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一生の告白〈那津美視点〉★
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肉の脂が絡んだ指を食み、口をすぼめて舐める紬の横顔が愛おしい。
今夜はクリスマス・イブだ。実の弟が、俺の作ったスペアリブのハーブ焼きに舌鼓を打つ。最初はナイフとフォークで肉を切っていたのに、二本目からは手づかみで口に頬張る。
そんな紬の口元がテカるのを見て、俺は白ワインで熱くさせた躰をより興奮させてうっとりとした。
「美味しいか」
紬は舌先を覗かせてゆっくりと指を引き抜き、従順にこくんと頷く。
「うん・・・・・・」
紬は顔を横にして目を合わせてくる。と、ザクロみたいに赤く光らせた唇を、これ見よがしに舌で舐めあげた。
「残さずに食べて偉いな、ほら、口のなかをみせてみろ」
紬はまばたきを繰り返し、鼻の穴をひくつかせては視線を落とす。「早くしろ」と急かせば、椅子に下ろした腰を俺のほうにずらし、おずおずと口を開いた。
「もっとだ」
ビクッと頭を揺らす紬は、前歯が見えるまで顎を動かした。籠もった息が漏れてくる。
「そうだ、紬はいい子だ」
息が触れる近さで、紬の歯に刺さった肉片を爪先でこそぎ落とした。取れたかけらをそのまま自分の口に運び、奥歯で咀嚼して深く飲み込んだ時、俺の腹の中はカッと燃えた。
「兄さん、子供扱い・・・・・・やめろよ」
紬の前歯に指の腹を滑らせていたら、紬が今更感のある呼び方で恥じらう。
「那津美だ、お前は意固地だな」
「・・・・・・那津美、離して、指を噛んじゃう」
舌っ足らずな口調に愛おしさが増し、ゾクゾクと心が昂ぶる。兄弟という禁忌を破ってでも、目の前で目尻に涙を浮かばす男が欲しかった。
弟の紬はいつも自信なさげに人目を気にし、ふたりだけの家で顔を合わせても緊張した表情をしていた。俺が離婚したあと、直ぐに二人だけの城として都心にマンションを購入した。ここでなら自分たちが愛し合う行為を裁くものは誰もいない。
なのに、同居を始めて半年が経った今も、紬は壁を越えてくれようとはしないでいた。弟の視線や動作がただよわすものが、単なる脅え以上の物ではないとは分かってはいた。まだ躰を交えていない清い関係なままでいるのは、俺が犯した過去の行いが関係していた。紬が一線を越えないようにしているのは、兄弟だから、というありきたりな答えではなかったのだ。
「お前ならいい、はっ、噛む勇気もないくせに・・・・・・」
「僕が噛んだら、那津美はどうするの」
「その痛みを味わうさ、紬ならなんだって許す」
「・・・・・・どうして、そんなに優しくするんだよ」
不安げにまつげを揺らす紬の目尻を、ぐいっと指で拭う。飴細工みたいに繊細な紬は、激情のまま抱きしめてしまえば壊してかみ砕いてしまう。それでも、飢餓のように狂暴な熱情が、紬が欲しい欲しいと雄叫びをあげる。
「お前だからだ」
怖がらせないよう、泡立つ感情を見せないよう、声のトーンを落とした。伊達に数十年間、血の繋がった弟に片思いをしていたわけではない。『完成品』の兄を演じてきたつもりだが、ほころびだらけだったと思う。紬を振り回した過去に無理やり蓋をしたくなる。それでも『失敗作』になるよう紬を押さえつけてきた過去は消せない。
「・・・・・・好きだよ、那津美を好きだ、なんで」
まるで少女みたいに顔を両手で隠して悲しむ紬を、俺の醜い愛情で溶かして粉々に潰してしまわないか、堪えがたい苦しみにおそわれる。
「なんで僕たちは兄弟なんだろう・・・・・・」
外から雨の音が聞こえてきた。紬が風邪を引かないように、近くにあった膝掛けを彼の肩にかけた。
「お前とはぐれなくて済む、兄弟なら、お前が離れていこうとしても繋ぎ止められる」
緊迫感のある空気をまとう紬を前に、俺は辛抱強く愛を誓い続けていた。
「ガキの頃から紬が好きだった・・・・・・お前にとってウザい兄貴だったとしても、背丈が伸びて年を取っていくお前を見て、いつか俺を忘れて誰かのもんになるんだなって考えただけで、もうさ、死んだ方がマシだと思えてきて・・・・・・だから、兄弟として血の繋がりだけが俺の命綱だったんだ」
