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第三章 春愁

コンテスト、再び

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年が明けてからはや1ヶ月。
二月に入ったカフェくすのきには暗雲が立ち込めていた。
俺はまたもや一人で万策の限りを尽くし、キッチンにて試行錯誤していた。

「もうチョコレート食いたくねえぇ…」

ことの発端は一月の下旬。店長がまたもや怪しいことを言い出したからである。

「第一回!バレンタインデザートコンテストを開催しま~~~す!!!」

「ええええ!?」

一同驚愕。クリスマスにもやったじゃないか店長よ。

「チッチッチ。君たちわかってないねぇ…。今回のデザートコンテストは一味違うぞ~!」

「何が違うんですか」

「中野くん…君は前回最下位だったよね?」

「それが何か」

「そんな君でも~、デザートをお客様に食べてもらえるチャンスがある!と言うわけで、今回はお客様にジャッジを乞う予定です。」

なんとこれは驚きだ。
あの店長がしっかりしたルールを定めている。
普段は従業員の投票、もしくは店長の独断で決めていたデザートコンテストだが、
今回はなんと実際に来客に食べてもらい、投票式で決めるという。

一位をゲットしたデザートはというと、

「レギュラーメニューに昇格です」

なんとも大胆な決断…。バレンタインをテーマにしたものだよな???

と言うわけである。
俺自身デジャヴしか感じなかった今回のコンテスト、しかし正直言うと前回の再開は屈辱の結果と言える。
と言うわけで今回は本気を出して開発中ということだ。

他の参加者2名もさぞ気合を入れているのだろうか…
俺だけが張り切っていたなんていうことがないといいのだが。


バレンタインもあと1週間に迫る二月七日。翌日からお店に並ぶデザートの発表会が行われた。
今回は本気を出して参加したので、自分でもかなりの自信がある。

丸いスポンジケーキ2枚でホイップクリームを挟み、その上からチョコレートソースを満遍なくかけて冷やす。
冷めたチョコレートがスポンジケーキを覆う形になったところで、上にホイップクリームを数箇所絞る。
アーモンドスライスを散らし、最後に板チョコの一欠片を乗せる。

名付けて、『クリーミーチョコレートケーキ』だ。
あえてチョコソースを冷やし、固形の薄いチョコの膜を作ることにより、フォークで半分に割ると、チョコレートと白いスポンジケーキのコントラストが綺麗に見える。

「うわあ中野くん…前回とは大違いだね…」

「もちろん。今年は気持ち入れ替えてきたので。」

「じゃあ鈴音さんも。」

「はいはーい」

といい、鈴音は箱の中から三角型をしたショートケーキを出した。

「ただのいちごショートケーキじゃんか。」

誰もがそう思った。しかしその瞬間、小さなコップを箱の中から取り出し、蓋を外すと、中身をケーキにたっぷりとかけた。
茶色のソースは湯気をたてており、甘い匂いを周囲に撒き散らかしていた。

「ホットココアショートケーキです。」

小さなコップの中身を全部かけると、チョコまみれになったケーキの上にハート型の板チョコを乗せる。
これは驚きだ。アイデアが半端ない…。周りからは歓声が起こる。

「すごいねこれ…、、SNSでバズるんじゃない?」

「いやあ~、なんかアイデア浮かばなくて…普通にショートケーキ作って食べようとしたらそこにあったかいソースがあったので…。もちろん味も抜群ですよ!」

俺が客ならこっちの方を注文していただろう。しかもこれは既存のショートケーキに溶かしたチョコをかけるだけ。コストも低い…
これは負けたか…

「じゃあ最後にりょうやくん」

「は、はい…」

といい、りょうやが取り出したのは、四角いスポンジケーキの上に、板チョコを数枚、そしてホイップクリームがかかった簡単なものだった。
りょうやの作品というだけあってかなり期待していたが、思わず拍子抜けしてしまった。

「えっと…チョコケーキです…。」

「…」

空気が一変したような感覚がする。りょうやよ、どうしたんだ。

「その…アイデアが…思い浮かばなくって…あはは」

愛想笑いを浮かべると、周りもそれに合わせて少しだけ空気が軽くなる。
まありょうやもそういうことがあるだろう。期待のしすぎも本人には悪い。

というわけで、りょうやの作品だけ辞退ということになり、俺のケーキと鈴音のケーキが、優勝をかけて争うことになった。
期間はバレンタイン当日までの1週間。より多く票が集まった方の勝利だ。

期間中はセットの販売も開始。600円で二つのケーキが同時に味わえる。
もちろん投票してもらうためのセットだ。
果たして優勝はどちらになるのか。非常に見ものだ。

続く
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