心傷を負った英雄はシスターと異世界で生きる

アルセクト

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第一章 生きる意味

魔力視

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 薬草を採取してから四日が経過した。
 それまでは日々薬草の採取と教会や村の清掃、傷んだ家屋の修復など世話になる分の恩返しをしつつ乾燥するのを待っていた。
 そして今日ようやく逆さ吊りにしていた薬草が乾燥しきってカサカサになっていたのでポーション作りの続きをすることとなった。

「それでだ、擂鉢すりばち擂粉木すりこぎもそのまんまの陶器を使ってたらぜってぇ持たんからこれを使う」

 俺がそう言って闇魔法『収納』を使って虚空から白を基調に紅く輝く粒が擂鉢と擂粉木全体に散りばめられた、俺の世界では一般的なポーション作成用擂鉢を取り出す。
「あの、このキラキラと輝くものはなんでしょうか?」
「これは『魔鉱砂まこうさ』と言う魔鉱石を細かく砕いて作った砂を混ぜて作った陶器でな、陶器用の砂7と魔鉱砂3の割合で均一に混ぜて練って形作って焼いたもんだ」

 擂鉢と擂粉木の両方共魔鉱砂を混ぜた焼き物であり、こうして均一に混ぜておくことで魔力を流しても一万回ほどは使えるので重宝する。
 四日前の鋏もそうだが道具に魔力を流すと極端に道具の寿命を縮めてしまうから、そうならない為には初めから魔力を秘めた、もしくは魔力をとても通しやすい鉱石を使う事で道具の寿命はかなり長くなるのだ。

「魔鉱砂……ですか?」
 そう言って続けて質問をしようとするメリスに、俺は溜息をつく。
「言いてぇ事はこの薬見りゃあわかんよ。魔力は瓶詰めしてから与えるもんで擂り潰す段階で混ぜるもんじゃねぇって言いてぇんだろ?」
「はい」
「だろうなぁ。だがそれだと無駄がデカ過ぎるし魔力の混ざり方にムラが出来て折角薬効成分があっても効果が出なかったり、逆に成分に対して無駄に魔力を増やそうがほんとに魔力の無駄でしかねぇんだよ」
「そうなのですか」

 この辺も俺の世界では基礎中の基礎であるというのに、なんでここまでレベルが低いんだと考えていたら、ふととある魔法……とも言えない基本技術を知っていないのではないかと思い至った。

「なぁメリス、『魔力視』は知っているか?」
「まりょくし、ですか?」

 ああ、そこからか、そこから始めねぇといけねぇのかよ……こんなもん十にもなりゃ誰でも覚えることだってのに、確かにこれを知らなけきゃそううまく行かねよなと理解する。

「魔力視ってのは魔力を目で見れるようにする事だ。やり方は魔力が見えますようにって思いながら目に魔力を集めるだけでいい」
「目に魔力を……」

 教えて、メリスは言われるがままに魔力を目に集めようと集中しているようだけど、正直言って全く持って集中させれていなかった。
 恐らく身体強化系の魔法を使う機会が無かったのだろう、魔力を外に出して操る事が出来ても体を満たす魔力を体内で動かすことがあまりにもぎこちなさ過ぎた。
 魔力操作は基本全て慣れしかない。
 一応メリスも本当に微かではあるが動かせているので才能が皆無ということもないんだろうが、このまま放置じゃあと何ヶ月かかるかわかったもんじゃない。

「あーもう、一回だけ体に叩き込んでやるからちゃんと感覚を覚えろよ」

 俺はそう言うとメリスの真正面に立つとその両手の甲を包み込むように握り、俺の魔力を無理矢理メリスの中に流し込んでメリスの魔力を操作する。
 途端、無断で侵入してきた俺の魔力に対して反射的に強烈に押し返してくるものの、それは俺の魔力量に物を言わせて強引に押さえ込む。
 まあ思っていたよか魔力量が多く反発が強かったが、俺からしてみりゃ誤差の範囲だ。

