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3.家族の誓い※
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その日の夜、ローズマリーは闇深く染まった。
「おやすみなさい」
「先生、おやすみなさい」
黒栁先生の点呼が終わって、寝室の鍵が閉められた。
「行ったぞ」
そう言ったコウスケが真っ先に裸足になる。どうせ朝まで自由時間なのだから、穴の開いた靴下なんて床にポイだ。支給された靴下を行儀良く履く子なんて誰もいない。薄手の寝間着だって脱ぎ散らかして最悪、コウスケなんて白の下着姿で寝相を悪くいびきをかく。縦長の寝室の両脇に並ぶ、四人分のさび付いたシングルベッドの上だけが、プライベートスペースだった。各々が枕元を自由に飾っている。
消灯時間になると、何人かの足音が聞こえてくる。不吉な気配にリョウの背中はこわばり、足先は氷水に浸けたようにひんやりとした。
誰かが窓ガラスを開く。それでも八月の夜だから一向に風は吹き込まず、代わりに虫の音が聞こえてくる。
「奥の部屋の鍵、どれだ、早く開けろ」
「誰が持ってるのかな、俺じゃないよ、リョウちゃんが逃げちゃうよ」
「そう急かすなよ、いいだろう、どうせリョウは逃げられないんだから」
三人が声を潜めて話し始めた。
名前を呼ばれたリョウは一人、狭いベッドで身体を丸めていた。夕方、先生達から聞かされた話に打ちのめされていたからだ。養子縁組みは白紙となった。数時間前までは「早く家族になりましょうね」と老夫婦と笑い合っていたというのに、彼らはリョウの何を思って心変わりをしてしまったのか。
三人の足音がこちらに近付いてくる。
リョウは泣いているのを悟られないよう、まぶたをぎゅっとつぶる。毎朝雑巾掛けをしている木の床はつるつるしている。リョウよりも体重のある三人が歩くと、キュッキュッと皮膚と床がこすれる。時折、乾いた木が大きく軋む。
枕元で三人の足音が止まる。気配が強まった。
「台帳にお前の名前が載っていた、黒栁に見せて貰ったよ」
と、ユウトの声が耳に触れる。彼は何を言っているのだろう。
「いつ面談なんてしたの」
怒り声のシズカが布団を乱暴に剥ぐ。
「俺達から逃げられないって分かってるだろうに、どうしようとした?」
いつもは穏やかなコウスケが声を尖らせる。
「えっ、なに、なに」
リョウは涙声で問う。起き上がり、目元を拭う。聞きたいのはこちらの方だ。
「なんで最終面談まで行ってるんだ、お前がどこかに行くなんて許すわけないだろう」
コウスケが二の腕を掴み上げてくる。たいして痛くないのに、乱暴に扱われたことで、みぞおちが抉られるように傷つく。
「リョウちゃんは俺から離れたらだめだよ」
シズカがズボンを脱がしてくる。抵抗しても呆気なく裸に剥かれてしまう。
「やっだ、なんだよ、やだ」
手足を動かして暴れようとしてもビクともしないので、声を上げた。するとユウトの手がリョウの口を塞ぐ。
「俺を捨てるな」
ユウトが訴えてくる。
寝室の奥に部屋がもう一つある。普段は物置部屋として使われている場所だ。コウスケが扉の鍵を開けたら、そこには木の床にラグが引き詰められており、クッションやブランケットが置かれている。段ボールはなく、まるで隠れ家みたいになっていた。
「誰が最初にリョウちゃんを抱くの、俺だよね」
「いいや俺だろう、リョウの初めては俺だ」
「俺だ、ふざけるな」
頭上でシズカとコウスケ、ユウトの三人が勝手に話を進めるなか、リョウは唖然としていた。嫌だ、犯される。もっと抵抗しないといけないのに、ひんやりとした恐怖から手足を動かせなかった。
部屋に引きずり込まれた。扉を閉めたシズカが、
「ここは防音室だよ、たっくさん泣いていいんだよ、気持ちいいことしようね」
と言い、シズカはリョウのファーストキスを奪った。
「いやだ、やだ、ここから出して」
三人の手がリョウの身体を暴く。
「出すわけがないよ、ずっとずっと大切にしてきたんだ、誰かに取られないように、リョウちゃんを守ってきたんだから」
「俺に食わせろ」
「外に出たいなら、明日からでも出ていいぞ、俺達と一緒に暮らそうな」
