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第一章 生きる意味
粗悪な薬
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翌日、俺はメリスと共に昨日俺が降り立った地点より更に南にある森の中に居た。
「確かにそれが一番良いと言われてるがな、刃を大体30℃くらいに熱した鋏で切った方が成分も壊れないし、流出もしにくくなる」
「本当に今まで摘んだ物よりも多くの力が残っているようですね」
俺は自前の魔法合金製の鋏と薬草をメリスに手渡す。
メリスは俺が言った通りに鋏を熱してから薬草を根っこから少し上を切る。
するとそれまで数滴は垂れていた薬効成分を含む液体が一切こぼれ出なくなる。
「こんなに簡単な方法でより質の高い薬草を採れるのですね」
「まあな。これは昔知り合いの薬学者に聞いたもんでな、まー鉄の鋏じゃすぐにダメになるからあんま広がんなかったんだが、便利なんで俺は使ってんだ」
「そうでしたか」
「ああそうだ、教えたついでにその鋏やるよ」
「え?でもこの鋏は……」
「いーのいーの、俺は同じモンあと五個も持ってるから一つやるくらい問題ねーよ」
「ではありがたく頂戴いたしますね」
「おう。それと、摘んだ薬草はこうして茎を上にして紐で固く縛って逆さ吊りにしておけよ?でねぇと折角残した成分が全部抜け出ちまうからな」
「わかりました」
日が少し差し込むぐらいの森の中でほのぼのとした穏やかな時間が流れる。
俺は今、メリスの薬作りの手伝いをしている。
それは今朝のことだ。
俺はメリスの父であり、滞在していた教会の神父であるというハリス・マクリー(メリスはフルネームでメリス・マクリーらしい)に挨拶をした後に、お礼として何か手伝える事があるかと聞いて薬作りの手伝いをすることになったのだ。
いつもメリスが一人で作っているらしいとのことで、薬作りの部屋に連れて行って貰った際、俺はその薬をみて愕然とせざるを得なかった。
「な、んだこのひっでぇ薬は!?なんでこんなに色が悪りぃんだ!殆ど成分も飛んじまって使い物んにもなんねぇじゃねえか!!」
そこには、ついそう叫んでしまうほどに粗悪な薬が並んでいたのだった。
本来透き通ったライムグリーンであらねばならないポーションの色が濁った深緑をしており、薬効成分は工程のどこかで半分以上も抜けていて、更に薬に必要な魔力の注ぎ込みがかなり無駄とムラの多さが酷くてとても薬と呼んでいい品物ではなかったのだ。
「おいメリス、これは自己流か?それともまさかこんなんが標準だなんてこたぁねぇよな?」
そして俺の声に驚いて目をパチクリしていたメリスは若干言い淀む。
「それは、その、これはかなり質の良いポーションの筈ですが……」
おい女神、テメェフザケてんのかと叫びたくて仕方なかった。
これが質の良いポーション?俺の世界ではこんなん売りに出すどころか配った時点で「あいつは私達になんの恨みがあるのか」と言われても仕方ないレベルであった。
薬をここまで酷い状態のまま放置して魔王を倒せ、世界を守れとか不可能だと断言出来てしまう。
「はー、わかった、よーくわかった。まずはこれを見ろ」
俺はあまりに質の悪い薬をみて気分が悪くなったので、サンプルとして俺のお手製ポーションを取り出す。
ちなみに俺お手製ではあるが、その作り方は誰でも知っているレベルであり、道具の関係で教会や医者などが専門的に作っていたりすることが殆どだ。
「これは……まさか、ハイパーポーションですか?」
「ちげぇよ、これはメリスが使ってんのと同じ薬草使ったただの最低品質のポーションだ」
「これが、ポーション?信じられません」
この世界の薬事情はあまりよろしくないようだ。
そうそう先程から薬草薬草言ってんのは正式名称『生命草』って言う緑豊かな森や川や湖、湧き水や地下水など淡水が豊富な場所に群生する植物だ。
薬草と言えばまず基本的に生命草の事で、この一つ上のハイポーションの材料が『陽命草』、その上のハイパーポーションの材料は『冥命草』、そして最高級のグランドポーションの材料は『治癒草』である。
「まさかこれがハイパーポーションに見えるとか、本気でここの薬学レベルはどうなってやがんだ」
俺がそう嘆いていると、メリス申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ありません」
「ああいや、メリスを責めた訳じゃねぇんだ。あまりにもここのレベルが低過ぎて驚いただけだからな」
あ、そういや忘れてたけど女神から防衛のノウハウとか教えろとか言われてたけど、もしかしてこの薬の話もその教えるべき対象にあったり……?