「ひゃあ!……え?なんですか、これは……?」

 そして、強引にメリスの魔力を操作して発動させた魔力視の世界に驚いていた。

 ちなみに魔力視を使用した際の世界の見え方は人それぞれなのだが、今のような状況だと俺の世界の見え方がそのままメリスに反映されるらしい。
 らしい、というのは俺自身は経験した事がないが、これまで俺がしてやった際の見え方が皆一様に俺と同じ見え方をしていたと話していたからだ。

 俺の魔力視の世界は視界が全体的に濃い青色に染まり、そこに属性を練っていない魔力は青白く見え、属性がある場合には属性別の魔力の色が見てわかるのだ。

 そうして無理矢理発動させた魔力視で魔力の世界を視るメリスは、真正面にある俺の顔をジッと見詰めてくる。
 俺も反発に負けてしまわぬようメリスの顔を見ざるを得ないため見つめ合う形となって少々恥ずかしいのだが……そういや人と真正面から見つめ合うとかいつぶりだ?

「で、いい加減感覚は掴めたか?」
「……………………」
「あーこりゃ腰抜かして放心してやがる」

 たまにあるんだよなぁ、魔力の世界に驚いてボケーッとするやつ。
 このままじゃ埒があかんから俺は魔力の操作をやめて元の世界に戻してやる。

「おい、おいメリス!大丈夫か?」
「あの、あの白いのが魔力なんですか?」

 ようやく呼び掛けに応じてくれた。
 これでもし目ぇ見開いたまま気絶とかしてたら後始末が面倒で仕方なかったから助かった。

「ああそうだ。あれが魔力視だ、コツは掴んだか?」
「あ……すみません、驚いてしまってあまり覚えていないのでもう一度お願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいぜ」

 まーあれは少し大変なのだが、それでさっさと覚えてもらえんならやらない手はない。
 なのですぐにもう一度魔力を流し込むと、今度は一切の反発をされなか……あ、やべ、何も言わずにああいうことすんの、普通に犯罪に近ぇの忘れてた。
 まあ後で謝りゃいいだろ……てか、なんかメリスがさっきもやった筈なのに少し周囲を見渡したあとまた俺の顔を見てんだが、一体何なんだか。

「俺の顔になんかついてっか?」
「え?あ、申し訳ありません」
「いや謝る必要はねーけどよ」
「その、貴方の魔力が凄く、なんでしょう?こう濃密といいますか、溢れそうな感じがしまして」
「あー、そりゃまあ俺は剣と魔法をメインに使ってたからな、魔力量はそれなりにあるさ」

 なんとなく言いたいことはわかった。
 今はこんな所で戦いもせずに呑気に過ごしてはいるが、ほんの少し前までたった一人で魔王とその配下と戦い続けていたのだ、そりゃあ魔力量も増える、本職には劣るがな。


 ……いや、ちょっと待てよ。こいつもしかしなくとも今俺の魔力量を測ってたよな?


「おいメリス、お前今俺の魔力量を把握したのか?」
「魔力量、ですか?」
「そうだ。俺は魔力視をしても皆同一の魔力にしか見えんのだが、今魔力の感じがどうのこうのとか言ったよな?」
「はい。ガルーさんの中の魔力はとても濃密で、今にも溢れそうな感じがします」
「マジか……こりゃあ、予想外の掘り出しモンじゃねぇか」

 他人の魔力量を測る方法は基本的には一つしかない。
 それは自身の魔力を測りたい他者に流してその反応で探る事だ。
 それ以外で他人の魔力量を測れるような奴は過去例を見ねぇということはねぇが、そんな奴本当に歴史上両手の指で数えられる程しか居なかった。



 色々と予想外だがすげぇ使い道の大量にある力を持っていたもんだと喜んでいたのだが、この後すぐに魔力視は出来るようになったものの、魔力量を測るにはまだまだ修練が必要なようであった。


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