紬は充分すぎる悲哀を飲み込んできたではないか。もう赦されてもいいはずだ。なのに、俺の独りよがりな重い感情、宿命、またしても紬に悲哀の思いを味わせてしまう。紬の絶え間もないすすり泣きの声が、俺の胸をもの悲しくかきまわす。
「那津美のやり方は歪んでいるよ・・・・・・僕と同じだったなら、どうしてあんな酷いことを」
紬の肩を引き寄せ、口を塞ごうと唇を寄せた。
「同じだって知らなかったからだ、お前に嫌われるなら違う形でって、不安で怖くて仕様がなくて・・・・・・」
「・・・・・・弱虫」
紬の責める声に、俺は眉を下げて笑うしかできなかった。紬が漏らす息を深く吸い込んだ。
「愛してるよ」
余計な哀しみを排除し、熱情を研ぎ澄ましたたった一つの台詞を吐いた。
「相変わらず自分勝手だ・・・・・・」
グスっと鼻をすする紬が、呆れた顔で深く笑う。
「お前の兄なんだから仕様がないだろう」
プクリと突き出た唇と合わさり、口腔内に忍ばせた舌で唾液と肉汁を咀嚼する。唇を離して腰を抱きよせると、紬はくたっと頭を下ろし、額を俺の肩にこすりつけてくる。
「ワインの味がする」
それだけで酔ってきた、と紬は喉から声を立てて笑う。上目遣いで見てくる紬は無自覚なのか、眼を潤わせて物欲しそうな表情をさせている。
「那津美の味だ」
俺は頭にかっと血が上ったように興奮を感じた。
「紬・・・・・・ああ、かわいい」
首筋に手を這わせると紬は眼を伏せ、ニットの下に手を忍ばせても嫌がるそぶりを見せない。
「・・・・・・紬はいい子だ」
自分たちは兄弟だ。それが恋人として、互いに裸になって肌を重ねようとしている。
「あ、あの」
紬が腰をもぞもぞと動かす。俺は硬いものを当てている自覚はあったから可愛い反応を見せるなと笑う。
「お前って甘い匂いがする」
紬の腰を引き寄せ、首筋に鼻頭を押しつける。
「肉の匂いじゃないかな」
紬のふにゃふにゃな性器を手のひらで揉んだ。
「っう」
「これは紬の匂いだ、俺が嗅ぎ間違えるわけがないだろう」
しっとりとした肌を、すんすんと鼻で吸う。
「くすぐったい」
俺から身体を離そうと、紬が上体を前に屈もうとしたから、腰に回した手に力を入れて止めた。
今夜はクリスマス・イブだ。実の弟が、俺の作ったスペアリブのハーブ焼きに舌鼓を打つ。最初はナイフとフォークで肉を切っていたのに、二本目からは手づかみで口に頬張る。
そんな紬の口元がテカるのを見て、俺は白ワインで熱くさせた躰をより興奮させてうっとりとした。
「美味しいか」
紬は舌先を覗かせてゆっくりと指を引き抜き、従順にこくんと頷く。
「うん・・・・・・」
紬は顔を横にして目を合わせてくる。と、ザクロみたいに赤く光らせた唇を、これ見よがしに舌で舐めあげた。
「残さずに食べて偉いな、ほら、口のなかをみせてみろ」
紬はまばたきを繰り返し、鼻の穴をひくつかせては視線を落とす。「早くしろ」と急かせば、椅子に下ろした腰を俺のほうにずらし、おずおずと口を開いた。
「もっとだ」
ビクッと頭を揺らす紬は、前歯が見えるまで顎を動かした。籠もった息が漏れてくる。
「そうだ、紬はいい子だ」
息が触れる近さで、紬の歯に刺さった肉片を爪先でこそぎ落とした。取れたかけらをそのまま自分の口に運び、奥歯で咀嚼して深く飲み込んだ時、俺の腹の中はカッと燃えた。
「兄さん、子供扱い・・・・・・やめろよ」
紬の前歯に指の腹を滑らせていたら、紬が今更感のある呼び方で恥じらう。
「那津美だ、お前は意固地だな」
「・・・・・・那津美、離して、指を噛んじゃう」
舌っ足らずな口調に愛おしさが増し、ゾクゾクと心が昂ぶる。兄弟という禁忌を破ってでも、目の前で目尻に涙を浮かばす男が欲しかった。
弟の紬はいつも自信なさげに人目を気にし、ふたりだけの家で顔を合わせても緊張した表情をしていた。俺が離婚したあと、直ぐに二人だけの城として都心にマンションを購入した。ここでなら自分たちが愛し合う行為を裁くものは誰もいない。
