19 / 41
19.若い二人
しおりを挟む
伯爵家の前に停まった馬車から降りた娘は、屋敷の方に駆け出した。
「お姉様!」
「レティシア、久しぶりね。元気にしていた?それにしても急に走ったら危ないわ」
「ごめんなさい。はしたないのは分かっていたのだけれど、お姉様に早く会いたくて・・・」
レティシアはしゅんとした。
「それは私も嬉しいけれど、そんな調子で王宮では大丈夫なの?」
シャーロットは心配そうに訊いた。
「そこは問題ありませんので、どうか安心なさってください、お姉様!王宮での仕事の時は、上手くやっていますから、大丈夫です。女官長から褒めていただいた事もあるんですよ」
妹はどこか誇らしそうに言った。
「頼もしいわね」
シャーロットは、妹の成長を嬉しく思った。
◇
「たまたま近くに用事があったから、ついでに寄ってしまったのだけれど・・・」
キースが伯爵家に訪ねてきた。
シャーロットは捌かなくてはいけない書類が溜まっていたので、ちょうどそれに取り掛かり始めたところだった。
キースは忙しいようなら出直すと言ってくれたが、折角来てくれたのだから、少しはゆっくりしていって欲しいと彼女は思った。
「私は切りの良いところまで書類を片付けたら、後から行きますので、先にレティシアとお茶でも飲んでいてください」
◇
書類を片付けたシャーロットは、応接間に急いだ。
早く彼の声が聴きたい・・・。
シャーロットが入口に近づくと、キースとレティシアの楽しげな話し声が耳に入ってきた。
足を止め、ちらりと部屋を覗くと、二人はとても親密そうな様子に見えた。
レティシアが耳打ちをしたあと、キースは頬を真っ赤に染め、彼女をじっと見つめている。
話の内容までは聞き取れなかったが、シャーロットは目の前の光景から視線を逸らしたくなった。
華やかな美女と、人形のように端正な容貌の青年・・・。
この若い二人はどこからどう見てもお似合いだった。
全てが釣り合っているといって良いだろう。
とても自分の入る隙などあるようには見えない。
自分とキースは仮とはいえ婚約しているはずだった。
だが、こうして仲睦まじそうな二人を目の前にすると、自分ではなくレティシアの方が彼の婚約者なのだという方がしっくりくるように見えた。
キースは元々レティシアを好いていたが、彼女が結婚をしたがらないから、代替品としてシャーロットで妥協することにしたに違いない。
可哀相なキース・・・。
あの時キースは、自分の意志でシャーロットの婚約者になるのだと言ったが、やはりそれは彼の優しい嘘だったのだ。
アルバートに押し付けられて、渋々自分の婚約者候補になったというのが真実だろう。
シャーロットは、のぼせあがっていた頭に、突然冷や水を浴びせられたようだった。
気立ての良くて可愛らしい自慢の妹に嫉妬するなど、情けない事この上ない。
二人を見ているのも辛いが、何よりも、そう思うことに対する自己嫌悪に耐えられそうにない。
とにかく、これ以上醜態を晒さないうちに、彼を手放さなくては・・・。
本来であれば、今すぐ自分から関係の解消を伝えるべきではあるが、以前誘われた夜会が間近に迫っている。
流石に急に欠席するというのは具合が悪いだろうから、差し当たり夜会には出ることにしよう。
そして、その後、別れを切り出せば良い・・・。
今度の夜会は、彼と過ごせる最後の時間だと思って、悔いのないように楽しまなくては・・・。
シャーロットはそんなことを考えた。
「お姉様!」
「レティシア、久しぶりね。元気にしていた?それにしても急に走ったら危ないわ」
「ごめんなさい。はしたないのは分かっていたのだけれど、お姉様に早く会いたくて・・・」
レティシアはしゅんとした。
「それは私も嬉しいけれど、そんな調子で王宮では大丈夫なの?」
シャーロットは心配そうに訊いた。
「そこは問題ありませんので、どうか安心なさってください、お姉様!王宮での仕事の時は、上手くやっていますから、大丈夫です。女官長から褒めていただいた事もあるんですよ」
妹はどこか誇らしそうに言った。
「頼もしいわね」
シャーロットは、妹の成長を嬉しく思った。
◇
「たまたま近くに用事があったから、ついでに寄ってしまったのだけれど・・・」
キースが伯爵家に訪ねてきた。
シャーロットは捌かなくてはいけない書類が溜まっていたので、ちょうどそれに取り掛かり始めたところだった。
キースは忙しいようなら出直すと言ってくれたが、折角来てくれたのだから、少しはゆっくりしていって欲しいと彼女は思った。
「私は切りの良いところまで書類を片付けたら、後から行きますので、先にレティシアとお茶でも飲んでいてください」
◇
書類を片付けたシャーロットは、応接間に急いだ。
早く彼の声が聴きたい・・・。
シャーロットが入口に近づくと、キースとレティシアの楽しげな話し声が耳に入ってきた。
足を止め、ちらりと部屋を覗くと、二人はとても親密そうな様子に見えた。
レティシアが耳打ちをしたあと、キースは頬を真っ赤に染め、彼女をじっと見つめている。
話の内容までは聞き取れなかったが、シャーロットは目の前の光景から視線を逸らしたくなった。
