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第三章 春愁
【最終話】2番線ホーム
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店の片付けも終わり、タイムカードを押して、あとは着替えて帰るのみとなった。
今日も1日疲れた…。
「お疲れ様です」
「おーお疲れ」
りょうやが更衣室の中に入ってきた。
エプロンをちょうどロッカーにしまっていると、
「今日、一緒に帰りませんか?」
「え?」
「その…返事、、、聞きたいので」
おっと…そうきたか
俺的には帰ってもなんの予定もないし、全く問題はないのだが…
しかし俺はなんと返事をすればいいか、まだ結論を出せていなかった。
「そうだな…。じゃ、そのついでに飲みにでも行くか?」
「…それはまた後で。」
「…」
りょうやがこっちを見てにやっと笑うと、そのまま更衣室から出て行った。
ちょっとだけ顔が赤かったような気がする。
「それじゃ、お疲れ様でした。お先に失礼します。」
「お~お疲れ。また明日もよろしくね」
「お疲れ様です!失礼します!」
そうして、俺とりょうやは駅へと向かって歩き出した。
少しすると、サラサラとした雪が降ってきた。
天気予報では、午後のあたりから雪だったっけ…。
周囲はもうすっかり暗くなっていたが、やっぱりガウンを着ていても肌寒い…。一刻も早く建物の中に入りたい…。
「今年の冬は、結構寒いですね」
「そうだなぁ…。もう2月の中旬だっていうのにな」
「…」
会話はそれで終わった。
なんとなく…だけど、二人の間に距離があった気がする。
りょうやは俺のことをどう思ってる、そして俺はそれにどう応える。
どうやったら、こいつのことを傷つけずに済むのか…。
そう考えているうちに、駅が見えてきた。
ICカードを改札にかざすと、改札がパタンと開く。
今はこういう一つ一つの動きすら、ゆっくりに見える。
そして俺に続いて、りょうやも改札をくぐり抜ける。
しかし何度見ても、ぴよぴよという音が鳴らなかったのが不思議なくらいだ。
ホームにあがろうとすると、上からアナウンスが聞こえてきた。
『2番線、ドアが閉まります…ご注意ください…。駆け込み乗車は…』
「電車いっちゃいますよ」
「ちょっと急ぐか…」
少し急ぎ足でホームに上がるも、電車のドアはすでに閉まっていた。
俺たちは粉雪が降るホームで二人きりになった。
いや、なってしまった。
ーーー
俺たちは横並びで、ホームに置かれていたベンチに座った。
次の電車まであと10分ほど。外の気温は1桁ほどだろうか、天井がない部分には、電気に照らされた粉雪がサラサラと舞っていた。
俺とりょうやの間には、3席空いていた。
正直、こういう時は隣に座ってあげた方がいいのか、それともこの状態を保ち続けるべきなのか…。
俺にはもうわからなくなってしまった。
「先輩」
「...おう」
「今、なんで僕が先輩のことを好きになったかって、気になってますよね」
「…」
俺はただ黙るしかなかった。
まあ、普通に図星なんだけどね。
「先輩と、一回飲みにいった時の話なんですけど…、、僕が、”守ってほしい”、、みたいなことを言ったのって、覚えてますか?」
「…覚えてる。めっちゃ酔ってた日だったな。」
「あの時、正直自分でも、なんでそんなことを言ったのか、わからないんです。」
「…」
「でも、なんだか、先輩といると落ち着くし、安心感があるし…、楽しいし。」
「…」
「けどそれって、先輩が優しくしてくれるから、っていうことだと思ってました…。ずっと。そんなことで、僕が好きになっていい理由にはならない。」
「…」
「けど…それでも…」
そうりょうやが言ってから、数秒間だけ沈黙が流れた。
そして、口を開いた。
「好きになっちゃったんです。先輩のことが。」
りょうやはそう言った。
俺に対して。
心臓がバクバク言っている。
相手は男、ましてや後輩。俺はどうしてしまったのだろう。
「僕だって、男が男を好きになるなんておかしいと思いましたし、ましてや先輩に、元カノとのことも知られていたっぽいので…。」
そうして、またしばらく沈黙が流れた。
その沈黙を切り裂くかのように、駅のホームにアナウンスが流れた。
『まもなく2番線を、電車が通過します。危ないですので、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。』
すると、数秒後には、轟音と共に、ものすごい速さで、俺たちの前を電車が通って行った。
