15 / 24
15
しおりを挟む
クリスティーナのかつての思い人、オリバーは彼女を温かく迎えてくれた。
「急にどうしたの?君はお嫁に行ったと聞いていたけれど・・・伯爵と喧嘩でもしてしまったのかい?」
まずは飲み物でも飲んで落ち着いて・・・、と穏やかな口調でお茶を差し出してくれるオリバー。
それは伯爵家で出されるものとは比べ物にならないような粗末なものだったが、クリスティーナとっては彼が淹れてくれたというだけで、同じように美味しいような気がした。
二人は久方ぶりに気の置けない会話を楽しんだ。
「そろそろお暇するわ・・・」
クリスティーナはオリバーの顔を見つめて、やはり今日はクラークの屋敷に帰らなくては・・・と思った。
勢いでここへ押し掛けてしまったクリスティーナだったが、彼の優し気な菫色の瞳を見ると、何だか急にマリオンの事を思い出して居心地が悪くなったのだった。
やはり、今日またオリバーに再開して、今でも彼が愛しいと思った。
けれど、よく考えれば、いくら嘘ばかりつかれている形だけの妻とは言え、愛は無くとも、マリオンからは経済的に破格の待遇を受けている。
そもそも、自分はマリオンの恩に対して相応しい見返りを提供できていただろうか。
恐らく、彼のあの無情な頼みを引き受けるということが、自分が彼にしてやれる唯一の価値ある見返りだったに違いない。
それなのに、止むを得ない事情もあったとはいえ、マリオンの唯一の頼みを自分は叶えてやらなかったのだ。
先ほどは、頭に血が上って全てがどうでも良く、自分も勝手にしてやろうと思った。
しかし、落ち着いて考えてみれば、向こうからもう不要だと切り捨てられるならばともかく、自分からマリオンを裏切るような不誠実な真似は出来ない・・・。
そう、クリスティーナは思った。
マクレーンの屋敷を出た時は、このままオリバーと駆け落ちをしてやろうという位の気概を持って、彼の家にやってきたはずのクリスティーナだったが、今となっては何だか急に気持ちが萎んでしまったような気がしていた。
「今日は急にお邪魔してごめんなさい・・・。楽しい時間をありがとう。」
◇
クリスティーナが、オリバーの家を出てクラークの屋敷に帰る途中、彼女を探し続けていたマリオンが彼女を見つけて駆け寄ってきた。
彼は心から心配そうな表情を浮かべていた。
「随分探したよ。無事でよかった・・・」
思わず彼女を抱きしめたマリオンの腕の中で、クリスティーナは思っていた。
支離滅裂な方ではあるけれど・・・今、私を大切に思っていてくださるのは本心だと感じる・・・。
やっぱり、私が帰るところはマリオン様のところしか無いのかしら・・・。
「一緒に帰ろう」
クリスティーナは帰り際にオリバーに手渡された、一つのボタンを握り締めたのだった。
「急にどうしたの?君はお嫁に行ったと聞いていたけれど・・・伯爵と喧嘩でもしてしまったのかい?」
まずは飲み物でも飲んで落ち着いて・・・、と穏やかな口調でお茶を差し出してくれるオリバー。
それは伯爵家で出されるものとは比べ物にならないような粗末なものだったが、クリスティーナとっては彼が淹れてくれたというだけで、同じように美味しいような気がした。
二人は久方ぶりに気の置けない会話を楽しんだ。
「そろそろお暇するわ・・・」
クリスティーナはオリバーの顔を見つめて、やはり今日はクラークの屋敷に帰らなくては・・・と思った。
勢いでここへ押し掛けてしまったクリスティーナだったが、彼の優し気な菫色の瞳を見ると、何だか急にマリオンの事を思い出して居心地が悪くなったのだった。
やはり、今日またオリバーに再開して、今でも彼が愛しいと思った。
けれど、よく考えれば、いくら嘘ばかりつかれている形だけの妻とは言え、愛は無くとも、マリオンからは経済的に破格の待遇を受けている。
そもそも、自分はマリオンの恩に対して相応しい見返りを提供できていただろうか。
恐らく、彼のあの無情な頼みを引き受けるということが、自分が彼にしてやれる唯一の価値ある見返りだったに違いない。
それなのに、止むを得ない事情もあったとはいえ、マリオンの唯一の頼みを自分は叶えてやらなかったのだ。
先ほどは、頭に血が上って全てがどうでも良く、自分も勝手にしてやろうと思った。
しかし、落ち着いて考えてみれば、向こうからもう不要だと切り捨てられるならばともかく、自分からマリオンを裏切るような不誠実な真似は出来ない・・・。
そう、クリスティーナは思った。
マクレーンの屋敷を出た時は、このままオリバーと駆け落ちをしてやろうという位の気概を持って、彼の家にやってきたはずのクリスティーナだったが、今となっては何だか急に気持ちが萎んでしまったような気がしていた。