「はあああぁぁぁぁぁ……しゃーねぇなぁ。俺が正しいポーションの作り方を伝授してやるよ」
「本当ですか!」
「但し、やり方全てに道具も変える必要があるがメンドイから質問は幾らでもしてくれて構わんが文句は無しで頼むぞ」
「はい!」
そして冒頭に戻る、と。
回想終了でいいのか?まー、どーでもいっか。
「あの、薬草を十本毎に縛るのには何か意味があるのですか?もう少し一緒に縛っても問題ないと思うのですが」
「それはだな、この後吊るして干したあとすり潰す工程があるだろ?そん時五本が一気にやっていい上限だから半分で五になる十が把握しやすいのさ」
「そうでしたか」
「あとは十にしておいた方が何か取引とかする際にも便利だからな、これは薬草に限らず束にして売る物なら何にだって当てはまることだ」
こうして聞かれることに一つ一つ答えて、ついでに教えられることは全部教えておく。
薬があんな粗悪な世界じゃ何の知識が有用かなんてわかったもんじゃねぇからな。
今は戦いに参加出来そうにない分、こういった所ででも貢献していかねぇと女神さんに……いや、俺の世界の滅んだ人類全てに対して申し開きすら出来ねぇからな。
「確かにそれが一番良いと言われてるがな、刃を大体30℃くらいに熱した鋏で切った方が成分も壊れないし、流出もしにくくなる」
「本当に今まで摘んだ物よりも多くの力が残っているようですね」
俺は自前の魔法合金製の鋏と薬草をメリスに手渡す。
メリスは俺が言った通りに鋏を熱してから薬草を根っこから少し上を切る。
するとそれまで数滴は垂れていた薬効成分を含む液体が一切こぼれ出なくなる。
「こんなに簡単な方法でより質の高い薬草を採れるのですね」
「まあな。これは昔知り合いの薬学者に聞いたもんでな、まー鉄の鋏じゃすぐにダメになるからあんま広がんなかったんだが、便利なんで俺は使ってんだ」
「そうでしたか」
「ああそうだ、教えたついでにその鋏やるよ」
「え?でもこの鋏は……」
「いーのいーの、俺は同じモンあと五個も持ってるから一つやるくらい問題ねーよ」
「ではありがたく頂戴いたしますね」
「おう。それと、摘んだ薬草はこうして茎を上にして紐で固く縛って逆さ吊りにしておけよ?でねぇと折角残した成分が全部抜け出ちまうからな」
「わかりました」
日が少し差し込むぐらいの森の中でほのぼのとした穏やかな時間が流れる。
俺は今、メリスの薬作りの手伝いをしている。
それは今朝のことだ。
俺はメリスの父であり、滞在していた教会の神父であるというハリス・マクリー(メリスはフルネームでメリス・マクリーらしい)に挨拶をした後に、お礼として何か手伝える事があるかと聞いて薬作りの手伝いをすることになったのだ。
いつもメリスが一人で作っているらしいとのことで、薬作りの部屋に連れて行って貰った際、俺はその薬をみて愕然とせざるを得なかった。
「な、んだこのひっでぇ薬は!?なんでこんなに色が悪りぃんだ!殆ど成分も飛んじまって使い物んにもなんねぇじゃねえか!!」
そこには、ついそう叫んでしまうほどに粗悪な薬が並んでいたのだった。
本来透き通ったライムグリーンであらねばならないポーションの色が濁った深緑をしており、薬効成分は工程のどこかで半分以上も抜けていて、更に薬に必要な魔力の注ぎ込みがかなり無駄とムラの多さが酷くてとても薬と呼んでいい品物ではなかったのだ。
