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6.王女の騎士
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「もうこの城に帰ってくる事も無いのね・・・」
あれから数か月が経ち、いよいよロザリアが生贄として、洞窟へと出立する日がやってきた。
彼女は、自分がここを出る日はきっとどこかへ嫁がされる日なのだと、ずっと思っていた。
けれど、そんな日は訪れず、まさかこんな風に城を後にするとは思いもしなかった。
彼女は自らが王族であることにも、贅沢な暮らしにも何の未練も無かったが、ただアーロンとの思い出が詰まったこの城を後にすることに一抹の寂しさを感じた。
最低限の侍女と護衛だけが伴う、希望も何もない寂しい旅だ。
今まで、生贄になったという過去の女性たちもこんな気持ちだったのだろうか・・・。
◇
今日は彼女にとっては特別な日だったが、城はいつも通りで何の変化もない。
これから死にに行く彼女の顔を見るのは辛くなるからと、父母も兄も誰一人彼女の見送りには来てくれなかった。
そんなものは詭弁だと思った。
別に何か特別に感謝してほしいという訳ではなかったが、これから皆のために犠牲になるというのに、誰からも少しも気に掛けられていないようで、世界に自分一人だけが取り残されたような気さえして、彼女は言葉にできないような虚しさを覚えた。
かといって、多人数で仰々しく見送られるのも何だかわざとらしく胡散臭いような気がして避けたかった。
だから、こうやって誰にも見送られず、ひっそりと出掛けるのが一番良いのだ・・・彼女は無理にでもそう思おうとした。
けれど、どこか割り切れなかった。
こんな時一番傍にいて欲しいはずのアーロンもいない・・・。
それにしても、自分の最期はなんと寂しいものなのだろう・・・。
ロザリアは、そうしみじみと考えると、もうとっくに覚悟は済んで、全てが終わるまで笑っているつもりだったにも拘らず、堪え切れず自然と涙が溢れてきてしまった。
◇
彼女を乗せた馬車が城の外側の門に差し掛かったところで、前触れもなく動きを止めた。
しばらくしても動き出す気配が一切なく、外から何か言い争うような声が聞こえてきた。
彼女が今一番聞きたかった声が微かに聞こえたような気がした。
これから死出の旅に赴く不安のあまりに聞こえた幻聴かもしれないと思いつつも、ロザリアはとっさに、同乗していた侍女の制止を振り切って馬車の外に出た。
すると、そこには剣を佩いた彼女の最愛の人アーロンが跪いていた。
彼女は立ち尽くし、息を飲んだ。
彼の空色の視線が、真っ直ぐにロザリアを捉えた。
数か月ぶりに対面した彼は、一時はあれほど落ちぶれていた様子など皆無のように、かつての強い意志を持った瞳を取り戻していた。
「ロザリア様、先日の非礼をどうかお許しください。そして、俺をこの旅の供としてお連れください」
あれから数か月が経ち、いよいよロザリアが生贄として、洞窟へと出立する日がやってきた。
彼女は、自分がここを出る日はきっとどこかへ嫁がされる日なのだと、ずっと思っていた。
けれど、そんな日は訪れず、まさかこんな風に城を後にするとは思いもしなかった。
彼女は自らが王族であることにも、贅沢な暮らしにも何の未練も無かったが、ただアーロンとの思い出が詰まったこの城を後にすることに一抹の寂しさを感じた。
最低限の侍女と護衛だけが伴う、希望も何もない寂しい旅だ。
今まで、生贄になったという過去の女性たちもこんな気持ちだったのだろうか・・・。
◇
今日は彼女にとっては特別な日だったが、城はいつも通りで何の変化もない。
これから死にに行く彼女の顔を見るのは辛くなるからと、父母も兄も誰一人彼女の見送りには来てくれなかった。
そんなものは詭弁だと思った。
別に何か特別に感謝してほしいという訳ではなかったが、これから皆のために犠牲になるというのに、誰からも少しも気に掛けられていないようで、世界に自分一人だけが取り残されたような気さえして、彼女は言葉にできないような虚しさを覚えた。
かといって、多人数で仰々しく見送られるのも何だかわざとらしく胡散臭いような気がして避けたかった。
だから、こうやって誰にも見送られず、ひっそりと出掛けるのが一番良いのだ・・・彼女は無理にでもそう思おうとした。
けれど、どこか割り切れなかった。
こんな時一番傍にいて欲しいはずのアーロンもいない・・・。
それにしても、自分の最期はなんと寂しいものなのだろう・・・。
ロザリアは、そうしみじみと考えると、もうとっくに覚悟は済んで、全てが終わるまで笑っているつもりだったにも拘らず、堪え切れず自然と涙が溢れてきてしまった。
◇
彼女を乗せた馬車が城の外側の門に差し掛かったところで、前触れもなく動きを止めた。
しばらくしても動き出す気配が一切なく、外から何か言い争うような声が聞こえてきた。
彼女が今一番聞きたかった声が微かに聞こえたような気がした。
これから死出の旅に赴く不安のあまりに聞こえた幻聴かもしれないと思いつつも、ロザリアはとっさに、同乗していた侍女の制止を振り切って馬車の外に出た。
すると、そこには剣を佩いた彼女の最愛の人アーロンが跪いていた。
彼女は立ち尽くし、息を飲んだ。
彼の空色の視線が、真っ直ぐにロザリアを捉えた。
数か月ぶりに対面した彼は、一時はあれほど落ちぶれていた様子など皆無のように、かつての強い意志を持った瞳を取り戻していた。
「ロザリア様、先日の非礼をどうかお許しください。そして、俺をこの旅の供としてお連れください」
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