なのに、同居を始めて半年が経った今も、紬は壁を越えてくれようとはしないでいた。弟の視線や動作がただよわすものが、単なる脅え以上の物ではないとは分かってはいた。まだ躰を交えていない清い関係なままでいるのは、俺が犯した過去の行いが関係していた。紬が一線を越えないようにしているのは、兄弟だから、というありきたりな答えではなかったのだ。
「お前ならいい、はっ、噛む勇気もないくせに・・・・・・」
「僕が噛んだら、那津美はどうするの」
「その痛みを味わうさ、紬ならなんだって許す」
「・・・・・・どうして、そんなに優しくするんだよ」
不安げにまつげを揺らす紬の目尻を、ぐいっと指で拭う。飴細工みたいに繊細な紬は、激情のまま抱きしめてしまえば壊してかみ砕いてしまう。それでも、飢餓のように狂暴な熱情が、紬が欲しい欲しいと雄叫びをあげる。
「お前だからだ」
怖がらせないよう、泡立つ感情を見せないよう、声のトーンを落とした。伊達に数十年間、血の繋がった弟に片思いをしていたわけではない。『完成品』の兄を演じてきたつもりだが、ほころびだらけだったと思う。紬を振り回した過去に無理やり蓋をしたくなる。それでも『失敗作』になるよう紬を押さえつけてきた過去は消せない。
「・・・・・・好きだよ、那津美を好きだ、なんで」
まるで少女みたいに顔を両手で隠して悲しむ紬を、俺の醜い愛情で溶かして粉々に潰してしまわないか、堪えがたい苦しみにおそわれる。
「なんで僕たちは兄弟なんだろう・・・・・・」
外から雨の音が聞こえてきた。紬が風邪を引かないように、近くにあった膝掛けを彼の肩にかけた。
「お前とはぐれなくて済む、兄弟なら、お前が離れていこうとしても繋ぎ止められる」
緊迫感のある空気をまとう紬を前に、俺は辛抱強く愛を誓い続けていた。
「ガキの頃から紬が好きだった・・・・・・お前にとってウザい兄貴だったとしても、背丈が伸びて年を取っていくお前を見て、いつか俺を忘れて誰かのもんになるんだなって考えただけで、もうさ、死んだ方がマシだと思えてきて・・・・・・だから、兄弟として血の繋がりだけが俺の命綱だったんだ」
紬は充分すぎる悲哀を飲み込んできたではないか。もう赦されてもいいはずだ。なのに、俺の独りよがりな重い感情、宿命、またしても紬に悲哀の思いを味わせてしまう。紬の絶え間もないすすり泣きの声が、俺の胸をもの悲しくかきまわす。
「那津美のやり方は歪んでいるよ・・・・・・僕と同じだったなら、どうしてあんな酷いことを」
紬の肩を引き寄せ、口を塞ごうと唇を寄せた。
「同じだって知らなかったからだ、お前に嫌われるなら違う形でって、不安で怖くて仕様がなくて・・・・・・」
「・・・・・・弱虫」
紬の責める声に、俺は眉を下げて笑うしかできなかった。紬が漏らす息を深く吸い込んだ。
「愛してるよ」
余計な哀しみを排除し、熱情を研ぎ澄ましたたった一つの台詞を吐いた。
「相変わらず自分勝手だ・・・・・・」
グスっと鼻をすする紬が、呆れた顔で深く笑う。
「お前の兄なんだから仕様がないだろう」
プクリと突き出た唇と合わさり、口腔内に忍ばせた舌で唾液と肉汁を咀嚼する。唇を離して腰を抱きよせると、紬はくたっと頭を下ろし、額を俺の肩にこすりつけてくる。
「ワインの味がする」
それだけで酔ってきた、と紬は喉から声を立てて笑う。上目遣いで見てくる紬は無自覚なのか、眼を潤わせて物欲しそうな表情をさせている。
「那津美の味だ」
俺は頭にかっと血が上ったように興奮を感じた。
「紬・・・・・・ああ、かわいい」
首筋に手を這わせると紬は眼を伏せ、ニットの下に手を忍ばせても嫌がるそぶりを見せない。
「・・・・・・紬はいい子だ」
自分たちは兄弟だ。それが恋人として、互いに裸になって肌を重ねようとしている。
「あ、あの」
紬が腰をもぞもぞと動かす。俺は硬いものを当てている自覚はあったから可愛い反応を見せるなと笑う。
「お前って甘い匂いがする」
紬の腰を引き寄せ、首筋に鼻頭を押しつける。
「肉の匂いじゃないかな」
紬のふにゃふにゃな性器を手のひらで揉んだ。
「っう」
「これは紬の匂いだ、俺が嗅ぎ間違えるわけがないだろう」
しっとりとした肌を、すんすんと鼻で吸う。
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