不幸な俺は異世界へ跳んでも不幸である

アルセクト

文字の大きさ
上 下
7 / 33
第一章 不幸な俺の不幸な人生

異世界での俺の名前が兎ってなんでだよ!!

しおりを挟む
 その後、卓袱台に並んだ白米と昨日の残り物の白身魚の揚げ物(昨日皿についだのとは別にまだまだあったらしい)と、キャベツと呼ばれている、元の世界のレタスのような物(紛らわしいにも程がある)に酸味がある木の実を潰して出た汁をかけた物(いわゆるドレッシング)が並んだ。
 流石に今回も涙を流すことは無かったが、この御馳走を食べられたことに関しては異世界に連れてきた不幸に感謝しても……いや、そもそもマトモなとこに生まれたら良かったのだ。

 朝食を食べ終え、片付けをした時の時間は午前7時10分前(一日が同じ24時間なので、この世界との表記は違うがわかる)になっており、神父は教壇に立って朝のお祈りを始めた。
 俺はその内容を聞いて、この異世界の宗教について学ぶことにする。
 お祈りの内容を要約するとこうなる。

 今日も一日真面目に働き飯を食べ、健康に過ごせることを神に感謝せよ。
 病める者も今日も食があり、仲間が居て支え合うことに感謝せよ。
 我らの神、女神ハラスメントは今日も静かに見守って下さっている。

 ……おいなんだその女神の名前、思いっきり悪意しか感じ取れねぇ……
 だかしかし、この世界においてはハラスメントというのは大いなる女神の名前であり、それ以外の意味はないのだろうから、決して女神が何かよろしくない人ではないのだろう……きっと、たぶん……そうであって欲しい。

 あとで神父に聞いた話では、名前の由来はこの世界における『ハラス』(悪を遠ざける者)と『メント』(祝福をもたらす者)という言葉から来ているらしい。
 つまり、それを合わせると『悪を遠ざけ祝福をもたらす者』という意味になり、それは正しく女神として相応しい名前であった。
 ……少なくとも、元の世界でそれを言ったら確実に問題になることは確かだ。
 もしも女性を口説く時に「貴方はまるで女神ハラスメントのように美しい」なんて言おうものなら(罰当たりもいいところだが)、きっと叩かれるか警察でも呼ばれるかしそうである。



 朝のお祈りが終わったあと、本来であれば神父か領主としての書類の整理か村の施設や家々をまわって様子を確認するらしいのだが、今日は神父の書斎に俺の戸籍と身分証明書を作る為、カリナンテ家の三人と俺が居た。
 そして神父は書類を用意して、いきなり大問題を提示してきた。
「それで早速なのだけど、君の名前である厄持 盾屋で登録をすれば大変な大問題が発生してしまうのだ」
 一応、盾屋と言う名前自体はよくあるのでいいのだが、フルネームそのままで、尚かつ自分の持つ魔力の質と合わせると国家レベルの大騒動になってしまうのだと説明を受けた。
 顔も名前も知らないクソ親め、あんたらマジでなんでこんな名前にしやがったコンチクショウ!!
 なので、この異世界に於いては別の名前を使う……勿論偽名ではなく、この場合は元の世界の名前とこちらの名前の区別である。
 決して嘘で登録しようと言う訳ではないのだ。

 そんな訳で、全員で俺のこの世界における名前を考える。
 そして少しの間をおいて、サヤがポツリと呟く。
「アウト・ラビット、なんてどうかな?」
 日本語に直訳すると『外兎そとうさぎ』。
「は、なんか可愛らしい名前だな、それ」
 と素直な感想を述べたのだが、三人は驚きの表情になった。
「いやいやいや、兎が可愛らしいって?確かにそうかもだが、下手したら人が命を落としかねないかなり危険な獣だぞ!?」
 ……は?
「確かお父さんここに図鑑をおいて……あった!」
 サヤが席を立って書斎にある本棚を漁って持ってきたのは、いわゆる動物図鑑だ。
 その危険な動物の欄の始めの方にあったウサギの欄には、全長2Mは余裕であり、鋭く尖ったツノを持ち、獲物を狩る時や自分の身を守るときには凄く発達している後ろ脚で前方向に跳びかかり、鋭く尖ったツノで相手を一突きで殺してしまうと書かれていた。
 しかし、危害を加えないことを伝え心を通わせた場合は自らの背に人を乗せて走ることもあるらしいが、周囲が怖がるので主な交通手段などとしては到底使えるものではないし、実際移動していて、見通しの悪い十字路で飛び出した人を刺し殺した事件もあったらしい。
 ……え、マジか……

「外から飛び込んで来た者、って感じ何だけど、どうかな?」
 サヤが少々ビクビクしながら言う。
 いやなんで怯えてるのさ。



 その後他の欄も試行錯誤しながら書き込んで無事書類は完成し、それを王都へ定期便に乗せて運んでもらい、無事俺はこの国の国民として、あとカリナンテ家の養子としてここの村人となることが出来た。
 その書類に書かれた俺の名前はこうである。



 『アウト・ラビット・カリナンテ』


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜

西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」 主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。 生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。 その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。 だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。 しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。 そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。 これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。 ※かなり冗長です。 説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...