裸の瞳

佐治尚実

文字の大きさ
上 下
5 / 25
第一章

5.告白※

しおりを挟む
「いいと思う」

 悠成の黒い目が大地を見た。彼の瞳が見開かれる。

「もっと近付いてよ」
「大地っ」

 悠成は大地の首に顔を埋めて、鼻を動かす。大地の体臭を嗅いでいるのだ。悠成の行動は、ただの友達に向けたものではない。彼は大地に執着していると気が付いているのか。

「ああ落ち着く、ずっとこうしたかった」

 大地は悠成をはね除けなかった。彼に押し倒されても、されるがままだった。床の上で、悠成に体をまさぐられても、拒絶して良いのか受け入れるべきか戸惑うだけだ。うめき声すら出せず、出てくるのは心に反したあえぎ声だけだ。

「っん、っう、ぁ」

 何かがおかしいと感じても、悠成を拒絶できなかった。

「大地、俺を止めてよ、俺を殴れよ」

 そう言うくせに、悠成の手は大地の性器をしつように扱く。

「っあぁあっ、う、ぁ、いい」

 親しい友人だとばかり思っていた悠成が、その大きな手で大地を征服しようと手淫する。
 涙で視界が濡れているのに、全身が喜んでいる。どうしよう頭が壊れる。抵抗したいのに、悠成を叱りたいのに、心が追いつかなかった。確かにそこにあった淡い感情が、悠成の見せたどす黒い欲望によって覆い尽くされる。

「キスしていい? ねぇ、したい、させて」

 悠成の美しい顔が近付いてくる。どうして自分の体をもてあそぶのだろう、という不安が脳裏をよぎる。正常な思考が激しく揺れ動く。このまま口づけを受け入れたら、何かを見過ごしてしまう。それは友情とかきれいなものではなく、悠成への純粋なまでの好意であった。それだけは失いたくなかった。

 震える手で、悠成の腕を押しのけた。

「だめだっ」

 ようやく頭が体に追いついた。

「なんなんだよ、悠成、どうして」

 悠成の体に触れた手はこわばり、まるで凍っているかのように冷たい。床を這いずり回って扉に背を預ける。それだけで悠成は傷ついたような顔を見せた。

「傷ついたのは僕のほうだ」

 悠成の黒い目が悲しげに揺れる。それだけで胸が締め付けられる。彼に抱いていた思いが初恋なのだと知る。

 大地は繰り返し、彼の名を呼ぶ。

「恋人に振られたからって酷いよ、悠成は酷いっ、悠成は僕が嫌いなんだ、きっとそうだ、だからこんなことを、」

 のそりと悠成が立ち上がる。こちらににじり寄って来るから、大地は扉の取っ手を掴む。もうこの家から出て行こう。大雨のなか山を降りていくには不安だった。が、そうしないと自分たちの関係は、取り返しが付かないことになる。

「俺が大地を嫌い?」

 底冷えのする声だった。扉の前で膝をついた悠成が、大地を抱きしめる。いや、しがみついてくるの間違いだ。

「こんなに大地のことだけしか考えられないのに、その感情が嫌悪だって言いたいの? 違うよね、俺は俺は」

 大地は乾いた笑い声を零す。悠成は単純な言葉すらくれない。ここまで来たのに、悠成はおじけづく。

「悠成は独りで飛ばしすぎなんだ、僕の気持ちはどうなるんだ」
「大地は俺の全てだ」

 全てと言われたら期待してしまう。

「な、なら、僕を雑に扱うなよ」

 紳士であれ、とまでは言わない。友人としてみていなくても良いから、ぞんざいに接さないでくれ。

「ごめん、もうしない、大地の嫌がることはしない」

 叱られた子供みたいな顔をしている。どうしてそんな顔を自分に見せるのだろう。

「ねぇ悠成、僕は君が好きだよ、どこがって言ったら、その人を見下したような顔以外だよ」

 悠成が守ろうとしていた砦を、大地は無意識のうちに破壊した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《 根暗の根本君 》である地味男である< 根本 源 >には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染< 空野 翔 >がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する

知世
BL
大輝は悩んでいた。 完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。 自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは? 自分は聖の邪魔なのでは? ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。 幼なじみ離れをしよう、と。 一方で、聖もまた、悩んでいた。 彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。 自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。 心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。 大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。 だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。 それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。 小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました) 受けと攻め、交互に視点が変わります。 受けは現在、攻めは過去から現在の話です。 拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。 宜しくお願い致します。

処理中です...