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第一章 東京近郊区間

DMの男

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日比谷線に乗って20分ほど、電車は銀座駅に到着。丸の内線と銀座線との乗り換え駅である。
上へ登る階段をいくつか登り、改札を同じICカードで抜ける。

銀座は仕事の関係上良く来る。
お客さんにご飯に誘われたりもするが、今回はお客さんではない。

「おーい、はやとくん~!」

「あっ、お兄さん」

遠くで手を振る人影が見える。僕はその人に応えるように手を振った。

狹山修斗さん。23歳独身。
東京のトップクラスの企業の一会社員だ。
これでも年収は1000万弱。本当すごい。

駅の上にあるショッピングモールのお店に入り、席に着く。

「いやぁ、久しぶりだね」

「久しぶりって、先週ぶりじゃないですか」

「先週…そうそうそうだった。んで、考えてくれた?あの話は」

「…」

あの話というのは、先週お兄さんが僕に聞いてきた、あることだ。

「あれは遠慮しようかな、って思ってます。」

「え~なんでよ」

「まず、自分は他の人に迷惑をかけるのが嫌いで…、自分で自由気ままに生きたいんです。」

「自由気ままって言っても、君はまだ、普通で言うと中学1年生だよ?」

「いいじゃないですか。最近では不登校Youtuberとかもいるっていう話ですし。」

「あれとこれとは別だよ。毎日身体で飯を食っていくんだったら、いつか持たなくなるよ?」

「大丈夫ですって。お兄さんには感謝してます。」

「…まあ、はやとくんがそういうなら、別にいいんだけど。」

「わかってくれて嬉しいです。」

「まあまた興味があったらいつでも言ってよ。手配はすぐできるからさ。」

「お気遣い、感謝します。」

「そんな他人行儀しなくていいから!ほら、なんか注文していいよ!」

と言われたので、僕はテーブルの上に置いてあるメニューをパラパラとめくった。

ーーー

天丼を食べた。
素材本来の味が味わえる上に、たれがよく絡まっててとても美味しかった。

お兄さんと離れたのは、そこから4時間ぐらい後。
雑談をしながら時間を潰していたけど、まさかお兄さんから恋愛相談をされるとは思っていなかった。
恋愛に関しては僕の方が先輩だし。

外をみると、太陽がすでに西に傾いており、そらは薄いオレンジ色に染まっていた。

「そういえば今夜のお客さんはどこかな…」

青色の鳥のアプリを起動し、今日の朝のメッセージを確認する。

「船橋か…遠いなぁ…19時に駅前…っと」

スマホを確認し終わると、僕は近くの地下鉄の入り口から階段を降りた。
銀座駅から一駅分、日比谷線と都営浅草線の乗り換え駅である東銀座駅。

ここから総武線の船橋駅までルートはたくさんあるけど、乗り換え案内で最短だったルートに沿っていく。

浅草線のホームに入ると、メトロの雰囲気とはまた違う都営線のホームを感じつつ、やってきた京急直通の京急車に乗って、日本橋駅を目指す。
電車で二駅、日本橋駅に到着する。

日本橋は東海道、国道1号の起点でもある。
関西の大阪メトロにも、同じ「日本橋」駅があるが、
関東は「にほんばし」、関西は「にっぽんばし」と読む。

都営の改札からメトロの改札へと入り、東西線のホームへと出る。
水色のラインカラー纏った駅名標、次は「茅場町」と書かれている。

電車に乗り込むと、和風な発車メロディーが流れ、電車は出発。
車内は帰宅ラッシュのせいかぎゅうぎゅう詰め。
幸いにも快速電車に乗れたので、浦安以外の駅はほぼオールスキップだ。

電車は西船橋駅に到着。
東京メトロからさらにJRに乗り換える。
総武緩行線、津田沼行きに乗車し、一駅乗ると、船橋駅に到着だ。
ホームと電車の間の隙間を大きく跨ぐと、発車メロディーが鳴るなか、階段を降りて改札を潜る。

船橋に到着だ。正直帰るときに終電があるかわからない。
今日は泊まれるようにお金を多く持ってきたし、お客さんが優しい人なら止めてくれるかも。

スマホをみると、時間は19時5分前、駅前の柱に寄りかかって青い鳥をすらすらとスクロールしていると、

「はやとくん、かい?」

「あっ、はい。どうも。」

「Twitterのものだよ。早速、ね?」

「お願いします。」

やってきたのは、小太りな中年のおじさん。
まだ汗臭くないところがマシかな。

おじさんについていくこと5分、到着したのは小さなマンションだ。
小さな、とは言っても、それなりに高級ではあるらしい。
セキュリティが厳重そうなゲートを潜り抜け、エレベーターに乗る。

おじさんが「10」を押すと、エレベーターはそれに従うように上へ上へと上昇する。
ピンポン、となると、エレベーターの扉は開き、おじさんはそのまま前へと進む。
10階の端っこの部屋に着くと、おじさんは鍵で黒い重厚なドアを開けた。

「お邪魔します…」

と言って中へと入ると、そこは至って普通なマンションの一室だった。
家具は簡潔だけど整っていて、食卓の上には弁当が置かれていた。

「簡単なものしかないけど、どうぞ食べてって。」

コンビニの弁当ではあるが、やる前に何か食べれるのはいい。

「お言葉に甘えていただきます。」

そう言って椅子にちょこんと座ると、コンビニの弁当をむしゃむしゃと食べ始める。

「お茶もあるからね。」

と、おじさんが透明なコップに黄色かかった緑茶を持ってきてくれた。

「わざわざどうも!」

とお気遣いに感謝しながら、お茶で喉を潤す。
そのまま食べ進めると、なぜか眠気がしてきた。

こんな時に、なんで眠くなるんだ…と一瞬思ったが、その原因はすぐにわかった。

睡眠薬…

と思いながらも、僕は閉じようとするまぶたを止めることができなかった。

続く
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