両足を左右に割り開かれ、ユウトの身体が入ってくる。
「ユウト、なんで」
泣いても無駄なのに、ユウトに裏切られた思いで激しく泣き喚く。
「愛している」
ぼそっとユウトが熱を持ってささやく。
それから、三人はリョウの精神をじっくりと解剖していった。ユウト、シズカ、コウスケの順で彼らの雄が胎内に入っては欲望が爆ぜた。リョウはいつの間にか肌に熱を持ち、彼らの動きに応えていった。深い口づけを交わし、獰猛に腰を打ち付けられ偽りの愛の言葉を求められ、リョウは繰り返し心の中でつぶやいた。
――あと二年、もう少しすればここから脱出できる、はずだった。
「リョウ、良い子だ」
コウスケの欲望が胎内で吐き出される。
「っああっう、っうう」
口を大きく開けてリョウは叫んだ。喉を開いて、ユウトの雄を迎え入れる。上と下の奥深くでドロリとした液体が溢れていく。リョウは感極まり、涙した。
「リョウちゃん、愛してるよ、もう俺達は家族だよ」
胎内からずるりと雄が抜き出され、リョウは絶叫した。双眸からだくだくと涙をこぼし、新たに入ってくるシズカの雄の硬さに身を震わせる。
「愛している」
ずっとそれしか言わないユウトの雄が口から出ていくと、飲み込みきれなかった液体でだらだらと口を汚す。
「明日から、四人で暮らそうな、リョウは家族が欲しかっただろう? 俺達で幸せな家庭を作ろうな」
あと二年、あと二年、お守りのように唱えていた言葉を精液と一緒に飲み込んだ。
「……うん、嬉しい」
扉が閉められた部屋でリョウは、赤いカーペットの上に汗で濡れた背を預けながら、三人の男に抱かれた。良い子にしていたから、きっと誰かが自分を選んでくれるから、そう信念を貫きながらずっと待っていた。予想していた結末とは違うけれど、満足したリョウは脚を絡めた。
「面談がなければ、二十歳になるまで我慢していたんだ」
「ずっとリョウちゃんが誰にも選ばれないように守ったんだよ、だって幾ら優しい顔をしても何を考えているか、俺達以外は危ないよ、リョウちゃんが外に出て行っちゃったら、もう会えなくなる、だからもう奪うよ」
「俺を捨てるなリョウ、愛している」
ローズマリーを出たら、何をしたいかなんて考えていなかった。漠然と外の世界に出たら、きっと幸せな暮らしが待っているのだろうと安直に思い描いていた。そうだ、彼らの言う通りかも知れない。
入れ替わりで抱いてくる三人に身体を揺さぶられながら、いつの間にかリョウは気絶をしていた。目を覚ましたとき、シズカの腕の中で抱きかかえられていた。リョウが目を上げると、シズカが優しく微笑む。彼の後ろは満天の星が広がっていた。いつも部屋からでしか星を見られなかった。
雲一つない、無数の星がチカチカと光る。ユウトとコウスケも荷物を持って付いてくる。自分達は本当にローズマリーから出て行くのだろうか。
ずっと空を見つめていたら、まぶたが重たくなった。眠気がゆるやかに忍び寄ってくる。リョウが目をこすると、シズカが腕の力を強めた。
「眠い?」
「ううん」
本当は眠いのに、わざと気取って見せる。
門前に車が止まっていた。スパイ映画で見るようなきれいな車だった。車に乗せられたリョウは窓の向こうから先生達が焦った顔で走ってくる姿を、どこか他人事みたいに眺めていた。あの人達とは長い間、同じ屋根の下で暮らした。それでも家族ではなかった。
窓を叩く先生には応えず、コウスケが車を発進させた。
「リョウちゃん愛してるよ」
シズカが切なさそうに笑う。
「愛している」
助手席に座ったユウトは壊れたロボットみたいに、ずっとそれしか言わない。彼の感情は唯その一言に込められているようだ。
「リョウ、俺達はお前を愛している、ずっとガキの頃からだ、もう俺達は家族だ、家だって、姓だってあるぞ」
コウスケの運転する車が森を抜けていく。どこまでも車が駆けていく。
「リョウちゃんが思い描いていた理想とは違うかもしれないけれど、俺達が一緒ならきっと楽しいよ」
シズカが頬に口づけを降らす。シズカの言葉を時間をかけて味わうと、「そうだね」とリョウは笑った。
「俺達の家に帰ったら、まずは乾杯をしよう」
コウスケが声を高らかに宣言する。
「なんの?」
「これからの未来に」
