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「ところで、お嬢様のお輿れの話は勿論ご存じでしょうが、それについては、どうなさるおつもりなのです?相手が国王陛下だからと言って、このまま黙っているおつもりは無いのでしょう?」
メリダは一番の懸念事項について、カノンに投げかけた。
「・・・王宮に出向いたエレーヌを、国王の目の前で攫おうかと思っている」
「随分大胆ですね。まぁ、案外お嬢様はそういう劇的な演出がお好きなので、悪くないと思いますよ」
「そうか?ともかく、エレーヌは自分が輿入れを断ることで生家に迷惑が掛からぬかどうかを一番心配しているようだったが、この方法を取ればエレーヌも、家も何も責めを負う事は無いだろうと思ってな。
それと、魅了を解いたうえで、エレーヌの父の意向も確認してみたが、彼女が嫌なら自分が不遇を被ったとしても希望をきいてやりたいという様子でもあった」
それから、カノンはバートンと示し合わせたエレーヌの狂言誘拐についての詳細を、メリダに語りだした。
エレーヌと国王が会っているところに、敢えて一旦義妹のカノンとして乱入してから元の姿へと戻り、彼女を誘拐するのだという。
義妹の存在自体が化物で、エレーヌはその化物に攫われたのだという印象を植え付けることができれば、皆が正気に戻った途端に矛盾しかない義妹という存在そのものの矛盾も解消できる。
そして、二人に関わった人々は皆、自覚なく、人ならざる者に誑かされていた被害者なのだという理屈で、全てが丸く収まるはずだと。
対外上は、エレーヌが義妹を装っていた化物の人身御供になったというシナリオだ。
理由については、わざわざこちらで考えずとも市井の噂好き達が、適当なそれらしい話を大袈裟につけてくれるだろう。
「なるほど、それで問題なさそうですね。事前にお嬢様にもお伝えしておきましょうか?」
「いや・・・その方が良いのだろうが・・・一旦、エレーヌに私の正体を告げてしまったら、もう自分の気持ちに歯止めが効きそうにない・・・もう一度、事をなす為に義妹を装うことなど出来なくなってしまいそうだ・・・」
先ほど狂言誘拐について語っていた真面目で頼もしい様子とは打って変わり、急に乙女のように顔を赤らめ言葉を詰まらせるカノンを見たメリダは、溜息をついた。
「はいはい、わかりました。そういうことでしたら、内緒にした方が良さそうですね」
「ただ、一つ危惧があってな・・・国王が喰らいついてきた場合に荒事にならないように気をつけなくては・・・と思ってはいるのだが」
「『西の王子』であるあなたが、荒事に何の心配があるというのです?・・・と言いたいところですが、お強いというのは物語の脚色で、実際のあなたはひ弱なので、相手に遅れを取りそうだということですか?
見たところ筋骨隆々という訳でもないですし、たしかに全然強そうには見えませんね・・・」
メリダは疑わし気に目を細めた。
「ぬかせ!そうではない。うっかり相手を消してしまわないように、という心配だ。
自分で言うのもどうかと思うが、私はエレーヌに関しては腑抜けだが、荒事には誰よりも自信がある!
