今宵、薔薇の園で

天海月

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7.条件

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思案顔をした後、声を潜めてシャーロットは言った。

「何か人には話しづらいような事なのですか?」

彼女は無自覚に、彼を追い詰めてくる。

キースは拳を強く握って、覚悟を決めた。

「聞いてください、姉様」

彼の真剣な表情に、これから自分はどれだけ深刻な相談を受けるのだろうかとシャーロットは身を固くした。

「僕が姉様の・・・婚約者候補なのです」

「え・・・」

彼女はあまりにも思いがけない彼の言葉に、己の耳を疑った。

だが、あの手紙に書かれていた男がキースであるならば、辛口のアルバートがわざわざ自信を持って推せると記した意味も解った気がした。


「キース様が・・・」

顔を顰めるシャーロット。

「やはり僕ではいけませんか?」

キースは自信なさげに俯いた。

「違います。私はアルバート様に怒りを感じているのです。
将来有望で、まだ若いキース様を、私のような行き遅れに勢いで押し付ける、その無神経さに・・・」

「何を言って・・・」

キースは、何か彼女が盛大な勘違いをしていると感じた。

「キース様が不憫です。今からこんなお話は受けられないとアルバート様にお返事を書きますから・・・」

「待って下さい!!」

「どうしてです?」

シャーロットは怪訝な顔で返す。

「これは、僕の望みなんです!兄さんはただ僕の気持ちを汲んでくれただけです。姉様にとっては相手が僕である必要は無いかもしれませんが、僕は姉様でないと嫌なのです・・・」

彼は切実に訴えた。

「どうか僕を姉様の婚約者にしていただけないでしょうか?」

その様子を見たシャーロットは、やっとこれはアルバートが強制したものではないのだ、という事を理解した。

そして、キースの懸命さに心打たれた。

「・・・わかりました」

「それでは・・・」

キースは満面の笑みを浮かべた。


「けれど、それには二つ条件があります」

シャーロットは冷静に言った。

「・・・条件?」

「アルバート様は、私さえよければすぐに候補でなく婚約者に、と仰いました。
けれど、私のことはさて置き、キース様にはまだ婚約者ではなく、になっていただきたいのです。そして、もし途中でこの関係が嫌になったらいつでも辞めると約束してください。その二つです」

「言いたいことは沢山ありますけれど・・・ここで姉様に切り捨てられるよりは良いでしょう・・・。わかりました。その条件を飲みます」

かくして、キース・グレアムはシャーロットの婚約者候補となった。

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