「今日は急にお邪魔してごめんなさい・・・。楽しい時間をありがとう。」
◇
クリスティーナが、オリバーの家を出てクラークの屋敷に帰る途中、彼女を探し続けていたマリオンが彼女を見つけて駆け寄ってきた。
彼は心から心配そうな表情を浮かべていた。
「随分探したよ。無事でよかった・・・」
思わず彼女を抱きしめたマリオンの腕の中で、クリスティーナは思っていた。
支離滅裂な方ではあるけれど・・・今、私を大切に思っていてくださるのは本心だと感じる・・・。
やっぱり、私が帰るところはマリオン様のところしか無いのかしら・・・。
「一緒に帰ろう」
クリスティーナは帰り際にオリバーに手渡された、一つのボタンを握り締めたのだった。
26
あなたにおすすめの小説
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
愛しい人へ~愛しているから私を捨てて下さい~
ともどーも
恋愛
伯爵令嬢シャティアナは幼馴染みで五歳年上の侯爵子息ノーランドと兄妹のように育ち、必然的に恋仲になり、婚約目前と言われていた。
しかし、シャティアナの母親は二人の婚約を認めず、頑なに反対していた。
シャティアナの父は侯爵家との縁続きになるのを望んでいたため、母親の反対を押切り、シャティアナの誕生日パーティーでノーランドとの婚約を発表した。
みんなに祝福され、とても幸せだったその日の夜、ベッドで寝ていると母親が馬乗りになり、自分にナイフを突き刺そうとしていた。
母親がなぜノーランドとの婚約をあんなに反対したのか…。
母親の告白にシャティアナは絶望し、ノーランドとの婚約破棄の為に動き出す。
貴方を愛してる。
どうか私を捨てて下さい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全14話です。
楽しんで頂ければ幸いです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の落ち度で投稿途中にデータが消えてしまい、ご心配をお掛けして申し訳ありません。
運営の許可をへて再投稿致しました。
今後このような事が無いように投稿していく所存です。
ご不快な思いをされた方には、この場にて謝罪させていただければと思います。
申し訳ありませんでした。
彼は政略結婚を受け入れた
黒猫子猫
恋愛
群島国家ザッフィーロは臣下の反逆により王を失い、建国以来の危機に陥った。そんな中、将軍ジャックスが逆臣を討ち、王都の奪還がなる。彼の傍にはアネットという少女がいた。孤立無援の彼らを救うべく、単身参戦したのだ。彼女は雑用を覚え、武器をとり、その身が傷つくのも厭わず、献身的に彼らを支えた。全てを見届けた彼女は、去る時がやってきたと覚悟した。救国の将となった彼には、生き残った王族との政略結婚の話が進められようとしていたからだ。
彼もまた結婚に前向きだった。邪魔だけはするまい。彼とは生きる世界が違うのだ。
そう思ったアネットは「私、故郷に帰るね!」と空元気で告げた。
よき戦友だと言ってくれた彼との関係が、大きく変わるとも知らずに。
※関連作がありますが、これのみで読めます。
※全13話です。
半日だけの…。貴方が私を忘れても
アズやっこ
恋愛
貴方が私を忘れても私が貴方の分まで覚えてる。
今の貴方が私を愛していなくても、
騎士ではなくても、
足が動かなくて車椅子生活になっても、
騎士だった貴方の姿を、
優しい貴方を、
私を愛してくれた事を、
例え貴方が記憶を失っても私だけは覚えてる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるゆる設定です。
❈ 男性は記憶がなくなり忘れます。
❈ 車椅子生活です。
旦那さまは私のために嘘をつく
小蔦あおい
恋愛
声と記憶をなくしたシェリルには魔法使いの旦那さまがいる。霧が深い渓谷の間に浮かぶ小さな島でシェリルは旦那さまに愛されて幸せに暮らしていた。しかし、とある新聞記事をきっかけに旦那さまの様子がおかしくなっていっていく。彼の書斎から怪しい手紙を見つけたシェリルは、旦那さまが自分を利用していることを知ってしまって……。
記憶も声もなくした少女と、彼女を幸せにするために嘘で包み込もうとする魔法使いのお話。
「好き」の距離
饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。
伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。
以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる