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14. side アーロン
しおりを挟むはじめて出会ったときは、可愛らしい妹のようだと思った。
そして、彼女を守る兄のような存在になりたいと思った。
あらぬ噂を立てられ、家族からも存在しないように扱われる辛い毎日を過ごす彼女の心境は、順風満帆に生きてきた当時の自分にはとても理解できそうにはなかった。
だが、恵まれない状況にも関わらず、いつでも王女として誇りを持って振る舞おうとする幼い彼女の気高さに、いつしか騎士として心酔するようになっていた。
そんな彼女に生涯の忠誠を誓った。
けれど、結局自分の心の弱さから、その約束を自ら破ってしまった。
そして、信頼をくれた彼女を傷つけた。
にも関わらず、あの朝に思わぬ再開を果たした時は、彼女はまだこんな自分を一人の騎士として扱おうとしてくれた。
そんな彼女に、零落れ切って一片の誇りすら無くしていた自分は救われた。
さながら、自分では抜け出すことのできない地獄の中に差し込んだ、一筋の光明の様だった。
もし、彼女さえ許してくれるのであれば、自分はまた彼女を守る騎士になりたいと強く思った。
慈悲深い彼女はそんな身勝手な願いを聞き入れてくれた。
その思いに恥じぬよう、この旅の中では、自分は彼女を守るために邁進してきたはずだった。
自分はずっと、彼女が主として守るべき対象だから、守らなくてはならないと感じるのだと思っていた。
けれど、気付いてしまった。
気付かないほうが良かったのに・・・。
あの日、雨に濡れた彼女の服を着替えさせた時のことだった。
通常なら侍女に任せるところだったが、生憎あの不幸な事故のせいで侍女は存在しなかった。
それでも、よく考えれば宿の女将を呼ぶべきだったのだろうと今なら分かる。
けれど、雨の中を歩き続け、疲労で朦朧とした頭は正常な判断力を失っていた。
ただ、一刻も早く着替えさせなければ、彼女が体調を崩してしまうという恐れしか自分の中には無かった。
自分の過失で彼女を失ってしまうかもしれないということが、何よりも恐ろしく感じられた。
それに、女の身体など見慣れたものなのだから、今更服を着替えさせるくらい何ともないだろうと高を括っていたが、それは大きな間違いだった。
その時は自分が自分ではなくなったようだった。
自分は便宜上必要な行為を遂行しているに過ぎないのだと理解しているはずなのに、何か酷く後ろめたいことをしている様な気がして仕方がなかった。
それから、なるべく彼女の方を見ないようにして手早く乾いた服を着せ、寝かしつけた。
正直、この気持ちの正体には一生気付かないほうが良かったのだろう。
けれど、気付かずにはいられなかった・・・。
もう彼女と過ごせる時間は長くはないのに、今更全てが遅すぎるような気がした。
アーロンは今まで多くの女性と関係を持ってきたが、その生涯で初めて、一人の女性を心から愛おしく自分だけのものにしたいと願った。
彼女の名は、ロザリア。
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