とユウトが優しく笑う。街灯が家までの道を照らしてくれる。極彩色の光に包まれた街が、自分達を隠してくれる。
リョウは、それは楽しそうだと大きく笑った。
「おやすみなさい」
「先生、おやすみなさい」
黒栁先生の点呼が終わって、寝室の鍵が閉められた。
「行ったぞ」
そう言ったコウスケが真っ先に裸足になる。どうせ朝まで自由時間なのだから、穴の開いた靴下なんて床にポイだ。支給された靴下を行儀良く履く子なんて誰もいない。薄手の寝間着だって脱ぎ散らかして最悪、コウスケなんて白の下着姿で寝相を悪くいびきをかく。縦長の寝室の両脇に並ぶ、四人分のさび付いたシングルベッドの上だけが、プライベートスペースだった。各々が枕元を自由に飾っている。
消灯時間になると、何人かの足音が聞こえてくる。不吉な気配にリョウの背中はこわばり、足先は氷水に浸けたようにひんやりとした。
誰かが窓ガラスを開く。それでも八月の夜だから一向に風は吹き込まず、代わりに虫の音が聞こえてくる。
「奥の部屋の鍵、どれだ、早く開けろ」
「誰が持ってるのかな、俺じゃないよ、リョウちゃんが逃げちゃうよ」
「そう急かすなよ、いいだろう、どうせリョウは逃げられないんだから」
三人が声を潜めて話し始めた。
名前を呼ばれたリョウは一人、狭いベッドで身体を丸めていた。夕方、先生達から聞かされた話に打ちのめされていたからだ。養子縁組みは白紙となった。数時間前までは「早く家族になりましょうね」と老夫婦と笑い合っていたというのに、彼らはリョウの何を思って心変わりをしてしまったのか。
三人の足音がこちらに近付いてくる。
リョウは泣いているのを悟られないよう、まぶたをぎゅっとつぶる。毎朝雑巾掛けをしている木の床はつるつるしている。リョウよりも体重のある三人が歩くと、キュッキュッと皮膚と床がこすれる。時折、乾いた木が大きく軋む。
枕元で三人の足音が止まる。気配が強まった。
「台帳にお前の名前が載っていた、黒栁に見せて貰ったよ」
と、ユウトの声が耳に触れる。彼は何を言っているのだろう。
「いつ面談なんてしたの」
怒り声のシズカが布団を乱暴に剥ぐ。
「俺達から逃げられないって分かってるだろうに、どうしようとした?」
いつもは穏やかなコウスケが声を尖らせる。
「えっ、なに、なに」
リョウは涙声で問う。起き上がり、目元を拭う。聞きたいのはこちらの方だ。
「なんで最終面談まで行ってるんだ、お前がどこかに行くなんて許すわけないだろう」
コウスケが二の腕を掴み上げてくる。たいして痛くないのに、乱暴に扱われたことで、みぞおちが抉られるように傷つく。
「リョウちゃんは俺から離れたらだめだよ」
シズカがズボンを脱がしてくる。抵抗しても呆気なく裸に剥かれてしまう。
「やっだ、なんだよ、やだ」
手足を動かして暴れようとしてもビクともしないので、声を上げた。するとユウトの手がリョウの口を塞ぐ。
「俺を捨てるな」
ユウトが訴えてくる。
寝室の奥に部屋がもう一つある。普段は物置部屋として使われている場所だ。コウスケが扉の鍵を開けたら、そこには木の床にラグが引き詰められており、クッションやブランケットが置かれている。段ボールはなく、まるで隠れ家みたいになっていた。
「誰が最初にリョウちゃんを抱くの、俺だよね」
「いいや俺だろう、リョウの初めては俺だ」
「俺だ、ふざけるな」
頭上でシズカとコウスケ、ユウトの三人が勝手に話を進めるなか、リョウは唖然としていた。嫌だ、犯される。もっと抵抗しないといけないのに、ひんやりとした恐怖から手足を動かせなかった。
部屋に引きずり込まれた。扉を閉めたシズカが、
「ここは防音室だよ、たっくさん泣いていいんだよ、気持ちいいことしようね」
と言い、シズカはリョウのファーストキスを奪った。
「いやだ、やだ、ここから出して」
三人の手がリョウの身体を暴く。
「出すわけがないよ、ずっとずっと大切にしてきたんだ、誰かに取られないように、リョウちゃんを守ってきたんだから」
「俺に食わせろ」
「外に出たいなら、明日からでも出ていいぞ、俺達と一緒に暮らそうな」
両足を左右に割り開かれ、ユウトの身体が入ってくる。
「ユウト、なんで」
泣いても無駄なのに、ユウトに裏切られた思いで激しく泣き喚く。
「愛している」
ぼそっとユウトが熱を持ってささやく。
