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舞踏会から数日が過ぎ、夜が深まった頃、王宮の中にあるバートンの私室に人影が現れた。

その影に向かってバートンは問いかける。

「やっとお出ましになったのですか?こんな事になってしまっている事情について、詳しくお話を聞かせていただきましょうか?」

音もなくバートンの前まで進み出た長身の銀の髪の男は答えた。

「良いだろう・・・私もその為に来たのだ」



防音の結界を部屋に張りめぐらせるのを終えたバートンは開口した。

「どうして、先日は女装なんてなさっていたのです?!暫く会わない間に、新しいご趣味が出来たのですか?・・・まぁ、あれはあれで美しいですけれども・・・」

少し照れるように、バートンは口ごもった。

「気色が悪い顔をするな。あれは私の趣味では無い。エレーヌの為にしていることだ。お前も暫く見ない間に変わったな。魔族の宰相が人の国の宮廷魔術師になぞ納まっているとはな・・・」

「私のことは一先ず置いておいて・・・ということは、あのエレーヌという令嬢が、あなたの花嫁になるはずだった聖女様なのですか?全く以前の面影は無いように思えますが・・・」

「魂の色を見ればすぐに判る。昔のような容貌では、要らぬ縁ばかり引き寄せて煩わしい故に、敢えて面影を残さず、力も捨てたのだろう。
それにしても、お前は外側ばかりで、内側まで見ようとしない。
数日前にしても、あれ以上お前が軽々しく彼女に近づこうとしていたら、私が焼き殺していたところだ・・・命拾いしたな」





「それで、もうエレーヌ様にはご自分の事はお話されたのですか?」

「いや・・・まだ何も言っていない。彼女からはただの義妹だと思われている」

「はぁ?」

「彼女は前世の記憶を思い出してはいない。わざわざ苦しい事を無理に思い出させるような真似はしたくないのだ」

「だからといって、何も伝えなければ進展も何もあったものではありませんよ?!
ご自分が婚約者に成り代わるという力業でエレーヌ様のご婚約を阻止したからといっても、ぐずぐずしているとまた横から掻っ攫われますよ?
真面目にやる気はあるのですか?!そもそもやり方が滅茶苦茶なんですよ。
この後だってどうするんです?その場しのぎしか考えていないのでしょう?
それとも、カノン様が女装したまま、あのロベルトとやらと本当に結婚してやるつもりなんですか?全くこれだから脳筋は・・・」

捲し立てるように話すバートン。

「あの男は、物事の価値がわからないただ阿呆でしかないし、陰では奴を何度鼻で笑ったか知れない。それに、そんなことは後からどうとでもできる。
ただ、エレーヌとの婚約が取りやめになった後も、彼女に会えると図々しく考えていようだったから、エレーヌと会えないように少しばかり彼女の部屋の扉に魔術で細工をしてやったがな」

「聖女様のことになると、カノン様がそこまで陰湿だとは思いませんでした・・・」

「だが、問題は別のところだ。とにかく気を遣えば遣うほど、彼女から遠ざかってしまうのだ。
折角、周囲の人間に認知を歪める魔術まで使って、屋敷に潜り込んだにも関わらず、エレーヌになかなか近づく事ができない・・・。
それに、どういう訳か、侍女から酷い誤解を受けているようで、彼女は私がエレーヌを害そうとしているのだと思い込み、絶対に二人きりにはしてくれないのだ・・・」

カノンはバートンに事情を説明することにした。
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