だが、彼女は争いごとが嫌いだから、出来るだけそういった血生臭い事は避けたいと思っている。昔はそうせざるを得ない世情があったが、今は違う。
それに、諦めがたくはあるが、記憶を取り戻したうえで、もし彼女が私の事を望まなければ、解放しようとも思っている・・・」
カノンはその美しい顔を曇らせて言った。
「そこまでとは・・・。あなたがなさる事は、いつも傍から見れば酷い事ばかりでしたが、本当にお嬢様の事を心から大切に思っていらっしゃるのですね」
「エレーヌの気持ちを大切に思うのは当たり前だ」
「大丈夫ですよ、ご自分に自信を持って!こんな可愛らしい方をお嬢様が嫌いだと仰るはずはありませんよ」
メリダはにっこりと笑って言った。
「私はお前の何倍生きていると思っている?!・・・可愛らしいなどと言われる覚えはない!!」
カノンは照れ隠しか、目線を横にやった。
メリダは一番の懸念事項について、カノンに投げかけた。
「・・・王宮に出向いたエレーヌを、国王の目の前で攫おうかと思っている」
「随分大胆ですね。まぁ、案外お嬢様はそういう劇的な演出がお好きなので、悪くないと思いますよ」
「そうか?ともかく、エレーヌは自分が輿入れを断ることで生家に迷惑が掛からぬかどうかを一番心配しているようだったが、この方法を取ればエレーヌも、家も何も責めを負う事は無いだろうと思ってな。
それと、魅了を解いたうえで、エレーヌの父の意向も確認してみたが、彼女が嫌なら自分が不遇を被ったとしても希望をきいてやりたいという様子でもあった」
それから、カノンはバートンと示し合わせたエレーヌの狂言誘拐についての詳細を、メリダに語りだした。
エレーヌと国王が会っているところに、敢えて一旦義妹のカノンとして乱入してから元の姿へと戻り、彼女を誘拐するのだという。
義妹の存在自体が化物で、エレーヌはその化物に攫われたのだという印象を植え付けることができれば、皆が正気に戻った途端に矛盾しかない義妹という存在そのものの矛盾も解消できる。
そして、二人に関わった人々は皆、自覚なく、人ならざる者に誑かされていた被害者なのだという理屈で、全てが丸く収まるはずだと。
対外上は、エレーヌが義妹を装っていた化物の人身御供になったというシナリオだ。
理由については、わざわざこちらで考えずとも市井の噂好き達が、適当なそれらしい話を大袈裟につけてくれるだろう。
「なるほど、それで問題なさそうですね。事前にお嬢様にもお伝えしておきましょうか?」
「いや・・・その方が良いのだろうが・・・一旦、エレーヌに私の正体を告げてしまったら、もう自分の気持ちに歯止めが効きそうにない・・・もう一度、事をなす為に義妹を装うことなど出来なくなってしまいそうだ・・・」
先ほど狂言誘拐について語っていた真面目で頼もしい様子とは打って変わり、急に乙女のように顔を赤らめ言葉を詰まらせるカノンを見たメリダは、溜息をついた。
「はいはい、わかりました。そういうことでしたら、内緒にした方が良さそうですね」
「ただ、一つ危惧があってな・・・国王が喰らいついてきた場合に荒事にならないように気をつけなくては・・・と思ってはいるのだが」
「『西の王子』であるあなたが、荒事に何の心配があるというのです?・・・と言いたいところですが、お強いというのは物語の脚色で、実際のあなたはひ弱なので、相手に遅れを取りそうだということですか?
見たところ筋骨隆々という訳でもないですし、たしかに全然強そうには見えませんね・・・」
メリダは疑わし気に目を細めた。
「ぬかせ!そうではない。うっかり相手を消してしまわないように、という心配だ。
自分で言うのもどうかと思うが、私はエレーヌに関しては腑抜けだが、荒事には誰よりも自信がある!
だが、彼女は争いごとが嫌いだから、出来るだけそういった血生臭い事は避けたいと思っている。昔はそうせざるを得ない世情があったが、今は違う。
それに、諦めがたくはあるが、記憶を取り戻したうえで、もし彼女が私の事を望まなければ、解放しようとも思っている・・・」
カノンはその美しい顔を曇らせて言った。
「そこまでとは・・・。あなたがなさる事は、いつも傍から見れば酷い事ばかりでしたが、本当にお嬢様の事を心から大切に思っていらっしゃるのですね」
「エレーヌの気持ちを大切に思うのは当たり前だ」
「大丈夫ですよ、ご自分に自信を持って!こんな可愛らしい方をお嬢様が嫌いだと仰るはずはありませんよ」
メリダはにっこりと笑って言った。
「私はお前の何倍生きていると思っている?!・・・可愛らしいなどと言われる覚えはない!!」
カノンは照れ隠しか、目線を横にやった。
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