バイトの後輩があまりにもショタで困る

のりたまご飯

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第一章 澄清

うどん屋①

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時刻は17時を回った。
外はすでに真っ暗で、街頭の光が見えた。
店長は何やら用事があるようで閉店作業はオレ一人で行う。

机を拭き、洗い物を食洗機に入れる。
エプロンを着替えた後、店内の電気を消して鍵を閉める。
至って簡単な作業だ。

それにしても寒い。寒すぎる。
セーターにジャンパー1枚じゃ足りなかったか…

寒い体をなんとか温めるために、自動販売機でコンスープが入った缶ドリンクを一つ購入する。
取り出し口から出し、手に握るとあっという間に手が温まる。
蓋を開けると、飲み口から白い湯気が上がり、一口啜ると、まだかなり熱かったのでしばらく手の中で冷ます。

カフェから数百メートルほど歩くと、最寄りえきに到着する。
まあまあ栄えている街ではあるので、人通りもだんだん多くなってきた。
見ると、ほとんどがカップルではないか。
男の方から腕を肩に回し、女の方は「もう♡」みたいなことをほざいてやがる。
やっぱりクリスマスは忌むべき日だ。ぼっちには人権はないのか?

そう思ったものの、昨日のりょうやの落ち込みっぷりを思い出すと、そんな気持ちも少しだけ薄れた。
ところであいつは今何をしているのだろうか。昨日のことで落ち込んでないといいけど。
心配になった俺は、連絡してみることにした。

メッセージアプリの一番上から三番目ぐらいのアイコンをタップすると、1週間前のクリスマスデザートコンテストの内容についてだった。
いつの間にか改札に入っていた俺は、ホームに置かれた駅のベンチに座った。

悩みながらメッセージの欄に、ローマ字で文字を打ち込む。

「メリークリスマス」

と入力したが、流石に子供っぽいと思い削除。
昨日のこともあったし、クリスマスに敏感になっているかもしれないしな。

「大丈夫か?」

あからさまに心配されてる感じが否めない。
俺は再度文字を削除する。
悩んだ末、

「今暇? ご飯でも行く?」

と送信した。送信した後に昨日も飲みにいったことを思い出し後悔した。
送信取り消しも考えたが、すでに既読がついてしまっていた

「了解です」

と帰ってきた。
返信早いな…。と思いつつも、俺は入線してきた快速電車に乗り込んだ。

「どこがいい?」

と場所を聞くと、

「今家なのでどこでも大丈夫です」

と帰ってきた。
どうせなので、家からちょっとだけ離れた駅に集合しようということで双方とも合意した。

実はこの快速電車の終点が俺が指定した駅だ。
都心の環状線も通る駅で、私鉄や地下鉄も数多く乗り入れている。
家からの方が近いので、りょうやはすでについているようだ。

東口とのことなので、改札をでて、黄色い標識をもとにその方向へと歩く。
大きな駅なので時々迷子になりそうではあるが、人混みをかき分けて確実に進んでいく。

大きなショピングモールの連絡口の隣にあるふくろう形のモニュメントのすぐ近くにりょうやが見えた。
昨日とは違い、小さめのダウンを着て、マフラーをしている。
ほんと中学生にしか見えないんだがな。買春しにきたおじさんって思われてませんように。

「おっす。わざわざありがとな」

声をかけた瞬間、ちょっとびっくりしながら顔を赤くしていた。
寒いからな。顔が乾燥しないように気をつけて欲しいものだが。

「先輩…いや、えっと…、こっちこそ誘ってくださって…ありがとうございます。あっあと昨日は…その…」

「そんな他人行儀すんなよw。あれはしょうがない。んで?なんか食べたいもんあるか?」

「僕は何でも大丈夫…ですけど…」

「そっか…じゃあとりあえず歩きながら決めようぜ」

「はい…あっ、今日はちゃんと、自分でお金払いますので…」

「遠慮すんなって。後輩奢るのが先輩の務めだろ?」

「二日連続は流石に悪いですってぇっ…」

「そんなこと言うなってほら、行くぞ~」

「っあぁ…はいぃ…」

駅の中は暖かったが、外に出ると一気に冷えた。

「さむっ…早いところ飯屋探そうぜ」

「そうですね…」

ビルが立ち並ぶ大通りを進んでいく。
周りの街路樹には、オレンジ色のイルミネーションがかかっており、その下では人々が忙しそうに行き交っている。
まあほとんどはカップルなんだがな。

「あっ、ここなんてどうですか?」

りょうやが立ち止まったのは、手打ちうどんの店だった。
人もそれほどはいないようだ。

「うどんか~。クリスマスにあえてうどんもいいなw」

と俺はお腹も空いていたためすぐに店の中へと入った。
入ってすぐにうどんの湯気を感じた。しかも暖房が効いていて暖かい。
トレーを一人一枚取り、注文のレーンに置く。
前には二組ほど客がおり、その人たちにそうように俺たちも並んだ。

「メリークリスマス!ご注文お伺いしまぁす!」

元気のいいおじさんの店員さんに注文を聞かれる。
それにしても「メリークリスマス」、か。うどん屋も侮れないな。

「かけうどんの大、あったかい方でお願いします」

「ありがとうございます。かけ大入りました~!」

大きな声で店内に響き渡るように店員さんが言うと、次にりょうやに注文を聞いた。

「はい、お兄ちゃんは何にする?」

「えっ、えっと…じゃあカレーうどんの…、、並…で」

「はいありがとう。カレー並入りました~!」

またもや大きな声で注文をくりかえす。
それにしてもりょうやはカレーうどんか。絶妙なセンスだな。
うどんができるのを待っていると、先程の店員さんが話しかけてきた。

「お兄ちゃんたち、兄弟?兄も大変だね」

「あっいや…あはは」

「中学生ぐらいが一番大変な時代だろ!反抗期が来る前にしっかり可愛がっとくんだぞ?あっはっは!!」

「…」

店員さんが大きな声で笑い飛ばした後、俺たちのトレーにうどんをそれぞれ置いてくれた。
おじさん…それはあかんて…。こいつこう見えてもしっかりした現役大学生だぞ…。
言うタイミングを俺はすっかり見失い、そのまま会計を済ませてしまった。

トレーを持って近くの席へと着席する。
りょうやは俺の向かい側だ。

それにしてもさっきからこいつ、妙に静かだ…
理由は分かりきっているけどな。

「気にすることないと思うぞ」

とさりげなくアドバイスを言っておく。
効果はいまいちのようだ。

黙ったままのりょうやを横目に、俺は箸を割ってうどんに手をつけようとした。
その時、

「先輩…」

「ん?」

顔をあげると、そこには目に涙を浮かべたりょうやがいた。
おいおいちょっと、なんでこいつ泣いてるんだよ

「僕ってっ…ぐすっ、そんなにダメなんですかね…っ、」

「…」

何も言葉が思いつかない。
ダメなことなんてない、そう声をかけてあげたかったけど、その後に何を繋げばよかったか俺には見当もつかなかった。
やっぱり昨日のこと気にしてるな…

りょうやの泣き声は、
陽気なBGMにかき消されるように、やがて消えていった。
俺は何もできずに、ただ湯気を立てるかけうどんをズルズルとすするしか無かった。

続く
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