それから、三人はリョウの精神をじっくりと解剖していった。ユウト、シズカ、コウスケの順で彼らの雄が胎内に入っては欲望が爆ぜた。リョウはいつの間にか肌に熱を持ち、彼らの動きに応えていった。深い口づけを交わし、獰猛に腰を打ち付けられ偽りの愛の言葉を求められ、リョウは繰り返し心の中でつぶやいた。
――あと二年、もう少しすればここから脱出できる、はずだった。
「リョウ、良い子だ」
コウスケの欲望が胎内で吐き出される。
「っああっう、っうう」
口を大きく開けてリョウは叫んだ。喉を開いて、ユウトの雄を迎え入れる。上と下の奥深くでドロリとした液体が溢れていく。リョウは感極まり、涙した。
「リョウちゃん、愛してるよ、もう俺達は家族だよ」
胎内からずるりと雄が抜き出され、リョウは絶叫した。双眸からだくだくと涙をこぼし、新たに入ってくるシズカの雄の硬さに身を震わせる。
「愛している」
ずっとそれしか言わないユウトの雄が口から出ていくと、飲み込みきれなかった液体でだらだらと口を汚す。
「明日から、四人で暮らそうな、リョウは家族が欲しかっただろう? 俺達で幸せな家庭を作ろうな」
あと二年、あと二年、お守りのように唱えていた言葉を精液と一緒に飲み込んだ。
「……うん、嬉しい」
扉が閉められた部屋でリョウは、赤いカーペットの上に汗で濡れた背を預けながら、三人の男に抱かれた。良い子にしていたから、きっと誰かが自分を選んでくれるから、そう信念を貫きながらずっと待っていた。予想していた結末とは違うけれど、満足したリョウは脚を絡めた。
「面談がなければ、二十歳になるまで我慢していたんだ」
「ずっとリョウちゃんが誰にも選ばれないように守ったんだよ、だって幾ら優しい顔をしても何を考えているか、俺達以外は危ないよ、リョウちゃんが外に出て行っちゃったら、もう会えなくなる、だからもう奪うよ」
「俺を捨てるなリョウ、愛している」
ローズマリーを出たら、何をしたいかなんて考えていなかった。漠然と外の世界に出たら、きっと幸せな暮らしが待っているのだろうと安直に思い描いていた。そうだ、彼らの言う通りかも知れない。
入れ替わりで抱いてくる三人に身体を揺さぶられながら、いつの間にかリョウは気絶をしていた。目を覚ましたとき、シズカの腕の中で抱きかかえられていた。リョウが目を上げると、シズカが優しく微笑む。彼の後ろは満天の星が広がっていた。いつも部屋からでしか星を見られなかった。
雲一つない、無数の星がチカチカと光る。ユウトとコウスケも荷物を持って付いてくる。自分達は本当にローズマリーから出て行くのだろうか。
ずっと空を見つめていたら、まぶたが重たくなった。眠気がゆるやかに忍び寄ってくる。リョウが目をこすると、シズカが腕の力を強めた。
「眠い?」
「ううん」
本当は眠いのに、わざと気取って見せる。
門前に車が止まっていた。スパイ映画で見るようなきれいな車だった。車に乗せられたリョウは窓の向こうから先生達が焦った顔で走ってくる姿を、どこか他人事みたいに眺めていた。あの人達とは長い間、同じ屋根の下で暮らした。それでも家族ではなかった。
窓を叩く先生には応えず、コウスケが車を発進させた。
「リョウちゃん愛してるよ」
シズカが切なさそうに笑う。
「愛している」
助手席に座ったユウトは壊れたロボットみたいに、ずっとそれしか言わない。彼の感情は唯その一言に込められているようだ。
「リョウ、俺達はお前を愛している、ずっとガキの頃からだ、もう俺達は家族だ、家だって、姓だってあるぞ」
コウスケの運転する車が森を抜けていく。どこまでも車が駆けていく。
「リョウちゃんが思い描いていた理想とは違うかもしれないけれど、俺達が一緒ならきっと楽しいよ」
シズカが頬に口づけを降らす。シズカの言葉を時間をかけて味わうと、「そうだね」とリョウは笑った。
「俺達の家に帰ったら、まずは乾杯をしよう」
コウスケが声を高らかに宣言する。
「なんの?」
「これからの未来に」
とユウトが優しく笑う。街灯が家までの道を照らしてくれる。極彩色の光に包まれた街が、自分達を隠してくれる。
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