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8.片道の旅路Ⅰ
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ロザリアは不審がって彼の同行を認めようとしない護衛を説得した。
結果、アーロンは彼女の片道の旅への随伴を許された。
◇
辺境にあるという、災厄が住む洞窟への道程は長い。
幾日もかけて幾つもの街や村を、彼女を乗せた馬車は通り過ぎた。
◇
その日の朝は清々しすぎるほどの雲一つない晴れだった。
だが、昼過ぎになり、一行がそろそろ長い山中を抜けるというところで、異変がおきた。
前触れもなく空一面が厚みをもった灰色の雲で埋め尽くされ、辺りはまるで夜のように暗くなった。
鋭く刺すような強烈な光が走り、少し遅れて激しい轟音が地面を揺らす。
頻繁に明滅を繰り返すそれは、そこにある全てのものの輪郭を恐ろしいほど鮮明に浮かび上がらせる。
程なくして大粒の雨が地面や木々を打つ音が騒がしくなった。
乾いた土にゆっくりと浸み込んでいく、埃っぽい匂いがどこからともなく周辺に立ちのぼったかと思うと、それは次第に湿った匂いに変化していった。
この状況を考慮すれば、どこかでこの悪天候をやり過ごしたほうが無難だったのだろうが、周辺にどこにも留まれそうな場所が無かったことと、もう少しだけ進めば次の街に着くという安心感が彼らの判断を誤らせたのだろう。
一行は豪雨の中を進み続けた。
それは、川を越える橋にに差し掛かった辺りで起こった。
車輪を横滑りさせた馬車は横転し、そのまま激流がうねる谷底に向かって橋の上から落下したのだった。
その結果、重心が大きく崩れた橋は、上下左右に激しく揺さぶられ、姿勢を保ち切れなかった馬も背に乗せた護衛達もろとも落ちていった。
ロザリアと共に馬車に乗り込んでいたアーロンは、間一髪のところで、一切の躊躇なく彼女を抱いて外へと飛び出した。
結果、アーロンは彼女の片道の旅への随伴を許された。
◇
辺境にあるという、災厄が住む洞窟への道程は長い。
幾日もかけて幾つもの街や村を、彼女を乗せた馬車は通り過ぎた。
◇
その日の朝は清々しすぎるほどの雲一つない晴れだった。
だが、昼過ぎになり、一行がそろそろ長い山中を抜けるというところで、異変がおきた。
前触れもなく空一面が厚みをもった灰色の雲で埋め尽くされ、辺りはまるで夜のように暗くなった。
鋭く刺すような強烈な光が走り、少し遅れて激しい轟音が地面を揺らす。
頻繁に明滅を繰り返すそれは、そこにある全てのものの輪郭を恐ろしいほど鮮明に浮かび上がらせる。
程なくして大粒の雨が地面や木々を打つ音が騒がしくなった。
乾いた土にゆっくりと浸み込んでいく、埃っぽい匂いがどこからともなく周辺に立ちのぼったかと思うと、それは次第に湿った匂いに変化していった。
この状況を考慮すれば、どこかでこの悪天候をやり過ごしたほうが無難だったのだろうが、周辺にどこにも留まれそうな場所が無かったことと、もう少しだけ進めば次の街に着くという安心感が彼らの判断を誤らせたのだろう。
一行は豪雨の中を進み続けた。
それは、川を越える橋にに差し掛かった辺りで起こった。
車輪を横滑りさせた馬車は横転し、そのまま激流がうねる谷底に向かって橋の上から落下したのだった。
その結果、重心が大きく崩れた橋は、上下左右に激しく揺さぶられ、姿勢を保ち切れなかった馬も背に乗せた護衛達もろとも落ちていった。
ロザリアと共に馬車に乗り込んでいたアーロンは、間一髪のところで、一切の躊躇なく彼女を抱いて外へと飛び出した。
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