竜の生涯

アルセクト

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白竜

白竜(1)

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 何だか温かいなぁ

 それが僕が初めて感じた事だ。
 真っ暗な視界の中、何だか温かい何かが側にいて、たまに離れる事があってもまたすぐに戻って来てくれる、何かがいる事だけがわかる。
 僕はその温かな何かが居ると落ち着いて、居なくなれば何だか落ち着かない、そんな事ばかり思いながら暗闇の中で微睡む。

 それから少しして、温かい何かが熱とは違う何かを僕に与えてくれた。
 その違う何かが僕に注がれる度、僕の内側から何かが湧いてくるのを感じる。
 まあ、注がれる何かも湧いてくる何かも、何なのかわからないけれど。

 また微睡みの中外から温かさと何かが注がれる中、たまに外から僕を突いているのかグラグラと揺らされるようになってきた。
 それでもずっと微睡んでいると、少しずつ、少しずつ、段々と揺らされる頻度が徐々に多くなって来て、落ち着いて眠れなくなってきた。
 もっと落ち着いて寝たいと思って体を動かすと、外から揺らすのをやめてもらえた。

 また時間が過ぎて、微睡み、温かい何かが何かをくれて何かが湧き、揺らされたら僕も揺らし返してを繰り返して延々と過ごす。
 そうして過ごす内に少しだけ、僕が寝ているこの場所が何処なのか、外の温かいのとか湧いてくる何かとか、揺らしてくるのは何でなのか気になってきた。
 一度気になり始めると止まらないもので、その何かを知るために僕は体を動かして僕を包んでいる何かを叩いてみる。
 でもそれはとても硬くて、叩いて、叩いて、叩いて、でもビクともしない何かを叩くのに疲れて僕はまた寝る事にした。

 硬い何かを叩き始めてからどれほどの時間が過ぎたのだろうか。
 今日も外が気になって叩き続けていると少しだけ変化があった。
 それはずっと暮らしていた僕の世界に、新しい何かが射し込んできた。
 もう一踏ん張りだと何かが射し込んで来た所を叩くと射し込んで来る物が増えて来て、最後に思いっきり叩くと僕を包んでいた何かが壊れて、射し込んでいた何かに包まれた。



「ピィー!ピィー!」



 でもその何かに触れるのがが何だか怖くて、寂しくて、僕は力一杯鳴いた。
「ピィー!ピィーーー!!」
「キュオオオオォォォォォ!!」
 すると遠くから答えるような大きな声が返ってきた。
 その大きな声の持ち主が僕を包んでいる何かから遮るようにすぐ目の前に降りて、僕を優しく包み込む。
 そうして僕は気が付いた、この大きな何かはあの温かい何かであると。
 僕はその温かな何かに包まれて、包んでいた硬い何かから出るので疲れたから眠りについた。
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