この駅には止まらない、特急電車。10秒もしないうちに、それはすでに次の駅へと向かっていた。
「だから…その、、」
「ごめん。りょうや。」
俺は考えに考え抜いて、口に出したのは、この言葉だった。
「…そ、それって…」
「俺は、、、お前のことが好きなのかもしれない。」
「…え?」
「俺はまだ、”好き”という感情が、お前が俺に向けて持っている、”好き”っていう感情が、わからない。」
「…」
「けど…。一つだけ確かなことがある。」
「…」
「俺は、お前のことを守ってやりたい。お前が、俺に”守って欲しい”って言ったみたいに。俺もお前のことを守って、慰めて、抱きしめて、頭を撫でたい。それが、一般的に言う、”好き”っていう意味ではないことがわかる。けど、俺が持つ”好き”っていうのは、そういう意味…なんだと思う。」
「先輩…」
そしてまた沈黙が流れる。
俺は自分が伝え切れる精一杯のことを、伝えられたと思う。
りょうやは、どう思ってるんだろう。
「…隣、座っていいですか。寒いので。」
数秒間ほど黙っていたりょうやが口を開いた。
「…いいよ」
するとりょうやが無言で、椅子を三つ分、横にずれて、俺の隣の席にやってきた。
そして、俺の肩に頭を寄りかからせて言った。
「僕は、先輩がそばにいてくれるだけで、嬉しいです。それが僕の”好き”、先輩に対しての”好き”です。」
しんしんと降る雪の音に、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。
「これからも、先輩のこと、好きでいてもいいですか…?」
りょうやは顔を前に向けたまま、そう言った。
「…」
俺は、あえて答えずに、右手をポケットから出して、りょうやの頭をゆっくりと撫で始めた。
サラサラとした髪の毛が、手のひらに感触として残る。
こっちから顔は見えないが、時々肩が震えて、鼻を啜る音が聞こえてくる。
そしてその度に、ガウンの中に着ている、長袖シャツを頭に持ってきて、その度に袖が濡れていくのが見えた。
アナウンスが流れた。
『まもなく、2番線に電車が参ります…』
電車がもう少しでホームに入ってくると言ったところで、りょうやが再度口を開いた。
「飲み、行きましょっか」
「…おう」
「先輩の奢りですからね」
「心配すんな。潰れたらまた家まで送ってやるから。」
どうやら、俺は。
あまりにもショタな後輩を、好きになってしまったらしい。
Fin.
今日も1日疲れた…。
「お疲れ様です」
「おーお疲れ」
りょうやが更衣室の中に入ってきた。
エプロンをちょうどロッカーにしまっていると、
「今日、一緒に帰りませんか?」
「え?」
「その…返事、、、聞きたいので」
おっと…そうきたか
俺的には帰ってもなんの予定もないし、全く問題はないのだが…
しかし俺はなんと返事をすればいいか、まだ結論を出せていなかった。
「そうだな…。じゃ、そのついでに飲みにでも行くか?」
「…それはまた後で。」
「…」
りょうやがこっちを見てにやっと笑うと、そのまま更衣室から出て行った。
ちょっとだけ顔が赤かったような気がする。
「それじゃ、お疲れ様でした。お先に失礼します。」
「お~お疲れ。また明日もよろしくね」
「お疲れ様です!失礼します!」
そうして、俺とりょうやは駅へと向かって歩き出した。
少しすると、サラサラとした雪が降ってきた。
天気予報では、午後のあたりから雪だったっけ…。
周囲はもうすっかり暗くなっていたが、やっぱりガウンを着ていても肌寒い…。一刻も早く建物の中に入りたい…。
「今年の冬は、結構寒いですね」
「そうだなぁ…。もう2月の中旬だっていうのにな」
「…」
会話はそれで終わった。
なんとなく…だけど、二人の間に距離があった気がする。
りょうやは俺のことをどう思ってる、そして俺はそれにどう応える。
どうやったら、こいつのことを傷つけずに済むのか…。
そう考えているうちに、駅が見えてきた。
ICカードを改札にかざすと、改札がパタンと開く。
今はこういう一つ一つの動きすら、ゆっくりに見える。
そして俺に続いて、りょうやも改札をくぐり抜ける。
しかし何度見ても、ぴよぴよという音が鳴らなかったのが不思議なくらいだ。
ホームにあがろうとすると、上からアナウンスが聞こえてきた。
『2番線、ドアが閉まります…ご注意ください…。駆け込み乗車は…』
「電車いっちゃいますよ」
「ちょっと急ぐか…」
少し急ぎ足でホームに上がるも、電車のドアはすでに閉まっていた。
俺たちは粉雪が降るホームで二人きりになった。
いや、なってしまった。
ーーー
