今宵、薔薇の園で

天海月

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11.名前で呼んで・・・

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数日後、早速キースは、シャーロットを茶会に誘った。

場所は公爵家だった。





「今日は来てくださってありがとうございます、姉様」

「こちらこそ、ありがとうございます。キース様」


テーブルに用意された菓子とお茶は、シャーロットの趣味が的確に反映されたものだった。

菓子も素晴らしいものだったが、お茶はとりわけ入手が難しいという特別な品だった。

光を当て過ぎないように特別に管理しながら育てた茶葉に、数年に一度しか開花しないという花を乾燥させたものがブレンドされた貴重な逸品だ。

カップを口元に運ぶと、ふんわりと甘やかな香りが広がる。


以前は顔の広い母が、どこかから手に入れてくる度に、シャーロットも一緒に飲んでいた。

だが、彼女が亡くなってからは、目にする機会も全くなくなっていた。

母がつい最近まで生きていたように、昔の思い出が蘇ってくるような気がした。

シャーロットはカップをソーサーに戻すと、感慨深そうに目を瞑った。

「とても美味しかったです」

「気に入ってくれて良かったです」





話も一段落した頃。

キースは飾り紐がついた小箱を取り出し、シャーロットに渡した。

「開けてみてください」

内側にベルベットが貼り込まれた箱の中には、髪飾りが入っていた。

銀色の地金に、群青色の石と芥子真珠で作られた小さな花が、幾つも付いている可憐な意匠だった。

「まぁ!ありがとうございます。キース様」

シャーロットは髪飾りの美しさに感激し、とっさに笑顔で礼を述べたものの、こんなに可愛らしいものが、自分のような薹が立った女に似合うだろうか・・・と急に不安に思った。

「着けてみて・・・くれますか?」

キースが彼女に訊く。


シャーロットは髪飾りを彼に手渡して言った。

自分では上手くつけられないので、キースに着けてほしいと。

それを受け取った彼は、震える手でおそるおそる彼女の髪に髪飾りを挿した。


「どうですか・・・?」

彼女は少し自身なさげに俯き加減で訊いた。

「・・・姉様にとてもよく似合っています」

シャーロットの方を向いた彼は、何か眩しいものでも見るように、少し照れくさそうに言った。





そろそろ、茶会も終わりを迎える時刻だった。

キースは少し言いにくそうに切り出した。

「候補とはいえ、一応婚約者なのですから、様は付けずに『キース』と呼んでいただけませんか・・・姉様」

「・・・わかりました。それに、その・・・あなたを名前で、というのであれば、私のことも『姉様』とは呼ばずに名前で呼んでくださいますか・・・?」


彼はおずおずと、彼女に囁いた。

「シャ・・・シャーロット・・・?」

もともと小さな声で言うつもりはなかったのだが、自信のなさから、結果そうなってしまっていた。

だが、それが余計に二人の羞恥心を煽ったのかもしれない。

「はい・・・キース・・・」

二人は名前を呼びあっただけなのに、互いに赤面し、下を向いてしまった。

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