「おいメリス、これは自己流か?それともまさかこんなんが標準だなんてこたぁねぇよな?」
そして俺の声に驚いて目をパチクリしていたメリスは若干言い淀む。
「それは、その、これはかなり質の良いポーションの筈ですが……」
おい女神、テメェフザケてんのかと叫びたくて仕方なかった。
これが質の良いポーション?俺の世界ではこんなん売りに出すどころか配った時点で「あいつは私達になんの恨みがあるのか」と言われても仕方ないレベルであった。
薬をここまで酷い状態のまま放置して魔王を倒せ、世界を守れとか不可能だと断言出来てしまう。
「はー、わかった、よーくわかった。まずはこれを見ろ」
俺はあまりに質の悪い薬をみて気分が悪くなったので、サンプルとして俺のお手製ポーションを取り出す。
ちなみに俺お手製ではあるが、その作り方は誰でも知っているレベルであり、道具の関係で教会や医者などが専門的に作っていたりすることが殆どだ。
「これは……まさか、ハイパーポーションですか?」
「ちげぇよ、これはメリスが使ってんのと同じ薬草使ったただの最低品質のポーションだ」
「これが、ポーション?信じられません」
この世界の薬事情はあまりよろしくないようだ。
そうそう先程から薬草薬草言ってんのは正式名称『生命草』って言う緑豊かな森や川や湖、湧き水や地下水など淡水が豊富な場所に群生する植物だ。
薬草と言えばまず基本的に生命草の事で、この一つ上のハイポーションの材料が『陽命草』、その上のハイパーポーションの材料は『冥命草』、そして最高級のグランドポーションの材料は『治癒草』である。
「まさかこれがハイパーポーションに見えるとか、本気でここの薬学レベルはどうなってやがんだ」
俺がそう嘆いていると、メリス申し訳なさそうに頭を下げる。
「申し訳ありません」
「ああいや、メリスを責めた訳じゃねぇんだ。あまりにもここのレベルが低過ぎて驚いただけだからな」
あ、そういや忘れてたけど女神から防衛のノウハウとか教えろとか言われてたけど、もしかしてこの薬の話もその教えるべき対象にあったり……?
「はあああぁぁぁぁぁ……しゃーねぇなぁ。俺が正しいポーションの作り方を伝授してやるよ」
「本当ですか!」
「但し、やり方全てに道具も変える必要があるがメンドイから質問は幾らでもしてくれて構わんが文句は無しで頼むぞ」
「はい!」
そして冒頭に戻る、と。
回想終了でいいのか?まー、どーでもいっか。
「あの、薬草を十本毎に縛るのには何か意味があるのですか?もう少し一緒に縛っても問題ないと思うのですが」
「それはだな、この後吊るして干したあとすり潰す工程があるだろ?そん時五本が一気にやっていい上限だから半分で五になる十が把握しやすいのさ」
「そうでしたか」
「あとは十にしておいた方が何か取引とかする際にも便利だからな、これは薬草に限らず束にして売る物なら何にだって当てはまることだ」
こうして聞かれることに一つ一つ答えて、ついでに教えられることは全部教えておく。
薬があんな粗悪な世界じゃ何の知識が有用かなんてわかったもんじゃねぇからな。
今は戦いに参加出来そうにない分、こういった所ででも貢献していかねぇと女神さんに……いや、俺の世界の滅んだ人類全てに対して申し開きすら出来ねぇからな。
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