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30. side シャーロット
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夜会の日から、数か月が経った。
あの夜会が終わったら、この関係は終わりにしようと告げるつもりだったのに・・・。
結局、まだ彼に何も伝えられずにいた。
今日も覚悟を決めてキースに会ったはずだったのに、彼の笑顔を見たら決心が鈍ってしまって、話を切り出すことが出来なかった。
シャーロットは溜息をついた。
◇
あんな風に切なげに優しくされるなんて・・・。
あの夜、シャーロットを抱きしめた彼の様子は、とても演技には思えなかった。
彼の態度は、その言葉も、温もりも、本当にシャーロットの事を愛しているようにしか感じられないものだった。
自分はキースを愛していて、彼も同じ気持ちだというのなら、関係を解消する必要など、どこにも無いはずだ。
ならば、このまま済し崩しに彼と一緒になってしまっても構わないのではないだろうか、という誘惑に駆られる。
しかし、ただ相手を愛しているからといって無条件にその感情に溺れられるほど、シャーロットは若くはなかった。
どこかで、気持ちに抑えがかかる。
自分のような年増の冴えない女が、未来に希望しかないような若く才能あふれる彼を食い潰すような真似は出来ない、と。
冷静に考えれば、やはり彼に相応しい相手は自分とは言えない。
以前から、『彼の元を離れるべきだ』という結論そのものには変化がなかった。
けれども、今のシャーロットにとって、その意味合いは全く別のものになってしまっていた。
夜会の前までのシャーロットは、何か正当そうな理由をつけつつも、結局自分の事だけしか考えていなかった。
自分が愛される価値があるのかどうかという自信のなさ。
日に日に彼を手放しがたいと感じていく己の執着心への恐怖。
愛してしまった彼から、いつか捨てられるのではないかという不安。
そんなことばかりで、どの理由も自らの保身の為でしかなく、何一つ彼の事を思いやったものではなかった。
端的に言えば、彼と向き合って自身が傷つくことを回避したいという、逃げの思いだった。
けれど、今のシャーロットは彼が自分を愛してくれているということを知ったからこそ、彼のために距離を置かなくてはならないと思った。
自分のような平凡な相手では足を引っ張るばかりで、彼が才能を発揮する妨げになるに違いない。
それに、年齢のことはもちろんだが、家柄も容姿も、自分よりもっと相応しい格上の令嬢の方がいるだろう。
こちらから別れを言い出せなくても、キースが愛想を尽かして、向こうから離れていくように仕向ければいい・・・。
あの夜会が終わったら、この関係は終わりにしようと告げるつもりだったのに・・・。
結局、まだ彼に何も伝えられずにいた。
今日も覚悟を決めてキースに会ったはずだったのに、彼の笑顔を見たら決心が鈍ってしまって、話を切り出すことが出来なかった。
シャーロットは溜息をついた。
◇
あんな風に切なげに優しくされるなんて・・・。
あの夜、シャーロットを抱きしめた彼の様子は、とても演技には思えなかった。
彼の態度は、その言葉も、温もりも、本当にシャーロットの事を愛しているようにしか感じられないものだった。
自分はキースを愛していて、彼も同じ気持ちだというのなら、関係を解消する必要など、どこにも無いはずだ。
ならば、このまま済し崩しに彼と一緒になってしまっても構わないのではないだろうか、という誘惑に駆られる。
しかし、ただ相手を愛しているからといって無条件にその感情に溺れられるほど、シャーロットは若くはなかった。
どこかで、気持ちに抑えがかかる。
自分のような年増の冴えない女が、未来に希望しかないような若く才能あふれる彼を食い潰すような真似は出来ない、と。
冷静に考えれば、やはり彼に相応しい相手は自分とは言えない。
以前から、『彼の元を離れるべきだ』という結論そのものには変化がなかった。
けれども、今のシャーロットにとって、その意味合いは全く別のものになってしまっていた。
夜会の前までのシャーロットは、何か正当そうな理由をつけつつも、結局自分の事だけしか考えていなかった。
自分が愛される価値があるのかどうかという自信のなさ。
日に日に彼を手放しがたいと感じていく己の執着心への恐怖。
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そんなことばかりで、どの理由も自らの保身の為でしかなく、何一つ彼の事を思いやったものではなかった。
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けれど、今のシャーロットは彼が自分を愛してくれているということを知ったからこそ、彼のために距離を置かなくてはならないと思った。
自分のような平凡な相手では足を引っ張るばかりで、彼が才能を発揮する妨げになるに違いない。
それに、年齢のことはもちろんだが、家柄も容姿も、自分よりもっと相応しい格上の令嬢の方がいるだろう。
こちらから別れを言い出せなくても、キースが愛想を尽かして、向こうから離れていくように仕向ければいい・・・。
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