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38.眠り
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一見以前と変わらない様子のキースだが、やはりまだ後遺症が残っているらしい。
医師の見解では、記憶が戻ればそれに伴って他の症状も改善するはずだという。
唐突に訪れる眠気に、日中も眠ってしまう事が多いキース。
それは、シャーロットと会っている時でも変わらない。
彼女は、そんな時もキースの傍にいて、しばらくして彼がまた目を覚ますまで、読書をして待っている。
シャーロットは彼が眠っていても、傍にいられるだけで幸せな気分だった。
今日もそんないつも通りの一日のはずだった。
だがその日、昼過ぎに眠り込んでしまったキースは夕方になっても一向に目を覚まさなかった。
シャーロットは彼が起きるまで待っていようかとも思ったが、日が落ちるのが早くなった冬の空は、いつの間にか暗くなってしまっていた。
彼の眠っている顔も、呼吸も穏やかだったこともあり、何も気に病むようなことはないだろうと判断した彼女は、アルバートに言付けてその日は帰ることにしたのだった。
◇
真夜中になって、ようやく目を覚ましたキースは、自分はまた眠ってしまったのか・・・とため息をついた。
せっかく今日もわざわざ来てくれたのに、シャーロット嬢に悪いことをしてしまった・・・。
ふと、彼女がいつも腰かけている椅子のほうに目をやると、座面に一冊の本が置かれている事に気づいた。
キースには、すぐにそれが彼女の忘れ物だと分かった。
こんなところに置いたままにして、紛失でもしてしまったら言い訳がつかない、とキースは手を伸ばした。
すると、その本の間から一枚の栞が、はらりと床に落ちた。
それは台紙と薄紙の間に、色褪せた薔薇が挟まれたものだった。
随分古そうだったが、一見しただけで持ち主から大切に扱われているのだろうということが知れた。
これも失くしたらいけないものだろう・・・。
その栞を手に取った瞬間、彼は頭が割れるような痛みに襲われた。
同時に、夢なのか現実なのかよく判らないような場面が、意識の中に断片的に浮かんでくる。
金色の髪をした女性が何か言っている。
『お姉様にあなたが差し上げた薔薇は・・・栞にして・・・ある・・・』
お姉様・・・?
何か自分は大切なことを忘れている・・・。
次の瞬間、幼い自分が、今よりもあどけない印象のシャーロットに薔薇を渡している光景が記憶が生々しく甦ってきた。
僕は彼女を知っていた・・・!
ずっと前から・・・。
キースは彼女に関する記憶をすべて思い出した。
・・・シャーロット!
あの時、僕は自分で決めたはずなのに、あなたを失うことに耐えられなくて、いっそ思い出も何もかも忘れてしまいたいと願って辺境へ向かった。
もう死んでもいいとさえ思った。
その結果、望み通りにあなたの事を全て忘れてしまった・・・。
それなのに・・・全部失ったはずなのに・・・。
僕はやっぱり何度でもあなたに惹かれて、そして恋してしまう。
もうあなたの心が、僕に向かなかったとしても構わない。
ただ、隣にいてくれさえすれば、僕はそれで・・・。
医師の見解では、記憶が戻ればそれに伴って他の症状も改善するはずだという。
唐突に訪れる眠気に、日中も眠ってしまう事が多いキース。
それは、シャーロットと会っている時でも変わらない。
彼女は、そんな時もキースの傍にいて、しばらくして彼がまた目を覚ますまで、読書をして待っている。
シャーロットは彼が眠っていても、傍にいられるだけで幸せな気分だった。
今日もそんないつも通りの一日のはずだった。
だがその日、昼過ぎに眠り込んでしまったキースは夕方になっても一向に目を覚まさなかった。
シャーロットは彼が起きるまで待っていようかとも思ったが、日が落ちるのが早くなった冬の空は、いつの間にか暗くなってしまっていた。
彼の眠っている顔も、呼吸も穏やかだったこともあり、何も気に病むようなことはないだろうと判断した彼女は、アルバートに言付けてその日は帰ることにしたのだった。
◇
真夜中になって、ようやく目を覚ましたキースは、自分はまた眠ってしまったのか・・・とため息をついた。
せっかく今日もわざわざ来てくれたのに、シャーロット嬢に悪いことをしてしまった・・・。
ふと、彼女がいつも腰かけている椅子のほうに目をやると、座面に一冊の本が置かれている事に気づいた。
キースには、すぐにそれが彼女の忘れ物だと分かった。
こんなところに置いたままにして、紛失でもしてしまったら言い訳がつかない、とキースは手を伸ばした。
すると、その本の間から一枚の栞が、はらりと床に落ちた。
それは台紙と薄紙の間に、色褪せた薔薇が挟まれたものだった。
随分古そうだったが、一見しただけで持ち主から大切に扱われているのだろうということが知れた。
これも失くしたらいけないものだろう・・・。
その栞を手に取った瞬間、彼は頭が割れるような痛みに襲われた。
同時に、夢なのか現実なのかよく判らないような場面が、意識の中に断片的に浮かんでくる。
金色の髪をした女性が何か言っている。
『お姉様にあなたが差し上げた薔薇は・・・栞にして・・・ある・・・』
お姉様・・・?
何か自分は大切なことを忘れている・・・。
次の瞬間、幼い自分が、今よりもあどけない印象のシャーロットに薔薇を渡している光景が記憶が生々しく甦ってきた。
僕は彼女を知っていた・・・!
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・・・シャーロット!
あの時、僕は自分で決めたはずなのに、あなたを失うことに耐えられなくて、いっそ思い出も何もかも忘れてしまいたいと願って辺境へ向かった。
もう死んでもいいとさえ思った。
その結果、望み通りにあなたの事を全て忘れてしまった・・・。
それなのに・・・全部失ったはずなのに・・・。
僕はやっぱり何度でもあなたに惹かれて、そして恋してしまう。
もうあなたの心が、僕に向かなかったとしても構わない。
ただ、隣にいてくれさえすれば、僕はそれで・・・。
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