21 / 41
21.惚気
しおりを挟む
王宮の一室。
文官の仕事用に割り当てられた部屋の中で、積み上げられた書類の山から鼻歌が聞こえてくる。
ふいにドアが開き、入ってきた眼鏡の男は、書類の山に隠れている人物に話し掛けた。
「キース、最近やけに機嫌が良さそうだな?」
彼はキースの直属の上司で、シャーロットの従兄でもあり、名をレオナルドという。
「そうですか?」
キースは手を止めて、レオナルドの方に顔を向けた。
「今まではいつも、何か悶々と悩んでるような雰囲気があったのに、近頃は随分明るくなったと思ってな」
「憧れの人に一歩近づけたから・・・ですかね」
キースは顔を上気させて、心ここにあらずといった様子で答えた。
それを見たレオナルドは、興味津々に訊いた。
「誰なんだ、キースの憧れの人というのは?」
流石は彼女の親類というべきか、シャーロット並に鈍感なレオナルドは、キースが幼いころから彼女を慕っていることも、彼女の縁談を片っ端から潰して回っていたことも、その一切を感知していない。
「・・・っ、誰でも良いでしょう?途中で妙な横やりを入れられるのは御免ですから、然るべき時になるまでは黙っておきます。まぁ、あなたも知っている人ですし、・・・結婚式には呼んであげても良いですよ?」
思わせぶりにキースは返す。
「俺も知っている人・・・か。それにしても、また王太子の使いやら、騎士団から移動の誘いが来ていたぞ」
「はぁ・・・鬱陶しい」
「お前は優秀なのに、わざわざこんな平凡な部署に留まろうとするから面倒なことになってるんじゃないのか?折角、剣も魔術も使えるのに・・・俺は宝の持ち腐れだと思うが」
「不敬と言われるでしょうが、僕が優秀になれるように努力したのは国のためではなくて個人的な理由ですから・・・。
下手に出世なんてしたら、煩わしいだけではないですか?王太子の側近になどなってしまえば、暇も取りずらいでしょうし、騎士団は一度遠征に出たら数か月は帰ってこられない・・・」
浮かない顔の彼に、レオナルドが言った。
「まぁ、お前はいつもそう言っているから、今回もそれとなく断ってはおいたが・・・」
「理解のある上司で幸いです。ありがとうございました」
キースはおどけるように感謝の言葉を述べた。
◇
シャーロットが権威を求めるのであれば別だったが、キースは下手に出世してこれ以上忙しくなることで、彼女と過ごす時間が減ってしまうのが嫌だった。
繁忙期は存在するとはいえ、ほとんど王都を離れることもなく、通いで仕事を続けられるこの部署をキースは気に入っていた。
「本当に選び放題なのにもったいな。俺だったら、二つ返事で移動するのに・・・」
「そんなに忙しくなったら、あの人に会う時間が無くなってしまうじゃないですか・・・」
キースは切なげにため息をついた。
「随分、ぞっこんなんだな。お前のお姫様が誰なのか本気で気になってきたよ」
文官の仕事用に割り当てられた部屋の中で、積み上げられた書類の山から鼻歌が聞こえてくる。
ふいにドアが開き、入ってきた眼鏡の男は、書類の山に隠れている人物に話し掛けた。
「キース、最近やけに機嫌が良さそうだな?」
彼はキースの直属の上司で、シャーロットの従兄でもあり、名をレオナルドという。
「そうですか?」
キースは手を止めて、レオナルドの方に顔を向けた。
「今まではいつも、何か悶々と悩んでるような雰囲気があったのに、近頃は随分明るくなったと思ってな」
「憧れの人に一歩近づけたから・・・ですかね」
キースは顔を上気させて、心ここにあらずといった様子で答えた。
それを見たレオナルドは、興味津々に訊いた。
「誰なんだ、キースの憧れの人というのは?」
流石は彼女の親類というべきか、シャーロット並に鈍感なレオナルドは、キースが幼いころから彼女を慕っていることも、彼女の縁談を片っ端から潰して回っていたことも、その一切を感知していない。
