20 / 41
20.キースとレティシア
しおりを挟む伯爵家の応接間に通されたキースは、久しぶりに会ったレティシアと話を弾ませていた。
「キース様!遂にお姉様と婚約なさったんですって?!」
「いや・・・まだ、候補だけど・・・僕は婚約者だと思っている」
キースは口ごもりながらも、嬉しそうに返す。
「はぁ・・・本当に長かったですね。キース様は色々奥手すぎますわ。いつまで、お姉様を一人にしておくつもりかと、ハラハラしておりましたのよ?」
「僕の気持ちは、いつも伝えているつもりだよ・・・彼女には気付いて貰えない事も多いけれど・・・」
「それにしても、お姉様に近づく虫は尽く追い払う癖に、ご自分はなかなかお姉様に近寄らなかったのだから、本当に性質が悪いですわ」
「だって、昔彼女に結婚を申し込んだとき、流されてしまったから・・・」
彼は寂しげに言った。
「まだ根に持っていたのですか、キース様。あんな子供に結婚しようと言われて、まさかそれが本気だなんて思いもしないのが普通でしょう?」
「僕はずっと本気なのに・・・」
「格好悪いから絶対に黙っていろと仰るけれど、キース様のせいで、お姉様は自分に魅力が無いから縁談が来ないのだと思い込んでいらっしゃったのよ」
「どうしてそんな事になるんだ?彼女はあんなに魅力的なのに」
「だから、キース様は女性の気持ちが解らない方だと、アルバート様にも言われてしまうのですよ。お姉様の前では、若手文官一の出世頭も形無しですね」
レティシアはしたり顔で、キースに言った。
◇
「そろそろ、彼女は一段落ついたかな?」
キースは、今にもシャーロットがやってくるのではないかという期待で、そわそわし始めた。
そんな彼を見たレティシアは、揶揄うように言った。
「まぁ、キース様、可愛らしい。お姉様が待ち遠しくて仕方が無いのですね。とても私より年長とは思えませんわ。
いつも凛としているところしかご存じない令嬢方が、今のキース様のお姿を見たら、きっと卒倒なさるでしょうね」
「茶化すのは止めてくれ」
「まぁ、本当の事を言えば、私も大好きなお姉様を夫になる方に取られてしまうのは寂しいのですよ・・・。でも、キース様ほどお姉様を大切にしようとしてくださる方なら、譲って差し上げても良いと思わなくも無いですわ」
レティシアは膨れ面で呟く。
「・・・すまなかった。近頃幸せすぎて、自分の事ばかりに浮かれていたよ。姉様の事は誰よりも幸せにするつもりだから、どうかレティシアも僕を認めてほしい」
キースは真面目な表情で、彼女に言った。
「・・・いいでしょう。キース様が真剣なのは、ずっと前から知っています。
それにお姉様の相手が、どこの馬の骨ともわからないような男ではなくて、お兄様のようにも思っているキース様で良かったというところもありますから。
そこで、お祝いと言ってはなんですが、一つ良い事を教えて差し上げますわ」
「良い事?」
「お耳をこちらへ・・・」
キースは怪訝な様子で、レティシアに耳を寄せた。
「キース様が昔お姉様に差し上げた薔薇の花・・・あの後どうなったと思います?
お姉様は栞にして、ずっと今も大切に持っていらっしゃるんですよ」
囁き終えた彼女は、彼ににこりと笑った。
「・・・そんな・・・本当に?嬉しい・・・」
キースは耳まで真っ赤に染めて、真偽を問うようにレティシアの方を見つめ返した。
◇
それから、随分経ってからキースがもう帰る時刻になった頃、レティシアと入れ替わるように、シャーロットが応接間にやってきた。
「遅くなってしまってごめんなさい。なかなか書類が片付かなくて・・・」
彼女は少しぎこちなく笑って言った。
キースはシャーロットの笑い方が不自然なのが気になった。
だが、彼はそれが長時間の机仕事による疲労のせいだろうと判断し、彼女に理由を問うことはなかった。
「シャーロット、今日は一緒に居られなくて残念でしたけれど、また来ますから・・・」
キースは彼女の瞳を名残惜しそうに見つめて言った。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

【完結】異形の令嬢は花嫁に選ばれる
白雨 音
恋愛
男爵令嬢ブランシュは、十四歳の時に病を患い、右頬から胸に掛けて病痕が残ってしまう。
家族はブランシュの醜い姿に耐えられず、彼女を離れに隔離した。
月日は流れ、ブランシュは二十歳になっていた。
資産家ジェルマンから縁談の打診があり、結婚を諦めていたブランシュは喜ぶが、
そこには落とし穴があった。
結婚後、彼の態度は一変し、ブランシュは離れの古い塔に追いやられてしまう。
「もう、何も期待なんてしない…」無気力にただ日々を過ごすブランシュだったが、
ある不思議な出会いから、彼女は光を取り戻していく…
異世界恋愛☆ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜
佐原香奈
恋愛
イシュトハン家シリーズ1作目
女伯爵としての未来が決まっているクロエは、暫く会話もしていなかった幼馴染でもあるフリードリヒ殿下との婚約を突然知らされる。
婚約を拒んでいたのだが、あれよあれよと言う間に婚約は発表されてしまう。
3年前にフリードリヒ殿下が、社交性がないなどと言って、クロエを婚約者候補を外したことを知っているクロエは、突然の婚約に「絶対結婚しない」と掲げて婚約破棄を目論んでいるが、卒業式のプロムはもうすぐそこ。
それなのにプロムに誘われないクロエは、王子の監視を続ける。
殿下がクロエの友人のサリーにプロムのドレスを贈ることを知ったクロエは、自分との結婚を隠蓑にして友人といちゃつく計画なのだと確信する。
結婚はしたくないがプロムには出たい。
一生に一度の夢の舞台のプロム。
クロエは無事に参加できるのか。
果たしてその舞台で微笑むのは誰なのか…

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる