あなたが残した世界で

天海月

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9.片道の旅路Ⅱ

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侍女も護衛たちも皆、濁流の中へと消え去り、アーロンとロザリアは二人きりになってしまった。

落ちる馬車から寸でのところで彼に助け出されたロザリアは、気を失ってしまっていた。

土砂降りの雨はまだ止みそうにない。

アーロンは自分の上着を脱ぐと、ロザリアの頭に優しく掛けた。

そして、彼女を背負って、足元を確かめながらゆっくりと街に向かって歩き出した。





アーロンは無事に街までたどり着き宿を手配した。

部屋に入ると、彼はまだ気を失ったままのロザリアの濡れた服を着替えさせ、彼女をベッドに横たわらせた。

そして、自分はその傍らにある椅子に腰を下ろした。

雨の中を彼女を背負って歩き続け、疲労が極限に達していた彼は、そこに座ったまま眠り込んでしまった。





ロザリアは目を覚ました。

さっきまで馬車に乗っていたはずなのに、室内の天井が見える違和感に気付いた彼女は不審に思った。

起き上がろうとした彼女の目に入ってきたのは、自身が眠っていたベッドの脇に椅子と共に倒れこんでいるアーロンだった。

「アーロン!」

彼女は慌てて彼の傍に寄ったが、アーロンは呼びかけにも応えずガタガタと震えて目を瞑ったままだった。

髪も服も水が滴る程に濡れていた。

何とかしないと・・・。

ロザリアは彼を引き起こそうとしたが、非力な彼女の力ではどうにもならず、彼女は部屋の外に人を呼びに行った。





下の階に居た中年の女性は、自分は宿の女将で、ここが街にある宿泊施設だという事と、ロザリアが気を失っていた間のことをアーロンから聞いた範囲で教えてくれた。

ロザリア達の乗っていた馬車は事故に遭い、アーロンはそのあと彼女を休みなく背負ってここまで来たのだという。

女将は言った。

「それにしても、あんたの旦那は良い男だねぇ。血相を変えて、ここに入ってきたときは驚いだけど、とにかくあんたの事がが大事で大事で仕方がないって感じだったよ。きっとこの雨の中ずっとあんたを背負って歩いて、疲れて風邪でも引いちまったんだろう。しっかり看病しておやりよ」

女将の話を聞いたロザリアは赤面した。

女将がアーロンの事をロザリアの旦那と言ったのも、恥ずかしいような嬉しいような気分だった。

けれど、この土砂降りの中をアーロンが自分を背負ってここまで連れてきてくれたという事実が、何よりロザリアには喜ばしいような気がした。


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