上 下
5 / 29

4

しおりを挟む
「こんな年にもなってどうかと思うけれど、またあのお話を聞かせてくれないかしら・・・悲しいお話ではあるけれど、最後に少しだけ希望が持てるようなところが好きなの」

今日は満月の夜だ。

子供のころから、満月になると胸がざわついて眠れなくなるエレーヌ。

そんなエレーヌのために、彼女が眠るまでメリダは様々な話をしてくれたが、その中でも特にエレーヌが一番気に入っている話があった。

『東の聖女と西の王子』という話だ。

メリダの家に伝わる話で、本としては存在しないものらしい。

昔々のこと、心優しい東の聖女は、西にある魔族の国の王子と恋に落ちた。

東の国の王は、西の国を狙っていたが、まるで武神のような強さを誇る西の王子の存在があっては、戦を仕掛けたとしても敗北は必至だった。

そこで、東の王は、西の王子が聖女にだけは心を許しているということを利用し、彼女に西の王子を騙し討ちにするようにと命令する。

しかし、聖女はそれを拒んだ為、怒った王は彼女を人質にして西の王子を従わせようと画策する。

彼の重荷になることを良しとしなかった聖女は、自ら命を絶ってしまう。

西の王子が知らせを聞いて駆けつけた時には、彼女はすでにこと切れてしまっていた。

悲しむ王子だったが、聖女にいつも付き従っていた司祭から彼女の最後の手紙を渡される。

手紙には、『また必ず転生してあなたの前に現れるから、今度はきっと一緒になりましょう』と書かれていた。

その手紙を胸にしまい込んだ西の王子は、その長き命が尽きるまで聖女を探し続けることを誓ったという・・・。





「ねぇ、メリダ、このお話に出てくる国はもう無いのかしら?」

「そうですね、そもそも本当にあった話かどうかも分かりませんし、本当の話だったとしても、この話自体がずいぶん昔のものでしょうから、もう無くなっているでしょうね」

「・・・それはそうね」

「お話ももう終わりましたし・・・もう眠れそうですか?お嬢様」

メリダは優しく微笑んだ。

「ええ、ありがとう。メリダのおかげだわ、おやすみなさい」

「お嬢様も良い夜を・・・おやすみなさいませ」

就寝の挨拶をしたメリダは、エレーヌの部屋を後にした。





夜も更け、一人眠りについたエレーヌの枕元に人影があった。

「あなたを失ったのも、こんな夜でしたね・・・」

肩にかかる銀色の髪をした赤い瞳が美しい男は、愛しげにエレーヌの横顔を見つめ、感慨深そうに呟いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが残した世界で

天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。 八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。

夢で逢えたら

ねこセンサー
恋愛
ーーあなたを、お慕いしておりましたーー。 政略とはいえ、慕っていた男性に婚約を否定され。 ショックのあまりに倒れ、その際に打ち所が悪く、令嬢ミラーナは生死の境をさ迷う。 そんな彼女の痛ましい様子に心を痛めた精霊は、彼女の願いをひとつだけ叶えると告げた。 そうして、ミラーナが告げた願いとは… ※全十九話、五万字程度です。毎日更新します。予約投稿しています。最終話は10月22日です。 ※別視点、一話追加しました。最終話と同時に公開します。(2020.10.16)

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~

上下左右
恋愛
 聖女クレアは泣きボクロのせいで、婚約者の公爵から醜女扱いされていた。だが彼女には唯一の心の支えがいた。愛犬のハクである。  だがある日、ハクが公爵に殺されてしまう。そんな彼女に追い打ちをかけるように、「醜い貴様との婚約を破棄する」と宣言され、新しい婚約者としてサーシャを紹介される。  サーシャはクレアと同じく異世界からの転生者で、この世界が乙女ゲームだと知っていた。ゲームの知識を利用して、悪役令嬢となるはずだったクレアから聖女の立場を奪いに来たのである。  絶望するクレアだったが、彼女の前にハクの生まれ変わりを名乗る他国の王子が現れる。そこからハクに溺愛される日々を過ごすのだった。  一方、クレアを失った王国は結界の力を失い、魔物の被害にあう。その責任を追求され、公爵はクレアを失ったことを後悔するのだった。  本物語は、不幸な聖女が、前世の知識で逆転劇を果たし、モフモフ王子から溺愛されながらハッピーエンドを迎えるまでの物語である。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る

青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。 卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。 実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。 婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。 寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。 その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。 聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。

【完結済】婚約破棄された元公爵令嬢は教会で歌う

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 婚約破棄された元公爵令嬢は、静かな教会で好き勝手に歌う。 それを見ていた神は... ※書きたい部分だけ書いた4話だけの短編。 他の作品より人物も名前も設定も全て適当に書いてる為、誤字脱字ありましたらご報告ください。

処理中です...