俺たちは横並びで、ホームに置かれていたベンチに座った。
次の電車まであと10分ほど。外の気温は1桁ほどだろうか、天井がない部分には、電気に照らされた粉雪がサラサラと舞っていた。
俺とりょうやの間には、3席空いていた。
正直、こういう時は隣に座ってあげた方がいいのか、それともこの状態を保ち続けるべきなのか…。
俺にはもうわからなくなってしまった。
「先輩」
「...おう」
「今、なんで僕が先輩のことを好きになったかって、気になってますよね」
「…」
俺はただ黙るしかなかった。
まあ、普通に図星なんだけどね。
「先輩と、一回飲みにいった時の話なんですけど…、、僕が、”守ってほしい”、、みたいなことを言ったのって、覚えてますか?」
「…覚えてる。めっちゃ酔ってた日だったな。」
「あの時、正直自分でも、なんでそんなことを言ったのか、わからないんです。」
「…」
「でも、なんだか、先輩といると落ち着くし、安心感があるし…、楽しいし。」
「…」
「けどそれって、先輩が優しくしてくれるから、っていうことだと思ってました…。ずっと。そんなことで、僕が好きになっていい理由にはならない。」
「…」
「けど…それでも…」
そうりょうやが言ってから、数秒間だけ沈黙が流れた。
そして、口を開いた。
「好きになっちゃったんです。先輩のことが。」
りょうやはそう言った。
俺に対して。
心臓がバクバク言っている。
相手は男、ましてや後輩。俺はどうしてしまったのだろう。
「僕だって、男が男を好きになるなんておかしいと思いましたし、ましてや先輩に、元カノとのことも知られていたっぽいので…。」
そうして、またしばらく沈黙が流れた。
その沈黙を切り裂くかのように、駅のホームにアナウンスが流れた。
『まもなく2番線を、電車が通過します。危ないですので、黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。』
すると、数秒後には、轟音と共に、ものすごい速さで、俺たちの前を電車が通って行った。
この駅には止まらない、特急電車。10秒もしないうちに、それはすでに次の駅へと向かっていた。
「だから…その、、」
「ごめん。りょうや。」
俺は考えに考え抜いて、口に出したのは、この言葉だった。
「…そ、それって…」
「俺は、、、お前のことが好きなのかもしれない。」
「…え?」
「俺はまだ、”好き”という感情が、お前が俺に向けて持っている、”好き”っていう感情が、わからない。」
「…」
「けど…。一つだけ確かなことがある。」
「…」
「俺は、お前のことを守ってやりたい。お前が、俺に”守って欲しい”って言ったみたいに。俺もお前のことを守って、慰めて、抱きしめて、頭を撫でたい。それが、一般的に言う、”好き”っていう意味ではないことがわかる。けど、俺が持つ”好き”っていうのは、そういう意味…なんだと思う。」
「先輩…」
そしてまた沈黙が流れる。
俺は自分が伝え切れる精一杯のことを、伝えられたと思う。
りょうやは、どう思ってるんだろう。
「…隣、座っていいですか。寒いので。」
数秒間ほど黙っていたりょうやが口を開いた。
「…いいよ」
するとりょうやが無言で、椅子を三つ分、横にずれて、俺の隣の席にやってきた。
そして、俺の肩に頭を寄りかからせて言った。
「僕は、先輩がそばにいてくれるだけで、嬉しいです。それが僕の”好き”、先輩に対しての”好き”です。」
しんしんと降る雪の音に、ぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。
「これからも、先輩のこと、好きでいてもいいですか…?」
りょうやは顔を前に向けたまま、そう言った。
「…」
俺は、あえて答えずに、右手をポケットから出して、りょうやの頭をゆっくりと撫で始めた。
サラサラとした髪の毛が、手のひらに感触として残る。
こっちから顔は見えないが、時々肩が震えて、鼻を啜る音が聞こえてくる。
そしてその度に、ガウンの中に着ている、長袖シャツを頭に持ってきて、その度に袖が濡れていくのが見えた。
アナウンスが流れた。
『まもなく、2番線に電車が参ります…』
電車がもう少しでホームに入ってくると言ったところで、りょうやが再度口を開いた。
「飲み、行きましょっか」
「…おう」
「先輩の奢りですからね」
「心配すんな。潰れたらまた家まで送ってやるから。」
どうやら、俺は。
あまりにもショタな後輩を、好きになってしまったらしい。
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