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15.父と娘
しおりを挟む何というか、シャーロットの父は、常にどこか夢の中に生きているような人だった。
顔は良いが、優しすぎて頼りにならない父は、いつも実務も屋敷の管理も、その一切を母に頼り切りであった。
生前の母は、父はただそこに居るだけで良いのだと言っていたので、当人達は何とも思っていなかったのだろうが、後々その代わりをしなくてはならなくなったシャーロットの負担は半端ではなかった。
母は、この重労働をこなしながら、茶会や夜会にも精力的に参加していたようだが、流石にシャーロットにはそこまでするのは無理だった。
途切れては不味い人脈を最低限維持するために、数少ない茶会に出席するので手一杯だった。
今となっては、だんだん要領を心得て時間的な余裕も出てきたが、そうなると今度は今まで引き籠っていたツケが回ってきて、出掛け先そのものが見つからない。
かといって、今更縁もゆかりもない集まりに参加して、新しく人脈を開拓しようと思うほど、彼女は社交的では無かった。
世の中、なかなか思った通りに行かないものだとシャーロットは思った。
結局のところ、父はお飾りの伯爵で、実務に関してはすべてシャーロットが仕切っているといって良かった。
実際は領地で隠居状態だったが、表向きは今も父が伯爵としての仕事をこなしているという事にしている。
なぜなら、その方が物事をスムーズに進めるのに都合が良いからだ。
世間というのは不思議なもので、自分は婚礼市場においては年増という扱いだが、対外的な事や実務的な事になると、途端に小娘という扱いになるらしい。
実に都合が良くて笑ってしまう。
自分のことを行き遅れだと罵る口で、都合が悪くなればまだ若いくせにと言い放つ。
実に馬鹿馬鹿しい慣習ではあるが、シャーロットの手腕の優劣に関わりなく、対外的には年長者の男性でないと認められないという場面は少なからず存在した。
父は何をさせる訳でもなく、ただ表に立たせているだけでも、世間に対してはそれなりの価値があるらしい。
父は仕様がない人間だとは思うが、彼を恨んだことはない。
だが、いろいろ理不尽なことが多すぎた。
時折、シャーロットは自分がもし長男として生まれていたなら、こんなに生き難くは無かったのではないだろうかと夢想するのだった。
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