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第一章 澄清
クリスマスデート大作戦⑤
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りょうやが、たった今、目の前で彼女にフラれた。
そんな事実が、俺には信じられなかった。
あんなに嬉しそうな顔でデートに行くと意気揚々に話していたりょうやが。
すると、耳につけたままの盗聴器から、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
誰でもないりょうやの幼い声だが。
…俺はどうすればいい?
後輩がすすりなくのをただ盗聴しているだけの変質者に、俺はなりたくない。
そう思うと、いつの間にか足を動かしていた。
ベンチの前まで行くと、座りながら腕を組んで、その上にうつ伏せになり丸まっているりょうやが見えた。
茶色のコートには、雪が降り積もっているように見える。
丸まっている姿は、まるで冬の寒さに凍える子犬のようだった。
りょうやを横目に見ながら、俺は彼女さんが座っていたところに腰を下ろす。
どうやら気づいていないようだ。
小さくて弱々しい鳴き声が、刻々と俺の胸を締め付ける。
「りょうや」
「ぐす、、、えっ、、先輩…?」
りょうやが顔を上げて俺に気づくと、俺はそっと、りょうやを頭から抱きしめた。
どうしてそうしたのか、俺もはっきりとわからない。母性本能などという曖昧なものではない気がする。
ただ、後輩を慰めてあげたい、といったところだろうか。
「な、なんでっ…ぐすっ、ここ、、お台b…、ば、ばいとは…」
「そんなこと気にしなくていいから。」
「でもぉっ、な、ばいっ…ひっく、、ぼくっ、、」
「今は泣いてスッキリしようぜ」
「...」
しばらく黙り込んだ後、りょうやは俺の胸の中で。大きな声をあげながら泣いた。
わんわんと、自分の中にある感情を吐き出しながら。
俺も黙って背中をさすりながら、ぎゅっと抱きしめた。
正直彼女にふられるなどという感情は人生で一度も知らない。
恋愛アニメぐらいの知識量しかない俺は、ただ抱きしめてあげるのが一番だと思った。
波の音を聞きながら、サラサラと舞う雪の結晶が髪におちる。
たまには後輩をただ抱きしめるクリスマスイブも、いいものだなと俺は思った。
5分後、りょうやの嗚咽も落ち着いてくると、俺はそっと抱きしめていた手を離した。
「飲み行こうぜ。俺奢りで。」
「…はい」
「立てるか?」
「…はい」
壊れたステレオみたいにただ返事をするりょうや。
俺たちは黙ってスタスタと駅の方向へと歩いていく。
周りには手を繋いだり肩を抱いたりするカップルも歩いている。
ショッピングモールのあたりに着くと、クリスマスの陽気な音楽とともにフェスが行われていたが、それを横目に俺たちは駅への連絡通路を歩いて駅の中へと入った。
電車に乗っても、りょうやは始終無言でしたを向いていた。
スッキリしたはずなんだがな…もっとなんか言ってあげればよかったのか…?
こんな状況は初めてなもんで、なんて声をかければいいのか俺にもわからない。
電車を降り、りょうやの自宅の最寄り駅から出ると、雪はさらに大きくなっていた。
高架下にある適当な居酒屋に入る。店内は賑わっており、二人席に案内される。
とりあえず生ビールを2本注文する。
店員の年齢確認にはりょうやは応じ、確認は取れたようだが、やはり彼女さんに言われたことをひきづっているのだろう。
ビールが届いた。
すると俺がジョッキに入った黄色いしゅわしゅわとした液体を、数口飲み込むと、りょうやも同じように口の中に流し込んだ。
ちなみにりょうやとは何度か飲みに行ったことがある。見た目に反して酒にはかなり強い。ビール数ジョッキは余裕のようだ。
お店に入ってから30分。りょうやは…やけ酒をしていた。
「なんなんですかぁっ!!なんで僕がふられないといけないぃっ、ぐすっ、んですかぁ!!」
「一回落ち着けって…な?」
周りからすると、失恋した中学生が暴言を吐きながら酒を飲んでいるようにしか見えない。
周りの視線が痛い。頼むから早く落ち着いてくれ
「落ち着いていられないですよっ!うええんんんっ…」
泣きながらジョッキに入っている残りのビールをグビグビと飲む。
「ぷはぁっ、ううぅっ、ぐすぐす…」
からになったジョッキ瓶を机に打ち付けると、店員にあと1つ生ビールを注文した。
「先輩の奢りですからねっ、、ひっく…」
「わかったよ…」
「っていうか~!なんで先輩がっ…さっきぃ、いたんですか」
「まあ色々あってだな。」
「しかも、、わざわざ一人で泣いてる時にぃっ、もおっ!」
「…」
何に怒っているのか分からない。
俺なんも悪いこともしてないよな?
