上 下
3 / 9
第1章 移住

1学期最終日

しおりを挟む
それからはというものの、引越しに向けての話は早かった。
転校の準備や引越し業者の手配。
休日は荷物をまとめるのに忙しすぎてもはや鉄道どころじゃなかった。
夏休みまであと2日。ほとんどのものがなくなった部屋には、プラスチックの小さな机と布団が残されていた。

父さんの仕事はかなり急のようで、急いで準備をしないと仕事に間に合わないみたい。
今日出された算数の宿題を終わらせると、リビングにでて窓から駅を見下ろした。

時刻は既に8時を回っており、暗闇に包まれた空の下でも、夜の街は忙しそうに灯を灯している。
もちろん駅からも、車窓から光を漏らした電車が発車していくところである。
そんな街を眺めていると、ここから離れることになることを実感してしまい、少し寂しい気持ちになる。
もちろん新しい街に期待がないわけでもないが、寂しさがより上回っている。

「晴翔~、ご飯食べるよ~」

母さんに呼ばれ、簡易な食卓に向かうと、買ってきたスーパーの弁当を黙々と食べ始めた。

そして次の日になると、今の学校の最後の登校日。
いつものようにランドセルを背負って、エレベーターに乗って下に降りていく。

玄関から出ると、むっとした暑い空気にふれる。

「あっつ…」

と思いながらも、今日が最後だからと、通学路をもう一度見ておこうと思った。

友達と遊んだ近くの公園や、帰り道にたまによるコンビニ。
これまでの記憶が蘇ってくると、思わず涙が込み上げてくる。

学校に着くと、クラスのみんなから別れの言葉などを言われた。
泣いていたやつもいた。もちろん僕も。
「晴翔とのお別れ会」っていうサプライズもあって、最後の日を充実して送れたような気がする。
帰り道はいつもの友達のメンバーで長い間しゃべったりしていた。
6時ぐらいになると、流石に空も暗くなってきたので、お別れの言葉とかを言って解散。
そのまま家に帰るのもよかったけど、どうせなら駅によってから。


「ピ~ンポ~ン」

と音が鳴る改札機に80円の入場券を通し、コンコースからホームに降りる。
相変わらず慌ただしそうな人々が行き交う大きな駅だが、いつも見ていた風景の一つでもある。

「1番線に、普通、~~行きの電車がまいります…」

と、アナウンスが流れ、少しすると真ん中にオレンジ色の線が入った電車が勢いよく入線してきた。
風を切り裂き入線してきた電車は、いつもと違って少し寂しく感じられた。

ドアが開くと、人々が波のように中へと入り、満員列車になる。

「~~~♪」

聴き慣れた発車メロディーがなると、ドアが閉まる。
インバータがういいいいんと、音を立てると、電車がゆっくり発車して行った。

今までの思いと、そして、新たな地への希望が、そこに詰まっていたような気がした。

続く


=専門用語解説=

・入場券
駅に入るだけで何も乗らない、という場合には、入場券が必要である。
それを改札に通すと、電車には乗れないが駅の中を撮影したり、立ち食いそばを食べに行ったりなどができる。

・発車メロディー
文字の通り、発車する時に流れるメロディーである。
場所によって違う音楽が流れ、駅によってはご当地メロディーが流れることがある。
なお、メロディーがなり終わってからの駆け込み乗車は危険のため、しないようにしていただきたい。
(これの後に電車がない!などの場合は迷惑をかけずに!!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!? ※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。 いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。 しかしまだ問題が残っていた。 その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。 果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか? また、恋の行方は如何に。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

自称チンタクロースという変態

ミクリ21
BL
チンタク……? サンタクじゃなくて……チンタク……? 変態に注意!

処理中です...