今宵、薔薇の園で

天海月

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23.迎え

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約束の日がやってきた。

最後なんだから笑っていなくては駄目よ・・・。

侍女に支度を整えてもらった後、部屋に一人になったシャーロットは、鏡に映っている自分に向かって、窘めるように呟いた。





しばらくして、キースが夜会の迎えにやってきた。

だが、盛装したシャーロットを一目見た彼は、下を向いて赤面し、そのまま無言で固まってしまった。

彼がどんな表情をしているのかは、シャーロットからは見えない。

彼女には、彼が彼女を見た瞬間に下を向いたということしか分からなかった。

「・・・」

「キース・・・」

やっぱり似合っていないのね・・・。

これだけ着飾ったというのに、あの優しいキースが何のお世辞も言えない程に、酷い有様なのだと思うと自分の素材の悪さが悲しくなる・・・。

シャーロットはそんなことを思った。


そんな沈黙を破るように、二人の見送りのためにレティシアが廊下の奥からやってきた。

着飾ったシャーロットを見た彼女は目を輝かせた。

「お姉様、綺麗!!」

あなたが着た方が綺麗なのに・・・と口にしたくなるのをシャーロットは堪えた。


レティシアは固まったままのキースの方に近づいていくと、彼にだけ聞こえる小さな声で囁いた。

「お姉様が素敵すぎて固まってしまったのでしょう?キース様、みっともないからしっかりなさって!」

そして、キースを小突いた。

それを受けたキースは、さらに赤面しながらも、やっと口を開いた。

「シャ、シャーロット、とてもよく似合っています・・・」

きっと彼は妹に窘められたから、今の言葉を無理に口にしたのだろう。

決して本心からの言葉ではない。

彼に無理を強いるのも今夜が最後だから、どうか許してほしいと思いながらシャーロットは笑顔を作って言った。

「ありがとうございます、キース」

「!!」

それを見たキースは、また身悶えながら下を向いてしまった。



「未来のお義兄様は、本当にどうしようもない方だわ・・・」

レティシアは、ため息をつきながら独り言を呟いた。

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