そうだよな?
「先輩ぃ…」
「んあ?」
「もういっそ…、ぐす…、先輩が…僕を守ってくれないですか」
「…どういう意味だ」
「そんなのわからないです!」
結局りょうやは生ビール5杯と10品以上のおつまみを軽々と平げ、机に突っ伏して寝てしまった。
結局愚痴しか聞いてやれなかったような気がする。もう少し励ますような話をしてあげたかったが、あいにく俺はそんな才能を持ち合わせていない。
何度もこいつとは飲みに行ったが、やはり中学生のような幼い顔を赤く染めるのは罪悪感がある。
しかしこいつ、やっぱり可愛い。
店長や鈴音が釘付けになるのもわかる気がする。
断っておくが俺は断じてショタコンでもホモでもない。
時計はすでに10時を過ぎていたので、会計をして、りょうやをおんぶして家に向かう。小さいので簡単に背負えた。
さっきまで強かった雪は、飲んでいる間に止んでしまったようだ。
積雪した地面で滑らないように注意して歩く。
数分間上り坂気味の歩道を歩くと、アパートに到着だ。
本人はまだぐっすり寝ているようなので、2階までそのまま背負い、カバンの中に入っていた鍵でドアを開ける。
急いでいたからなのか、家の中は散らかっていた。
机にはデートプランなるものも見える。
こんなに準備していたのにな…、と可哀想になった。
まだ起きる気配もないので、とりあえずベッドに放置して勝手に着替えを漁る。
適当なTシャツとズボンを取ると、本人のズボンとシャツを脱がせて着替えさせる。
男同士だからこんぐらいはな。でも流石にパンツはやめておいた。うん。
布団を被せて、部屋の暖房をつける。
すると、
「先輩ぃ…」
というような声が聞こえた。
振り返ると、相変わらず赤く染まった顔ですやすやと寝ている。
寝言か。と思い、返事はしないでおいた。
部屋の鍵を閉め、外のポストに入れておく。
盗まれることは流石にないだろう。こんな聖夜に部屋の鍵を盗みにくるやつはサンタぐらいだ。
おっと、これはサンタへの誹謗中傷に当たるのか。
「…俺が守ってあげる、、か」
その言葉の意味を考えながら、俺は雪が降り積もる道を踏みしめ家路に着いた。
続く
そんな事実が、俺には信じられなかった。
あんなに嬉しそうな顔でデートに行くと意気揚々に話していたりょうやが。
すると、耳につけたままの盗聴器から、誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
誰でもないりょうやの幼い声だが。
…俺はどうすればいい?
後輩がすすりなくのをただ盗聴しているだけの変質者に、俺はなりたくない。
そう思うと、いつの間にか足を動かしていた。
ベンチの前まで行くと、座りながら腕を組んで、その上にうつ伏せになり丸まっているりょうやが見えた。
茶色のコートには、雪が降り積もっているように見える。
丸まっている姿は、まるで冬の寒さに凍える子犬のようだった。
りょうやを横目に見ながら、俺は彼女さんが座っていたところに腰を下ろす。
どうやら気づいていないようだ。
小さくて弱々しい鳴き声が、刻々と俺の胸を締め付ける。
「りょうや」
「ぐす、、、えっ、、先輩…?」
りょうやが顔を上げて俺に気づくと、俺はそっと、りょうやを頭から抱きしめた。
どうしてそうしたのか、俺もはっきりとわからない。母性本能などという曖昧なものではない気がする。
ただ、後輩を慰めてあげたい、といったところだろうか。
「な、なんでっ…ぐすっ、ここ、、お台b…、ば、ばいとは…」
「そんなこと気にしなくていいから。」
「でもぉっ、な、ばいっ…ひっく、、ぼくっ、、」
「今は泣いてスッキリしようぜ」
「...」
しばらく黙り込んだ後、りょうやは俺の胸の中で。大きな声をあげながら泣いた。
わんわんと、自分の中にある感情を吐き出しながら。
俺も黙って背中をさすりながら、ぎゅっと抱きしめた。
正直彼女にふられるなどという感情は人生で一度も知らない。
恋愛アニメぐらいの知識量しかない俺は、ただ抱きしめてあげるのが一番だと思った。
波の音を聞きながら、サラサラと舞う雪の結晶が髪におちる。
たまには後輩をただ抱きしめるクリスマスイブも、いいものだなと俺は思った。
5分後、りょうやの嗚咽も落ち着いてくると、俺はそっと抱きしめていた手を離した。
「飲み行こうぜ。俺奢りで。」
「…はい」
「立てるか?」
「…はい」
壊れたステレオみたいにただ返事をするりょうや。
俺たちは黙ってスタスタと駅の方向へと歩いていく。
周りには手を繋いだり肩を抱いたりするカップルも歩いている。
ショッピングモールのあたりに着くと、クリスマスの陽気な音楽とともにフェスが行われていたが、それを横目に俺たちは駅への連絡通路を歩いて駅の中へと入った。
電車に乗っても、りょうやは始終無言でしたを向いていた。
スッキリしたはずなんだがな…もっとなんか言ってあげればよかったのか…?
こんな状況は初めてなもんで、なんて声をかければいいのか俺にもわからない。
電車を降り、りょうやの自宅の最寄り駅から出ると、雪はさらに大きくなっていた。
高架下にある適当な居酒屋に入る。店内は賑わっており、二人席に案内される。
とりあえず生ビールを2本注文する。
店員の年齢確認にはりょうやは応じ、確認は取れたようだが、やはり彼女さんに言われたことをひきづっているのだろう。
ビールが届いた。
すると俺がジョッキに入った黄色いしゅわしゅわとした液体を、数口飲み込むと、りょうやも同じように口の中に流し込んだ。
ちなみにりょうやとは何度か飲みに行ったことがある。見た目に反して酒にはかなり強い。ビール数ジョッキは余裕のようだ。
お店に入ってから30分。りょうやは…やけ酒をしていた。
「なんなんですかぁっ!!なんで僕がふられないといけないぃっ、ぐすっ、んですかぁ!!」
「一回落ち着けって…な?」
周りからすると、失恋した中学生が暴言を吐きながら酒を飲んでいるようにしか見えない。
周りの視線が痛い。頼むから早く落ち着いてくれ
「落ち着いていられないですよっ!うええんんんっ…」
泣きながらジョッキに入っている残りのビールをグビグビと飲む。
「ぷはぁっ、ううぅっ、ぐすぐす…」
からになったジョッキ瓶を机に打ち付けると、店員にあと1つ生ビールを注文した。
「先輩の奢りですからねっ、、ひっく…」
「わかったよ…」
「っていうか~!なんで先輩がっ…さっきぃ、いたんですか」
「まあ色々あってだな。」
「しかも、、わざわざ一人で泣いてる時にぃっ、もおっ!」
「…」
何に怒っているのか分からない。
俺なんも悪いこともしてないよな?
そうだよな?
「先輩ぃ…」
「んあ?」
「もういっそ…、ぐす…、先輩が…僕を守ってくれないですか」
「…どういう意味だ」
「そんなのわからないです!」
結局りょうやは生ビール5杯と10品以上のおつまみを軽々と平げ、机に突っ伏して寝てしまった。
結局愚痴しか聞いてやれなかったような気がする。もう少し励ますような話をしてあげたかったが、あいにく俺はそんな才能を持ち合わせていない。
何度もこいつとは飲みに行ったが、やはり中学生のような幼い顔を赤く染めるのは罪悪感がある。
しかしこいつ、やっぱり可愛い。
店長や鈴音が釘付けになるのもわかる気がする。
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時計はすでに10時を過ぎていたので、会計をして、りょうやをおんぶして家に向かう。小さいので簡単に背負えた。
さっきまで強かった雪は、飲んでいる間に止んでしまったようだ。
積雪した地面で滑らないように注意して歩く。
数分間上り坂気味の歩道を歩くと、アパートに到着だ。
本人はまだぐっすり寝ているようなので、2階までそのまま背負い、カバンの中に入っていた鍵でドアを開ける。
急いでいたからなのか、家の中は散らかっていた。
机にはデートプランなるものも見える。
こんなに準備していたのにな…、と可哀想になった。
まだ起きる気配もないので、とりあえずベッドに放置して勝手に着替えを漁る。
適当なTシャツとズボンを取ると、本人のズボンとシャツを脱がせて着替えさせる。
男同士だからこんぐらいはな。でも流石にパンツはやめておいた。うん。
布団を被せて、部屋の暖房をつける。
すると、
「先輩ぃ…」
というような声が聞こえた。
振り返ると、相変わらず赤く染まった顔ですやすやと寝ている。
寝言か。と思い、返事はしないでおいた。
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盗まれることは流石にないだろう。こんな聖夜に部屋の鍵を盗みにくるやつはサンタぐらいだ。
おっと、これはサンタへの誹謗中傷に当たるのか。
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