「・・・っ、誰でも良いでしょう?途中で妙な横やりを入れられるのは御免ですから、然るべき時になるまでは黙っておきます。まぁ、あなたも知っている人ですし、・・・結婚式には呼んであげても良いですよ?」
思わせぶりにキースは返す。
「俺も知っている人・・・か。それにしても、また王太子の使いやら、騎士団から移動の誘いが来ていたぞ」
「はぁ・・・鬱陶しい」
「お前は優秀なのに、わざわざこんな平凡な部署に留まろうとするから面倒なことになってるんじゃないのか?折角、剣も魔術も使えるのに・・・俺は宝の持ち腐れだと思うが」
「不敬と言われるでしょうが、僕が優秀になれるように努力したのは国のためではなくて個人的な理由ですから・・・。
下手に出世なんてしたら、煩わしいだけではないですか?王太子の側近になどなってしまえば、暇も取りずらいでしょうし、騎士団は一度遠征に出たら数か月は帰ってこられない・・・」
浮かない顔の彼に、レオナルドが言った。
「まぁ、お前はいつもそう言っているから、今回もそれとなく断ってはおいたが・・・」
「理解のある上司で幸いです。ありがとうございました」
キースはおどけるように感謝の言葉を述べた。
◇
シャーロットが権威を求めるのであれば別だったが、キースは下手に出世してこれ以上忙しくなることで、彼女と過ごす時間が減ってしまうのが嫌だった。
繁忙期は存在するとはいえ、ほとんど王都を離れることもなく、通いで仕事を続けられるこの部署をキースは気に入っていた。
「本当に選び放題なのにもったいな。俺だったら、二つ返事で移動するのに・・・」
「そんなに忙しくなったら、あの人に会う時間が無くなってしまうじゃないですか・・・」
キースは切なげにため息をついた。
「随分、ぞっこんなんだな。お前のお姫様が誰なのか本気で気になってきたよ」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

【完結】異形の令嬢は花嫁に選ばれる
白雨 音
恋愛
男爵令嬢ブランシュは、十四歳の時に病を患い、右頬から胸に掛けて病痕が残ってしまう。
家族はブランシュの醜い姿に耐えられず、彼女を離れに隔離した。
月日は流れ、ブランシュは二十歳になっていた。
資産家ジェルマンから縁談の打診があり、結婚を諦めていたブランシュは喜ぶが、
そこには落とし穴があった。
結婚後、彼の態度は一変し、ブランシュは離れの古い塔に追いやられてしまう。
「もう、何も期待なんてしない…」無気力にただ日々を過ごすブランシュだったが、
ある不思議な出会いから、彼女は光を取り戻していく…
異世界恋愛☆ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜
佐原香奈
恋愛
イシュトハン家シリーズ1作目
女伯爵としての未来が決まっているクロエは、暫く会話もしていなかった幼馴染でもあるフリードリヒ殿下との婚約を突然知らされる。
婚約を拒んでいたのだが、あれよあれよと言う間に婚約は発表されてしまう。
3年前にフリードリヒ殿下が、社交性がないなどと言って、クロエを婚約者候補を外したことを知っているクロエは、突然の婚約に「絶対結婚しない」と掲げて婚約破棄を目論んでいるが、卒業式のプロムはもうすぐそこ。
それなのにプロムに誘われないクロエは、王子の監視を続ける。
殿下がクロエの友人のサリーにプロムのドレスを贈ることを知ったクロエは、自分との結婚を隠蓑にして友人といちゃつく計画なのだと確信する。
結婚はしたくないがプロムには出たい。
一生に一度の夢の舞台のプロム。
クロエは無事に参加できるのか。
果たしてその舞台で微笑むのは誰なのか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる