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第二章 寒凪
ロープウェイ
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箱葉湯本駅に到着すると、まずは旅館のチェックインからする。
しかしどうやら15時からしかチェックインができないようで、全員分の荷物を預けると、今度は「弱羅」と表示された列車に乗り込む。
ここからは登山鉄道の本領発揮である。急な傾斜をスイスイと登っていき、急傾斜を避けるために作られたスイッチバックを数カ所こなすと、湯本駅を出発してから30分ちょっと弱羅駅に到着した。
登山鉄道からケーブルカーへは改札が挟まっているだけだ。それを抜けると、ホームごとが傾斜となっている「箱葉ケーブルカー」に乗り込む。
当たり前のように車体は斜めになっており、座席だけが水平に置かれている。
日本で二番目に古いケーブルカーのようだが、車両にはLEDモニターまでついている新型車両のようだ。
少しもしない間に列車は弱羅駅を出発。
ややゆっくり目に走る自動車ぐらいの程度のスピードで次の駅を目指す。
かなりの傾斜を上って、列車は終点に到着。ここで再び乗り換えである。
今度はロープウェイに乗り、大脇谷を目指す。
正月だからかやはり人も多いようだ。切符を買い終えると、いよいよロープウェイに乗車だ。
1車両2組が入るようになっており、俺たちは幸いにも前方を眺められる方に振り分けられた。
「ううぅ…」
「どうしたんだ?」
「僕、、無理かもしれないですっ…、、た、高いの…怖くてっ…」
「大丈夫だって。乗ってみれば怖くないだろ」
ちょうど車両がつられてやってくると、前方のドアが開き、俺たちはタイミングよく車内へと入る。
俺が一番前の座席へと座ると、りょうやもなぜか俺の隣に座ってきた。
「せ、先輩ぃぃっ、無理ですってっ、やっ、だめぇっ、」
小さい体で俺の右肩にしがみつき、前方の景色をみるのを拒むりょうや。
どうやら肩をブルブルさせて怖がっているようだ。
さて、俺はなんと言ったらいい。
最近こういうシチュエーションがしょっちゅう起こっている気がする。デジャヴだデジャヴ。
「りょうや、目を開けてみなって」
「むりですぅぅっ…」
「大丈夫だって。俺がそばにいるだろ?」
「高いのっ、本当に無理、」
「ちょっとだけでいいんだよ。ほら、まずは深呼吸。」
さっきからパニックになりかけているりょうやをなんとか落ち着かせたところで、
「ゆっくり、目を開けてみな」
「んんっ…」
シワが滲むほど目をギュッと一文字に閉じていたりょうやは、やがてそれを緩め、ほんの少しだけ右目を開いた。
「っ……きれ…い」
大きなガラス窓の向こう側には、一面の銀世界。
太陽の光が雪に照り付け、雪が眩しく見える。
前方の右側には、てっぺんから雪が多くかかる富士山が見える。
下の方を見ると、所々湯気が出ているところがあるが、あれが大脇谷だ。
火山ガスがひどくなると、ロープウェイの運行までもが危なくなるので、今回は運がよかったとしか言いようがない。
「俺はりょうやにもこの景色を見せたかったんだ。」
自分で変にカッコつけてしまったが、俺の本心はそれ以外にはない。
下に湯気が立っていることも指摘したが、流石に下を見るのには抵抗が強すぎるようで、結果的には叶わなかった。
そうこうしていると、ゴンドラは大脇谷駅に到着。
雪が積もった駅舎の中に入ると、暖かな暖房が身に沁みる。
ちなみに俺たちは事前に気温の情報を仕入れて、大きなダウンジャケットを一人一枚は羽織っている。
とてつもなく寒いわけでもないが、ないよりかはましだろう。
「えーということで大脇谷に到着しました~」
なぜか店長がでしゃばって仕切っている。どこに行くかを決めたのは俺だぞごら
「んで? ここからどうするの?」
さっきまでの威勢はどうしたんだと思わずツッコミたくなるが、しょうがないので俺が再び仕切る。
「えーっと、とりあえず各自大脇谷の煙を見てきましょう。富士山も見えるって話なので、写真を数枚とって、その後は温泉卵を買って食べようかと思います。外ちょっと寒いのでちょっとだけ注意してくださいね。」
我ながら完璧な仕切りだった。ツアーガイドの給料は出るだろうか。
「はい、中野くんありがとう。それじゃ各自自由行動ということで。りょうやくんは私と行くかい?」
「鈴音お姉さんもいるよ~?」
おいおい…
「りょうやは責任を持って俺がお預かりします。お二人は近づかないでください~」
これだからショタコンはおいておけない。
俺は純粋な心が汚されるのを未然に防止したぞ。
残念そうな顔を見せる二人を、りょうやは苦笑いしながら見ていた。
駅の外へと出てみると、冬真っ只中だといえど、日光が差し込んでいるので、ちょうどいい気温を感じられる。
足元で積もった雪をサクサクと踏みながら、煙が多く湧き出ているところに近づいてみる。
「くさっ!」
思わず声が出た。煙に含まれている謎の物質が鼻を刺激する。
しかしよく見ると、地形や噴煙の湧き出場所が美しく見えるような気がする。
俺は別に理系でもないので地形だかなんだかはわからないが…。
「“硫黄”が煙の中に含まれてるからですよ!」
「硫黄?」
「物質の一つですよ。燃えることで二酸化硫黄が放出されてこの匂いになるんですけど、固体じゃ匂いはしないんです!」
「はえぇ…」
わかりやすい解説だ。
さすが理系大学生だな…ははは。
続く
しかしどうやら15時からしかチェックインができないようで、全員分の荷物を預けると、今度は「弱羅」と表示された列車に乗り込む。
ここからは登山鉄道の本領発揮である。急な傾斜をスイスイと登っていき、急傾斜を避けるために作られたスイッチバックを数カ所こなすと、湯本駅を出発してから30分ちょっと弱羅駅に到着した。
登山鉄道からケーブルカーへは改札が挟まっているだけだ。それを抜けると、ホームごとが傾斜となっている「箱葉ケーブルカー」に乗り込む。
当たり前のように車体は斜めになっており、座席だけが水平に置かれている。
日本で二番目に古いケーブルカーのようだが、車両にはLEDモニターまでついている新型車両のようだ。
少しもしない間に列車は弱羅駅を出発。
ややゆっくり目に走る自動車ぐらいの程度のスピードで次の駅を目指す。
かなりの傾斜を上って、列車は終点に到着。ここで再び乗り換えである。
今度はロープウェイに乗り、大脇谷を目指す。
正月だからかやはり人も多いようだ。切符を買い終えると、いよいよロープウェイに乗車だ。
1車両2組が入るようになっており、俺たちは幸いにも前方を眺められる方に振り分けられた。
「ううぅ…」
「どうしたんだ?」
「僕、、無理かもしれないですっ…、、た、高いの…怖くてっ…」
「大丈夫だって。乗ってみれば怖くないだろ」
ちょうど車両がつられてやってくると、前方のドアが開き、俺たちはタイミングよく車内へと入る。
俺が一番前の座席へと座ると、りょうやもなぜか俺の隣に座ってきた。
「せ、先輩ぃぃっ、無理ですってっ、やっ、だめぇっ、」
小さい体で俺の右肩にしがみつき、前方の景色をみるのを拒むりょうや。
どうやら肩をブルブルさせて怖がっているようだ。
さて、俺はなんと言ったらいい。
最近こういうシチュエーションがしょっちゅう起こっている気がする。デジャヴだデジャヴ。
「りょうや、目を開けてみなって」
「むりですぅぅっ…」
「大丈夫だって。俺がそばにいるだろ?」
「高いのっ、本当に無理、」
「ちょっとだけでいいんだよ。ほら、まずは深呼吸。」
さっきからパニックになりかけているりょうやをなんとか落ち着かせたところで、
「ゆっくり、目を開けてみな」
「んんっ…」
シワが滲むほど目をギュッと一文字に閉じていたりょうやは、やがてそれを緩め、ほんの少しだけ右目を開いた。
「っ……きれ…い」
大きなガラス窓の向こう側には、一面の銀世界。
太陽の光が雪に照り付け、雪が眩しく見える。
前方の右側には、てっぺんから雪が多くかかる富士山が見える。
下の方を見ると、所々湯気が出ているところがあるが、あれが大脇谷だ。
火山ガスがひどくなると、ロープウェイの運行までもが危なくなるので、今回は運がよかったとしか言いようがない。
「俺はりょうやにもこの景色を見せたかったんだ。」
自分で変にカッコつけてしまったが、俺の本心はそれ以外にはない。
下に湯気が立っていることも指摘したが、流石に下を見るのには抵抗が強すぎるようで、結果的には叶わなかった。
そうこうしていると、ゴンドラは大脇谷駅に到着。
雪が積もった駅舎の中に入ると、暖かな暖房が身に沁みる。
ちなみに俺たちは事前に気温の情報を仕入れて、大きなダウンジャケットを一人一枚は羽織っている。
とてつもなく寒いわけでもないが、ないよりかはましだろう。
「えーということで大脇谷に到着しました~」
なぜか店長がでしゃばって仕切っている。どこに行くかを決めたのは俺だぞごら
「んで? ここからどうするの?」
さっきまでの威勢はどうしたんだと思わずツッコミたくなるが、しょうがないので俺が再び仕切る。
「えーっと、とりあえず各自大脇谷の煙を見てきましょう。富士山も見えるって話なので、写真を数枚とって、その後は温泉卵を買って食べようかと思います。外ちょっと寒いのでちょっとだけ注意してくださいね。」
我ながら完璧な仕切りだった。ツアーガイドの給料は出るだろうか。
「はい、中野くんありがとう。それじゃ各自自由行動ということで。りょうやくんは私と行くかい?」
「鈴音お姉さんもいるよ~?」
おいおい…
「りょうやは責任を持って俺がお預かりします。お二人は近づかないでください~」
これだからショタコンはおいておけない。
俺は純粋な心が汚されるのを未然に防止したぞ。
残念そうな顔を見せる二人を、りょうやは苦笑いしながら見ていた。
駅の外へと出てみると、冬真っ只中だといえど、日光が差し込んでいるので、ちょうどいい気温を感じられる。
足元で積もった雪をサクサクと踏みながら、煙が多く湧き出ているところに近づいてみる。
「くさっ!」
思わず声が出た。煙に含まれている謎の物質が鼻を刺激する。
しかしよく見ると、地形や噴煙の湧き出場所が美しく見えるような気がする。
俺は別に理系でもないので地形だかなんだかはわからないが…。
「“硫黄”が煙の中に含まれてるからですよ!」
「硫黄?」
「物質の一つですよ。燃えることで二酸化硫黄が放出されてこの匂いになるんですけど、固体じゃ匂いはしないんです!」
「はえぇ…」
わかりやすい解説だ。
さすが理系大学生だな…ははは。
続く
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