスはとんでもなく素直なようだ。
「あー、どうしたらっていうかな、とりあえず一番大切なのは心構えだろうな」
「心構えですか?」

「ああ。魔物だからって気を抜かず、どんな相手であれ人と戦うものと考えて注意深く……なんだ、この違和感?」

 そうしてメリスに戦い方を教えようとしたその時、俺は何か違和感を感じた。

「森……は、変じゃねぇ。トレントも居ねぇ、道も変わっちゃいねぇ」
「あの、どうかしましたか?」
「魔物、も居ねぇし動物も居ねぇ」
「ガルーさん?」
「太陽……おかしい、確か昼過ぎで一切曲がる事なく歩いている筈だから進行方向に体を向けていれば右上に見えるはずが進行方向に太陽がある。何処かで無意識に右に曲がる筈はない……もしかしてこれは『結界』か?」

 違和感の正体を探る為に広げていた魔法のセンサーを『隠蔽された魔法』を探す為のものに変えて広げる。

「!?こりゃ、マジィな……おいメリス、一度村に戻って立て直さねぇとマズイぞ」
「何か変な所がありましたか?」

 メリスはやっぱり気が付いていないようだ。
 いや、それも当然だろう。
 俺だって勘のおかげで見つけられたようなものなのだ、それもかなり高難易度の魔法を使用してようやく見つけられるほどに隠された結界。
 その中にあるものを探り、俺の全身から冷汗が滝の様に流れ出す。



「は、ははは、なんでこんな辺鄙な所に……これは亜人兵の部隊、リーダー格は『ゴブリンジェネラル』、指揮のゴブリンリーダー含むハイゴブリンが30、ゴブリンの後衛100、前衛が200の中隊規模。その全てがそれなりの武装をして訓練してやがる……こんなもん、今の俺達だけじゃ到底太刀打ちできねぇ」



 やばい、やばい、やばいやばいやばいやばいやばい!!
 俺が戦えるなら瞬時に消し炭に変えることも出来るが、今の精神状態では精々倒せても半分が良いところだろう。
 この部隊と相対すると考えただけで悪寒が止まらなくなりそうだ。
 ハリスに応援を求めなくてはならないだろう、後は自警団……は、役に立たねぇ、メリスは魔力の絶対量が少なすぎて話にならねぇ。

「亜人兵部隊なんて、居ましたか?」

 あ、やべぇ……驚いて叫ばれなくて良かった。
 もし叫ばれていたらバレていた可能性があった。

「ああ……絶対大声を出さないと約束するなら、話そう」
「はい、お約束します」
「よし。今左に丘っていうか崖というか、何か段差になってるただの岩壁があるだろ?」
「はい」
「あそこに今結界が張られてて、その中にある……恐らく元々はあった洞穴を別の所にある洞窟と入り口を魔法で無理矢理繋げたんだろうな、とんでもなく広い広間の中で山程の武装した魔物が訓練してやがる」

 そう話をしたのだが、メリスは唖然としたように俺の顔を見たまま黙り込む。

「とりあえずだな、今の俺達では勝ち目がない。攻めてくる前にこの状況を知れたのは僥倖だろうな。恐らく周辺に高位の魔族が居るはずだからそいつを探し出して討伐すれば……」
「そ、その話は本当なのですか?魔物とか、ま、魔族が居る、とか」
「ああ。頼むから質問は後にしてくれ、今は余計な事してくれるなよ、付いてこい」
「は、はい」



 本当に唐突な事だった。
 寧ろ唐突で無いことなどこれまでに殆どあるはずがない。
 今ここで一体何が起きているのかはわからないが、とんでもなくマズイ状況であることだけは確かであり、早く手を打つ必要があった。


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