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第三章 春愁
応えなければいけないもの
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りょうやの風邪は案外あっさり治った。
あの後、俺は夕方ごろにはりょうやの家を後にしたが、その夜には熱が下がったとの連絡がきた。
人に心配かけおって…。
明日はまたバイトのシフトだ…。
「明日は関東全域で晴れの予報ですが、午後にかけて所々雪となる見込みです。数年に一度の寒波は、まだまだ収まりを…」
テレビのニュースをみると、明日も雪が降るのか…。
困ったもんだ、、、早く春のポカポカした陽気にあたりたい…。
桜の見物もしたいな。去年は俺の予定が合わなくてできなかったし…。
ピロン
スマホに連絡だ。相手はりょうやから。
『今日はありがとうございました。おかげでだいぶ良くなりました』
やっぱりこいつのこういう礼儀正しいところは…なんと言うか
えらい!!!
「元気そうでよかった。早く寝ろよ。明日シフト入ってるし」
『了解です。おやすみなさい』
メッセージの後にかわいいアニメーションのスタンプが送られてきた。
こう言うところだよ。お前が成人男性っぽくないところは。
時計はもう23時ごろになっていた。
俺もそろそろ寝よう…。
アラームをセットしてから、布団の中に潜り込む。
布団は最初に入った時はめちゃくちゃ寒いくせに、朝起きる時は布団の中があったまって外に出られなくなる。
まあ冬だからしょうがないのだろうが…。もっとハイテクな布団を開発してくれてもいい。
買うお金はないがな。
翌日。
↑この表現もそろそろ見飽きた頃だろう。
大丈夫だ。俺も同じことを考えてる。
いつも通り通勤をして、店に到着する。
「おはよ~ございま~す」
「中野くんおは~」
「鈴音さんおはようございます。店長見ました?」
「店長なら…昨日一人で店を回してたせいで、腰が痛いって言って裏で座ってるよ。まだアラサーだって言うのにねぇ…」
「まだアラサー…ねぇ…」
仕方がないので、裏に行って店長に挨拶する。
「おはようございます。」
「おお…中野くん、、で、昨日はどうだった?うまくいった?」
「うまく…?何を言ってるのかわかりませんが、お粥も作りましたし、そのおかげかりょうやも良くなりましたよ。」
「え、他には?」
「他に…?って、毎回何を期待してるですか」
「…君ねぇ、、」
店長は呆れたようにため息をついた。
腕時計を見ると、開店時間の1分前だったので、パパッとエプロンを着用した。
「じゃあ、オープンしますよ?」
「あー待って待って」
「なんですか」
「りょうやくんがいないうちに伝えておく。」
店長の表情は、見たこともないくらいに真剣だった。
雰囲気が少し厳粛になったような気がした。
「彼は君を必要としている。」
少し間をおいて、再びこう言った。
「だから、君もそんな彼に応えてやってくれ」
「はぁ…」
「よし。じゃあオープンよろしく。忙しくなったら呼んで…イテテテテ」
すると、店長はいつも通りの店長に戻った。
なんだったんだ…。
今日は朝から快晴の天気だ。日光が体に照り付けて気持ちがいい。
こう言うのを光合成っていうんだっけ?マイナスイオン?
外で深呼吸をしていると、お客さんが早速見えたので中に案内をする。
今日も忙しい1日の始まりだ。
ーーー
一時間後、お店の入り口から、黒いガウンを着て、背中に小さなリュックを背負った、中学生ぐらいの身長をしたお客さん…
ではなくりょうやがやってきた。
「おはようございます。先輩」
「おはよ~。風邪、意外と早く治ってよかったね」
「これ以上皆さんに迷惑が掛からなくて本当に良かったです。あとは先輩のおかげです。」
「そんなことないよ~。じゃ、奥で着替えてきな」
「了解ですっ。」
りょうやは今日も元気満タンのようだ。
これはこれで安心した。
先ほど、今日は快晴だとは言ったが、お客さんの入りはそれほどだった。
正月が明けてから一番、暇だったとでも言おうか…。
まあ、店長が裏でずっと休んでいたことには変わりない。
腰痛はかわいそうだしな。1mmもそう思ってないけど。
とまあ、なんの面白みもないまま、本日は閉店。
外を見ると、先ほどまで見えていた太陽の光は、すっかり雲に覆われて消えていた。
「今日も降るらしいですね、雪」
「そうだな…。電車が止まらないといいけど」
「この前の大雪はラッキーでした…。駅に着いてから2,3分経った頃に運転見合わせてたので…」
「それは危ないな…。」
机を拭きながら、たわいもない会話を交わす。
しかし、俺の心の中はそんなに穏やかではなかった。
「中野く~ん、ちょっと裏きて~」
「あっ、はーい!」
「なんなんでしょうね」
「さあな…。めんどくさいことじゃなければいいけど…」
りょうやをホールに残し、店の裏に入っていく。
するとそこには、未だ椅子に座ったままの店長がいた。
「先月の給与明細、できてるからとってね…」
「あっ、ありがとうございます。」
「…」
え、終わり?
もっと他のことがあるのかと思ったのだが…
給与明細なら後でも良かったし…
「待って」
ホールに戻ろうとすると、店長に呼び止められた。
「もーなんなんすか」
店長は素早く立ち上がり、そして何かを俺のポケットに入れた。
「君は今、迷っている。だから、今はまだ、中身を見るな。いずれ来たるその時に…」
「…」
「自分の気持ちに、素直になれ」
「…はぁ、、?」
俺は今迷っているのか?
今日の晩御飯に何を食べるか…、、来月のシフト…?
何もわからないぞ…何が言いたいんだこの腰痛じじいは
おっとジジイは言い過ぎたか…アラサーなのにな…
店長は、まるで浄化されたかのように、澄んだ笑顔を俺に向けた。
眩しい眩しい…こっちにそんなものを向けないでくれ…
その後、本人は腰をさすりながら、店のさらに奥の方へと入っていった。
うん。何もわからない。
続く
次回、最終回です。
あの後、俺は夕方ごろにはりょうやの家を後にしたが、その夜には熱が下がったとの連絡がきた。
人に心配かけおって…。
明日はまたバイトのシフトだ…。
「明日は関東全域で晴れの予報ですが、午後にかけて所々雪となる見込みです。数年に一度の寒波は、まだまだ収まりを…」
テレビのニュースをみると、明日も雪が降るのか…。
困ったもんだ、、、早く春のポカポカした陽気にあたりたい…。
桜の見物もしたいな。去年は俺の予定が合わなくてできなかったし…。
ピロン
スマホに連絡だ。相手はりょうやから。
『今日はありがとうございました。おかげでだいぶ良くなりました』
やっぱりこいつのこういう礼儀正しいところは…なんと言うか
えらい!!!
「元気そうでよかった。早く寝ろよ。明日シフト入ってるし」
『了解です。おやすみなさい』
メッセージの後にかわいいアニメーションのスタンプが送られてきた。
こう言うところだよ。お前が成人男性っぽくないところは。
時計はもう23時ごろになっていた。
俺もそろそろ寝よう…。
アラームをセットしてから、布団の中に潜り込む。
布団は最初に入った時はめちゃくちゃ寒いくせに、朝起きる時は布団の中があったまって外に出られなくなる。
まあ冬だからしょうがないのだろうが…。もっとハイテクな布団を開発してくれてもいい。
買うお金はないがな。
翌日。
↑この表現もそろそろ見飽きた頃だろう。
大丈夫だ。俺も同じことを考えてる。
いつも通り通勤をして、店に到着する。
「おはよ~ございま~す」
「中野くんおは~」
「鈴音さんおはようございます。店長見ました?」
「店長なら…昨日一人で店を回してたせいで、腰が痛いって言って裏で座ってるよ。まだアラサーだって言うのにねぇ…」
「まだアラサー…ねぇ…」
仕方がないので、裏に行って店長に挨拶する。
「おはようございます。」
「おお…中野くん、、で、昨日はどうだった?うまくいった?」
「うまく…?何を言ってるのかわかりませんが、お粥も作りましたし、そのおかげかりょうやも良くなりましたよ。」
「え、他には?」
「他に…?って、毎回何を期待してるですか」
「…君ねぇ、、」
店長は呆れたようにため息をついた。
腕時計を見ると、開店時間の1分前だったので、パパッとエプロンを着用した。
「じゃあ、オープンしますよ?」
「あー待って待って」
「なんですか」
「りょうやくんがいないうちに伝えておく。」
店長の表情は、見たこともないくらいに真剣だった。
雰囲気が少し厳粛になったような気がした。
「彼は君を必要としている。」
少し間をおいて、再びこう言った。
「だから、君もそんな彼に応えてやってくれ」
「はぁ…」
「よし。じゃあオープンよろしく。忙しくなったら呼んで…イテテテテ」
すると、店長はいつも通りの店長に戻った。
なんだったんだ…。
今日は朝から快晴の天気だ。日光が体に照り付けて気持ちがいい。
こう言うのを光合成っていうんだっけ?マイナスイオン?
外で深呼吸をしていると、お客さんが早速見えたので中に案内をする。
今日も忙しい1日の始まりだ。
ーーー
一時間後、お店の入り口から、黒いガウンを着て、背中に小さなリュックを背負った、中学生ぐらいの身長をしたお客さん…
ではなくりょうやがやってきた。
「おはようございます。先輩」
「おはよ~。風邪、意外と早く治ってよかったね」
「これ以上皆さんに迷惑が掛からなくて本当に良かったです。あとは先輩のおかげです。」
「そんなことないよ~。じゃ、奥で着替えてきな」
「了解ですっ。」
りょうやは今日も元気満タンのようだ。
これはこれで安心した。
先ほど、今日は快晴だとは言ったが、お客さんの入りはそれほどだった。
正月が明けてから一番、暇だったとでも言おうか…。
まあ、店長が裏でずっと休んでいたことには変わりない。
腰痛はかわいそうだしな。1mmもそう思ってないけど。
とまあ、なんの面白みもないまま、本日は閉店。
外を見ると、先ほどまで見えていた太陽の光は、すっかり雲に覆われて消えていた。
「今日も降るらしいですね、雪」
「そうだな…。電車が止まらないといいけど」
「この前の大雪はラッキーでした…。駅に着いてから2,3分経った頃に運転見合わせてたので…」
「それは危ないな…。」
机を拭きながら、たわいもない会話を交わす。
しかし、俺の心の中はそんなに穏やかではなかった。
「中野く~ん、ちょっと裏きて~」
「あっ、はーい!」
「なんなんでしょうね」
「さあな…。めんどくさいことじゃなければいいけど…」
りょうやをホールに残し、店の裏に入っていく。
するとそこには、未だ椅子に座ったままの店長がいた。
「先月の給与明細、できてるからとってね…」
「あっ、ありがとうございます。」
「…」
え、終わり?
もっと他のことがあるのかと思ったのだが…
給与明細なら後でも良かったし…
「待って」
ホールに戻ろうとすると、店長に呼び止められた。
「もーなんなんすか」
店長は素早く立ち上がり、そして何かを俺のポケットに入れた。
「君は今、迷っている。だから、今はまだ、中身を見るな。いずれ来たるその時に…」
「…」
「自分の気持ちに、素直になれ」
「…はぁ、、?」
俺は今迷っているのか?
今日の晩御飯に何を食べるか…、、来月のシフト…?
何もわからないぞ…何が言いたいんだこの腰痛じじいは
おっとジジイは言い過ぎたか…アラサーなのにな…
店長は、まるで浄化されたかのように、澄んだ笑顔を俺に向けた。
眩しい眩しい…こっちにそんなものを向けないでくれ…
その後、本人は腰をさすりながら、店のさらに奥の方へと入っていった。
うん。何もわからない。
続く
次回、最終回です。
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