華やかな美女と、人形のように端正な容貌の青年・・・。
この若い二人はどこからどう見てもお似合いだった。
全てが釣り合っているといって良いだろう。
とても自分の入る隙などあるようには見えない。
自分とキースは仮とはいえ婚約しているはずだった。
だが、こうして仲睦まじそうな二人を目の前にすると、自分ではなくレティシアの方が彼の婚約者なのだという方がしっくりくるように見えた。
キースは元々レティシアを好いていたが、彼女が結婚をしたがらないから、代替品としてシャーロットで妥協することにしたに違いない。
可哀相なキース・・・。
あの時キースは、自分の意志でシャーロットの婚約者になるのだと言ったが、やはりそれは彼の優しい嘘だったのだ。
アルバートに押し付けられて、渋々自分の婚約者候補になったというのが真実だろう。
シャーロットは、のぼせあがっていた頭に、突然冷や水を浴びせられたようだった。
気立ての良くて可愛らしい自慢の妹に嫉妬するなど、情けない事この上ない。
二人を見ているのも辛いが、何よりも、そう思うことに対する自己嫌悪に耐えられそうにない。
とにかく、これ以上醜態を晒さないうちに、彼を手放さなくては・・・。
本来であれば、今すぐ自分から関係の解消を伝えるべきではあるが、以前誘われた夜会が間近に迫っている。
流石に急に欠席するというのは具合が悪いだろうから、差し当たり夜会には出ることにしよう。
そして、その後、別れを切り出せば良い・・・。
今度の夜会は、彼と過ごせる最後の時間だと思って、悔いのないように楽しまなくては・・・。
シャーロットはそんなことを考えた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。
あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?
石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。
本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。
ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。
本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。
大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

【完結】異形の令嬢は花嫁に選ばれる
白雨 音
恋愛
男爵令嬢ブランシュは、十四歳の時に病を患い、右頬から胸に掛けて病痕が残ってしまう。
家族はブランシュの醜い姿に耐えられず、彼女を離れに隔離した。
月日は流れ、ブランシュは二十歳になっていた。
資産家ジェルマンから縁談の打診があり、結婚を諦めていたブランシュは喜ぶが、
そこには落とし穴があった。
結婚後、彼の態度は一変し、ブランシュは離れの古い塔に追いやられてしまう。
「もう、何も期待なんてしない…」無気力にただ日々を過ごすブランシュだったが、
ある不思議な出会いから、彼女は光を取り戻していく…
異世界恋愛☆ 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
氷の公爵の婚姻試験
黎
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
婚約破棄のためなら逃走します〜魔力が強い私は魔王か聖女か〜
佐原香奈
恋愛
イシュトハン家シリーズ1作目
女伯爵としての未来が決まっているクロエは、暫く会話もしていなかった幼馴染でもあるフリードリヒ殿下との婚約を突然知らされる。
婚約を拒んでいたのだが、あれよあれよと言う間に婚約は発表されてしまう。
3年前にフリードリヒ殿下が、社交性がないなどと言って、クロエを婚約者候補を外したことを知っているクロエは、突然の婚約に「絶対結婚しない」と掲げて婚約破棄を目論んでいるが、卒業式のプロムはもうすぐそこ。
それなのにプロムに誘われないクロエは、王子の監視を続ける。
殿下がクロエの友人のサリーにプロムのドレスを贈ることを知ったクロエは、自分との結婚を隠蓑にして友人といちゃつく計画なのだと確信する。
結婚はしたくないがプロムには出たい。
一生に一度の夢の舞台のプロム。
クロエは無事に参加できるのか。
果たしてその舞台で微笑むのは誰なのか…

【完結】離縁など、とんでもない?じゃあこれ食べてみて。
BBやっこ
恋愛
サリー・シュチュワートは良縁にめぐまれ、結婚した。婚家でも温かく迎えられ、幸せな生活を送ると思えたが。
何のこれ?「旦那様からの指示です」「奥様からこのメニューをこなすように、と。」「大旦那様が苦言を」
何なの?文句が多すぎる!けど慣れ様としたのよ…。でも。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる