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第一章 東京近郊区間

駆け込み乗車の少年

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「次は、五反田、五反田、地下鉄日比谷線はお乗り換えです。お出口は…」

23時07分、山手線内回り電車は、定刻通り五反田駅へと到着した。
ホームドアが開き、やがて電車のドアも開く。
ホームにはいかにも飲み替え帰りのサラリーマンが列をなしており、駅はいつもの騒がしい空気に包まれていた。
少し暗く疾走感のあるメロディーが流れると、駅員がマイクでアナウンスを流した。

「2番線ドアが閉まります、ご注意くださーい!かけ込み乗車はおやめくださーい!!」

最後の一言は、ドアが閉まる寸前に飛び込んだ人に向けてのものだった。
深夜ということもあったが、都心を忙しそうに廻る山手線の車内は、相変わらず混雑を極めていた。

車内に飛び乗った人影は、あたりを見渡すと、座れるところがないと察し、そのままドアの外を見ていた。
その人影はサラリーマンにしては背が低く、肩幅や輪郭も決して大人のものとは言えなかった。

ガタンゴトン、という音を聞きながら、少年は山手線のドアに身を寄せていた。




今日は3万円か…思ったより収穫は少なかったな

なんてことを思いながら、駅から数分歩いたところにある小さなアパートの一室の前で立ち止まる。
肩から下げた小さなバッグから、赤い紐がついた銀色の鍵を取り出すと、肩の位置にある鍵穴にそれを差し込んだ。

鍵が食い込むと、そのまま右に曲げる。
ガチャ、という音とともに、ドアの鍵は開けられる。

ドアノブを回して中に入ると、見慣れた我が家に足を踏み入れる。

「ふぅ…」

中学生が聞いたら思わず笑ってしまうようなため息だが、確かにそういうため息だった。
ワンルームの小さな部屋には、布団と小さな机、15inchぐらいのテレビ、そして小さなゴミ箱が無造作に置かれている。
まあ置いたのはオレなんだけどね。

外にパーカーを着たまま、畳まれた布団に飛び込む。
昨日外に干したばかりだから、まだお日様の匂いが残っている。

このまま眠りにつきたかったが、眠い体を起こして、先ほどから着ている紺色のパーカーを首から脱ぎとる。
中には質素な色のTシャツがあり、これも脱ぐと、代わりに布団の隣にぐちゃぐちゃにされていた長袖のパジャマを首に通す。

ズボンも同じようにすると、そのまま布団の中に潜り込んだ。

「はぁ…」

小さなため息をつくと、手を伸ばしてさっき落としたスマホを手に取る。
画面を向けると、白いブルーライトが顔いっぱいに照りつけた。

「23:52」と、今日に日付である「11.03」が表示されている。
男の子の写真の待ち受けを上にスライドすると、緑の通知アイコンをタップ、数え切れないほどの個人チャットから、一番上のタブを選ぶ。

(大丈夫?家わかる?)18:49

「今つきました!」18:49 既読

(電車のれた?)22:33

「いや、まだ乗れてないです。駅まで歩いてます」22:35 既読

(そっか。気をつけて帰ってね)22:35

「ありがとうございます」23:08 既読

「家つきました。今日はありがとうございました」っと…
シュッ、という音がすると、メッセージは青い背景画面の上に表示された。

スマホを閉じて、枕元の充電器にさすと、そのまま目を閉じた。
明日はなにしようかな...

なんてことを思いながら、眠気もあり、僕はゆっくりと眠りに落ちた。
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